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Sランク冒険者が闇バイト無双  作者: ヒナツキスバル
第四章 本部案件
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戻ってこいよ

 数日後。


西日の差し込む池袋人材サービスに、ようやくヒロナリの姿があった。


銀座の強盗事件以降、逮捕こそされなかったものの、連日のように警察署へ呼び出され、事情を聞かれていたらしい。前日には事務所へ捜索も入った。


もともとレンが荒らしたままだった室内は、以前にも増して酷い有様だった。


倒れたままの家具。

開け放たれた引き出し。

床に積み上げられた書類。


その中で、くたびれたスーツ姿のヒロナリが煙草をふかしながら、段ボール箱へ自分の私物を放り込んでいる。


あの強盗事件を境に、本部とは完全に連絡が取れなくなった。

レンやソウシのものと同じように、黒いアイコンのアプリも何の反応もしない。


末端だった自分は切られた。

そのくらいのことは、ヒロナリにも分かっていた。


◇


コンコン。

入口からノックの音がする。


ドアが開き、ソウシが顔を覗かせた。

「……あぁ、やっと居た」

その後ろにはレンもいる。


「チッ、オメェらか」

「どうしてんのかと思って何日か来てたんだけど、居なかったからさ」


「まったくよ……オメェらのせいで散々だよ」

「……やっぱり、警察に呼ばれてたのか?」

「おう。あの日からミッチリよ」

「その……大丈夫なの?」


「あ? とりあえずすぐにぶち込まれるようなことにはなってねぇよ」

ヒロナリはそこで少し言葉を切った。

「でも、タダじゃすまねぇだろうな」


それだけ言うと、また箱の中へ私物を放り込む。


「ここは……どうなるの?」

「俺にもわからねぇ。あの強盗事件の直後から、本部と一切連絡が取れなくなっちまった」

「あのアプリが……開かなくなっていたな」

「こっちも同じだ。それに、あいつとも連絡つかねぇ」

「舎弟の人?」

「おう。電話もメッセージも全部シカトだ」


ヒロナリは煙草を灰皿へ押しつけた。

「まあ、解散だろうな」


しばらく誰も何も言わなかった。

夕方の光だけが、散らかった事務所の中へ斜めに差し込んでいる。


「……なあ、ヒロナリ」

「あ?」


ソウシは少しだけ視線を落とした。

脳裏に、数日前ミキちゃんから言われた言葉が蘇る。


『知らなかったなら仕方ないよ。でもパイセン、途中で何度も気づいてたよね?』

『怖かったのはわかる。でもそれで、なんでもしていいことにはなんなくない?』



「この前話した時、そんなにお綺麗に生きてるつもりはねぇよって言ってたけどさ」

「……」

「ここまでのことになる前に、お前だっておかしいと思ったことあったよな?」


「なんだよ急に。説教かよ」


何かが込み上げてくるような気がして、ソウシは眼鏡の奥を擦った。


「そこで踏みとどまらなきゃダメだったんだよ」

声が少し震える。

「俺だってそうだ」

「……」

「何回も、お前に断らなきゃって思ってた。怪しいってわかってた」


ヒロナリは黙ったままだ。


「それでもズルズル断れなくて……多分、レンがいなきゃ戻れなかった」


「………」

「お前は俺とは違う、そんな奴じゃなかったじゃんか」

ヒロナリの表情が、ほんのわずかに動いた。


「戻ってこいよ、ヒロナリ……」

それだけ言うと、ソウシは俯いた。


ずっと黙って二人を見ていたレンが、そこで口を開いた。

「……俺は未だに、貴殿が全くの悪人だったとは思えないのだ。ギルド長殿」


「……」

「あの日受けた一宿一飯の恩は、間違いなく貴殿の本心だったはずだ」


レンは真っ直ぐヒロナリを見る。


「知らなかったことで、すべての責任がなくなるとは思わない」


ヒロナリは何も言わない。


「だが、過ちを犯したからといって、それまでの善意まですべて偽りになるとも思わない」



「ふん……」

ヒロナリは新しい煙草を一本取り出し、火をつけた。

でかい口から吐き出された煙が、ゆっくりと天井へ昇っていく。

しばらくその煙を目で追ったあと、ヒロナリは箱の中へ視線を落とした。


「そーだなー……」


煙草を咥えたまま、少しだけ考える。

「落ち着いたら、またやっか」

「……」

「今度はマトモな人材派遣会社をよ」


ソウシは少しだけ顔を上げた。

「……今度があればな」

「うるせぇよ」


「まあ、見た目だけは社長っぽいし」

「見た目だけってなんだコラ」

ソウシが小さく笑う。

ヒロナリも、口元だけでわずかに笑った。


レンはそんな二人を見て、ほんの少し表情を緩める。

一見すれば親子と見間違えそうなほど、見た目の違う二人。

それでも二人は同じ年齢で、同じ時代を過ごしてきた。


今のやり取りを見ていると、二人がまだ少年だった頃の姿まで、なんとなく想像できるような気がした。


「今度は良いギルドになるはずだ。ギルド長殿ならば」


「……」


ヒロナリは煙草を指に挟んだまま、レンを見る。

「……最後に一ついいか」


「何だ?」


 少しだけ間が空く。


「………ギルド長じゃねぇんだけどな」


◇


 数日後。


南池袋公園前のコンビニ。


「らしゃせー」

ミキちゃんの気の抜けた声が店内へ響く。

いつもの日常が戻ってきた。


銀座の強盗事件も、築地警察署での長い事情聴取も、池袋人材サービスの解散も。


慌ただしかった日々は、ひとまず過ぎ去った。

ソウシは品出しを終え、レジカウンターの中へ戻ってくる。


隣では、客が途切れた隙にミキちゃんがスマートフォンを眺めていた。

ふと、画面を見たまま口を開く。


「あ、今日あーにゃん池袋来てるじゃん」

「えっ!? あーにゃん?」

ソウシは思わず前のめりになった。


その食いつき方に、ミキちゃんが少しだけ引いた顔をする。


「……え。秋山パイセン、あーにゃんとか好きなんすか?」

「めっちゃ好きだけど」

間髪入れずに答えた。


「え、即答キモw」

「なんでだよ!」


ミキちゃんは笑いながら、再びスマートフォンへ目を落とした。


けれど。

その直前まで彼女が見ていたのは、いつものSNSではなかった。


メッセージアプリ。

そこには友人から届いた、数件のメッセージが並んでいる。


『まりなー、前言ってたやつなんだけどさ』

『あーにゃんの紹介だからマジ安心だよ?』

『ごはん食べるだけで2だって! やばくない?』


「……へー」

ミキちゃんは、それ以上特に興味を示さなかった。

メッセージアプリを閉じ、そのままスマートフォンをしまう。


「あっ、パイセン! ウチ洗い物しちゃうんでレジ見ててくださーい!」


「はいはい」

ミキちゃんはいつもの調子でバックヤードへ向かった。

ソウシはレジに立つ。


自動ドアが開いた。

「いらっしゃいませー」


いつものコンビニ。

いつものバイト。

いつもの池袋。


何も変わっていないように見えた。


けれど、

ソウシも

ミキちゃんも

まだ知らない。


そのスマートフォンへ届いていた何気ないメッセージが、次の事件の入口になっていることを。



 ――第一部「闇バイト編」完――



 第二部


『Sランク冒険者が推し活したらパパ活だった』


 へ続く。

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