はじまりのはじまり 1
「きみがぁぁぁぁ好きだぁぁぁ」
呼吸ができなくなるくらい叫ぶ。
私の周りの風景は、いつもどおりの教室に戻っていった。
ギターの音が反響して、10人くらいが存在しているこのちっぽけな檻に音が充満する。
なんて素晴らしいのだろう。
生きているそんな気がしてくる。
ギターを弾いている手は震えていてコードをおさえられなくなっている。
拍手がくる。
1000人の拍手が私を包み込むんだ。
なぜだろう・・・
遠くから声がするのだ。
「日和さん。検診の時間ですよ。」
目を開くと見なれた天井にくっついている蛍光灯が、私に少し遅い朝の挨拶をした。
「日和さん。こんにちは。今日は・・・」
ここ一週間ずっと泊りがけで健康診断をしているのだ。禿げている頭に光があたり眩しすぎて顔が見れない。私はドアのほうに顔をそむけ
「わっかりましたー、一時間後にいつものとこで待ってます。準備しますから・・・いいですか」
そういうと医者は、最近の若者は・・と目で私を責めてきた。作り笑いがひきつっている。馬鹿みたい。医者は、私が溜息をついた瞬間にギラッっと一回私を睨んで病室を出て行った。・・コンコン・・・ドアをノックする音が響く。「どうぞ」という前にドアは開いて、音楽仲間のヨウがコーラを飲みながらズカズカと入って来る。
「女の子の部屋なんですけど。」
「良いじゃん。別にお前の家じゃないし。」
空になった缶をベッド越しにある小さなゴミ箱に投げながらヨウは続けた。
「個室なんだーー。お前ガンなんだっけ?」
「どこの知識だよ。馬鹿じゃないの・・・」
私はゴミ箱のほうに目をやった。見事に入っている。私は唖然とした顔でヨウを見かえすと、にこっと笑い
「こういうの得意なんだ。もしかしてーーー・・・」
と言いながら私のベッドに座った。
「惚れた?」
「バーカ。ありえない。」
少しの沈黙の後、ヨウは笑った。
「ロビー行こーぜ。のど乾いた。」
私は何も言わずに、つまり了解したという思いをもってドアのほうへ歩いていった。その後ろをヨウがついてくる。
「今日はヨウのおごりってことで!!」
「マジかよ。さっきコーラ買ったから金が。」
ヨウはものすごく残念そうにして次の瞬間には走り出していた。
「歩いてこいよ。先買っとくから。」
ものすごい勢いで廊下を走っていく。やれやれ、子どもは困るなぁ。私は溜息をつくのだった。
ロビーの椅子に座っていると、25分くらいしてヨウはやってきた。
「遅かったね。迷った?」
「ナースさんって怖いな。怒られた。」
そう言ってコーラを私に投げた。少しヨウの目は潤んでいた。
「走ったからでしょ?あんたが悪い。」
私はコーラをキャッチし、ヨウを少しいじってみようと思い冷たく言い返した。
「だってさーー。・・・うーーー。」
これ以上は「めんどくさくなる」と思ったので話題を変えることにする。
「ユミちゃん元気?」
ユミとは私の友達でヨウの彼女である。今は夏休みでまったく会っていないが今度遊ぶ約束をしているから友情は壊れない。
「部活だってさ。俺バド部のマネージャーやろうかな。」
私の口は自然と真実を言い始めていた
「絶対むいてない。やめときなよ。絶対に無理だよ。本当に無理だと思う。」
「うーーーーー。」
しまった、と思った時には既に遅かった。
「・・・ごめん。言い過ぎた。」
「許す。それより曲かけた?」
立ち直りが早い!!曲がどうした?展開がわけわからん。私は頭は悪くない。
「エロい曲がいいです。」
「えっ・・はっ。バッカじゃないの?」
「てか今日の服なんかスゲーな。手術前みたい。」
「検診だからね。」
私たちは笑いあった。
「その服エロくね?」
「彼女に言うぞ」
「ごめんなさい」
コントをしているようで楽しい。その後も夏について熱い論議をかわしていると、私を呼ぶ放送が流れてきた。約束の時間から20分も過ぎていたのだ。
「呼ばれたから行くね。」
「おぉ・・・ガンの治療?」
「不謹慎だからやめな。」
僕の言葉に日和は怒るように言い返しながら、それでも笑いながら歩いて行った。僕は大きく手を振ってみた。日和は振り返ることなく上の階に上って行く。
もしさっき一人でジュースを買いに行かなければ・・・そして上の階ではなくロビーの自動販売機でジュースを買っていれば、僕は日和の病気を知ることはなかっただろう。
体中の筋肉が骨になる病気なんて知ることもなかっただろう。今の僕はどうしたらいいかなんてわかんなかった。




