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収穫祭 「私の心臓を掴むあなたの手が冷たくも温かい」  作者: 秦江湖


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きっかけ

小野寺は可能な限り、卒業後の千尋と一華の痕跡をまとめていた。


捜査本部全体では福山による犯行として捜査方針を決定して、最初の失踪は殺人事件とは無関係というのが本部の方針になっている。


小野寺は福山犯人説には今でも懐疑的だった。

たしかに自分の推理には飛躍しているところがある。

しかし、今はまだ見えていないもののベールが剥がれれば、綺麗に繋がるという自信があった。


滝川という警部補からは捜査一課と所轄の刑事にある溝は感じられなかった。

だから彼を通して少しでも自分の意見を捜査に反映させたかったが、橋本千尋宅の一件で全てがご破算になってしまった。


もう自分は捜査本部から外されてしまったのだから彼女たちを捜査できない。

二人に目をつけていた小野寺は時間が許す限り、まず小川一華の周辺を探っていた。

しかしなかなか成果が出てこず、共犯と見ている橋本千尋の周辺を探りだしたのがこの前の一件だった。

こうなるとこれまで以上に時間と労力はかかるが、やるしかない。


この事件が全て繋がっていると仮定すると、最初の被害者は現在も行方不明の田島紅音。同じく小田末莉。


両名とも生死不明だが、小野寺はすでに殺害されたものと踏んでいる。


次の犠牲者は高橋智花。

行方不明になってから無惨な姿となって発見された。


高橋智花の遺体から、四番目の行方不明者である、元担任の福山一成の指紋と高橋智花の血液が着いたナイフが出てきている。


五番目の行方不明者が小橋愛。


小橋愛は失踪前に会社へ病気療養のために退職する旨をメールしている。

そして先日、友人である関本果歩の遺体と一緒に小橋愛の遺体が発見された。


関本果歩は六番目の被害者となる。


小橋愛と関本果歩は橋本千尋の中学時代から交流があり、彼女にとっては特に親しい友人だ。


この時点で、普通なら小川一華は容疑者から除外される。

橋本千尋も同じだ。



小野寺はこれら一連の犯行は全て小川一華と橋本千尋が関与しているものと考えていた。


たしかに、被害者六人のうち三人は小川一華を直接いじめていて、母親を自殺にまで追い込んだきっかけを作った者たちだ。


福山一成は当時担任でありながら、いじめを放置していた。


結果的に最悪な事態を招く結果になっている。


この四人に小川一華が復讐するために、当時の友人だった橋本千尋が協力するというのは、一応筋は通っている。


だが、小橋愛と関本果歩はなんら関係ない。


仮に復讐による犯行を誤魔化すために、あえて無関係な被害者を作り出すにしても、二人は現在でも橋本千尋の友人であり、その殺害に橋本千尋が協力するとは思えない。

付き合いから考えれば、二人の方が小川一華よりはるかに時間を過ごしているのだから。


では、小川一華の恋人が協力者ならどうか。


これなら小橋愛と関本果歩を殺害することに、橋本千尋ほど抵抗は感じないだろう。

むしろ警察の捜査対象から小川一華を外すためなら積極的に加担するかもしれない。


だが、全ての犯行を小川一華が主導で恋人が協力したとなると最初の二人は除外されることになる。

その時期、二人はフランスにいた。


小川一華は何度か帰国しているが、いずれも一日、二日と極短期間しか滞在していない。

その間に人にも会っているし、代理人も同行している。


一人になる時間はあっても、その間に拉致して殺害する、遺体を発見されないように処分するなど可能だろうか?


その間、小川一華の恋人が日本に入国した記録はない。



そこで小野寺はある仮説を立ててみた。


小川一華が日本に活動拠点を移す前と後で事件を分けてみる。

活動拠点を移す前の被害者二人に関しては橋本千尋が協力した。


移したあとは恋人が協力した。


これなら全ての犯行を小川一華主導で行うことができる。

だが、それを証明出来るものが何もない。



次に、何件もの殺人に加担するのはどういう人間だろう?


橋本千尋という人間は、かつての友人が復讐をしたいからといって加担するような人間だろうか?

面と向かって話した印象では、とてもそんな人物には見えなかった。


それは小川一華も同じだ。

とても人を殺すようには見えないし、刑事を前にしてあれだけ普通にしていられるだろうか。

なにか疚しいことがあれば、目や表情、仕草や気配に出るものだが、あの二人には微塵も無かった。


橋本千尋と小川一華の経歴を並べてみる。


橋本千尋は小学五年生のときに母親が、自宅の裏庭にある古井戸に転落して事故死している。

これは当時の資料を見る限り事件性はない。


その後、父親と二人暮らしになり、引っ越してきた先の中学校で小川一華と出会う。

小川一華は橋本千尋と親しく交流するようになってから、義理の父親が失踪。

母親が自殺している。



「どことなく似ているな」と、小野寺は思った。


小川一華は転校後にクラスの中心的存在となっている。

それまでは内向的で、クラスの中に溶け込めず、いじめにもあっていた。


転校後は人が変わったように社交的になり、いじめを止めさせたとも聞いた。

だが、不幸なことにいじめられていた生徒は、その後いじめていた相手に抱き着きながら駅に入ってきた電車に飛び込んで絶命している。


その駅のホームには小川一華も複数の友人と一緒にいた。

いじめられていた生徒は、いじめを止めた小川一華と仲良くなり、学校でもよく一緒にいたそうだ。

これは小川一華が転校前に橋本千尋にいじめから助けてもらった後とよく似ている。



小川一華も橋本千尋と非常に親密になった。


似ているといえば、橋本千尋も高校で親しいクラスメイトが事件を起こしている。


当時全国的に有名になった「両親毒殺事件」だ。


小野寺はこの事件に関わることはなかったが、連日狂ったように報道されていたことは覚えている。

当時、高校一年生の少女が両親に鈴蘭の毒を食事に混入させて殺害したという事件だ。


両親の死を確認した少女は自ら警察に通報している。

逮捕後の供述も意味不明で、およそ理解しがたいものだった。


鑑定内容は非公開だったが、家裁は犯人の少女を医療少年院に送る保護処分を決定している。


小川一華の場合は橋本千尋と親密になってから、虐待していた父親が失踪して母親が自殺している。


橋本千尋に会ってから二人の少女の人生が急転している。


一人は医療少年院を出所後、社会の悪意と好機の目から逃れるように暮らし、もう一人は芸術家として大成し、何不自由なく暮らしている。


現在では正反対だが、橋本千尋と出会ってからの経緯や環境は驚くほど似ていた。



小野寺は考えた。理不尽な相手に苦しめられた友人の復讐に加担する人間がいたとしたら、人に人を殺させることに執着する人間もいるのではないだろうか。


瞬間、橋本千尋と初めて会ったときのことを思い出した。


小川一華の母親が自殺した現場で、放心したような友人を抱きかかえながら、場に似つかわしくない笑顔で自分たち警察を迎えた橋本千尋。

そして友人の母親が自殺した、遺体がまだ手付かずの現場で異常ともいえるほどの冷静さ。


小野寺にとって橋本千尋は違和感の塊だった。



橋本千尋。彼女がどういう人物なのか知る必要がある。

それも、人に対してどう接する人物なのか。


小野寺は「両親毒殺事件」の犯人である少女、現在は27歳になる女性に会うことにした。

彼女が事件当時に橋本千尋となにを話して感じたのか。橋本千尋はどのように接してきて、どんな言葉をかけたのか。それを知りたかった。



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