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収穫祭 「私の心臓を掴むあなたの手が冷たくも温かい」  作者: 秦江湖


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やさしさ3・千尋

浩平は私を描き始めた。


その目は真剣そのもので、芸術に打ち込んできたことが本当だとわかる。

私は描かれている間にキャンパスを走る鉛筆の音を聞きながら、真剣な彼の表情を見つめていた。



休憩をはさんで二時間のモデルが終わった。



「やっぱり動かないでいるのってけっこう疲れるのね」


肩を回しながら言う私に浩平は礼を言った。


「どんな感じになってんのか見せて」


私は浩平の側によると、方に両手をかけて体を密着させた。


「ふうん。こんな感じになるんだね。とっても綺麗で、なんだか私じゃないみたい」


言いながらキャンパスの傍らに置かれた鉛筆をさりげなく手に取った。


「ありがとう浩平。綺麗に完成させてね」


浩平の顔に自分の顔を寄せる。

するといきなり浩平は私を抱きしめてきた。


「ちょ、ちょっと!浩平!」

「好きなんだ」


言いながら私をベッドに押し倒す。

やっぱりこうなったか。残念だけど仕方ない。


「ダメよ浩平!こんなのダメ!」

「どうして?好きなんだろう俺のことが」


私を押さえつけようとする浩平の力はさすが男のものだった。

私はすかさず、手に持っていた鉛筆を浩平の耳の中に差し入れた。


「動かないで。動くと耳の奥に突き刺さるわよ」


笑顔で言うと浩平は動きを止めた。


「しばらくこのまま動いちゃダメだよ。これから私の質問に嘘偽りなく答えること。わかった?」


耳に入れた鉛筆を動かす。


「わ、わかったよ。答えるよ」

「いい子ね」


顔面蒼白になった浩平を見て、私は微笑んだ。


「いい?もし抵抗してこの手を無事に抜いても、私は警察にあなたのことを訴えるから。私の服にも体にもあなたの指紋がついているの。普段のスキンシップでは着かないような場所にね。あなたが私を強姦しようとした証拠。わかる?」


「ああ。わかるよ……」


「では質問するね。誰に頼まれたのかな?」


浩平の瞳孔が開いた。図星だったということだ。


「だ、誰にも頼まれてなんて」


耳の中の鉛筆を動かす。


「嘘偽りなく答えろと言ったでしょう?」


「だ、だって、なんで頼まれたなんて、俺はただ千尋が好きで」


「そんな噓バレバレだよ。だって昨日からのあなたはこれまでと違いすぎるもの」

「なんで?何が違うんだ?」


「教えてあげる。今までのあなたは繊細で紳士的な性格だった。こうして力尽くで女をものにしようという性格でないことはこれまで話していてわかっていたの。だって私と付き合おうと言って、私の説得に耳を傾けて納得した理性的な人が、なにをどうすればこうした犯罪行為に突然走るのか。そこであなたの昨日の服」


「服?」


「ええ。今までのあなたのセンスとも違っていたし、経済力でも無理があるものだった。そして強引なモデルのお願い。これは誰かに頼まれているなと思ったの。そして今日家に来てクローゼットを見たら同様の服がたくさんある。では、何を頼まれたか。私の絵を描いてほしい人がわざわざあなたに頼むとは思えない。そうすると頼まれたことは、自分の部屋に私を呼ぶことから考えて、今こうして私を襲っていること。私と無理やり関係を結ぶことを頼まれたのだろうと考えたの」



浩平の蒼白な顔には汗がにじんできていた。


「私の言ったことに間違いはある?」

「な、ない……」

「じゃあ誰に頼まれたの?私を犯す条件は?」


浩平は口を開かない。


「いい?このままゆっくり横になりなさい。余計な動きをしたら鼓膜を突き破って奥の器官にまで鉛筆が刺さるわよ」


浩平はうなずくと、ゆっくりと横になる。

私は浩平に合わせて体を起こしていく。

私が浩平の上になった。

鉛筆は耳に入ったまま完全に体制を入れ替えた。



「言いなさい。誰にどんな条件を提示されたか」

「そ、それは……」

「言わないということは、口止めされているからかな?」


浩平は目を逸らした。


「庇い立てするなら良いけど、このまま突き刺したら死ぬか重篤な障害が残るかも。しかも強姦未遂の罪までセットで。私はあなたに強姦されそうになったのを防ぐ正当防衛。必死に抵抗して揉み合っていたら刺さってしまった。庇ったところであなたが得るものは死ぬか犯罪者よ。それでいいの?」


浩平の口許が震えながら動いた。


「か、一華先生に……お、俺の絵を売り出してパートナーにしてくれるって」


一華の名前を聞いた私は、さして驚かなかった。


「なるほど。それが人間性を曲げてまで浩平が欲しかったものなのね」


なんと浅はかな男だろう。


「私と不倫して、一華のパートナー?そんな美味しいどこ取りの話しなんてあるわけないでしょう」


思わず口の端がつり上がった。



「私ね、浩平のことちょっぴり好きだったの。純粋に芸術に打ち込んでいる浩平は見ていて清々しかった。だからこうならないことを期待していたんだけどね。残念。残念すぎて頭にきた。やっぱり死になさい」


鉛筆を握る手に力を込める。


「や、やめて」


「そんな情けない声を出すんだね。でもあんまり笑わせると手が動いて刺さっちゃうよ」


「ひい!」


「アハハハハハ!アハハハハハ!」



笑いが込み上げてきた。


「このままゆっくり体を起こしなさい」


浩平は左耳に入った鉛筆を意識しながら、引きつった顔でゆっくりと体を起こした。

私もそれに合わせて後ろにさがる。


「耳から鉛筆を抜くから。その後にもし変なことをしたら取り返しのつかないことになるからね。わかった」


「は、はい」


ゆっくりと鉛筆を抜いてベッドから立ち上がると、浩平はそのまま腰が抜けたようにへたりこんだ。



「これから私の言うことをよく聞いて。いい?」


「はい」


「あなた、もうスクール辞めなさい。そして二度と私の前に顔を見せないで。私にも一華にも関わらないこと。その方があなたのためだから」


「わかりました」



項垂れている浩平から目を離さずに、壁のハンガーにかけてある上着を着た。


窓から差し込む明かりに照らされるキャンパスをチラッと見る。


「来週また見に来る。そのときまだいるようなら容赦しないからね」


「はい」


そのまま玄関までさがると靴を履いた。

まだ手に持っていた鉛筆に気が付く。



「返しておくわ。あなたがまだ絵を続けるなら、いずれどこかであなたの作品を見るかもね」



下駄箱に鉛筆をそっと置くと浩平の家を後にした。


次は一華の魂胆を確認しないと。

私がどうするかは、その後決める。



スマホを見るともう夕方手前。

いけない。急いで帰ってトマトに水やりして夕食作らないと。

今日は慌ただしい一日になった。


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