38.部長登場
と、その時、祠の方から高笑いが聞こえてきた。
「ホーホホホッ!」
聞き慣れた笑い声。
三人が声の方を一斉に振り向くと、そこには扇子であおぐ制服姿の一之江部長が自慢の縦ロールを揺らしながら立っていた。
彼女は、おかしくてたまらない様子で、笑いながら篠崎達の方に向かって歩いてきた。彼女の後ろには、メイドが二人と西大島までいる。
篠崎が声を絞り出す。
「一之江部長……」
「よくここまでたどり着けましたわ。名探偵さんたち」
「あのー、聞いていいですか?」
「よろしくてよ」
「……もしかして、今までぜーんぶ、部長が仕組んだお芝居ですか!?」
「もちろんですわ」
「九段下さんも、あれは演技?」
「当然ですわ」
「古文書の暗号も偽物?」
「ええ。考えたのはわたくし。でも、書いたのは西大島ですが」
一之江部長の後ろで西大島が一礼した。
「ってことは……僕らは、見事に一杯食わされたってわけですか?」
「古文書にアラビア数字が出てきた時点で、普通は気づきますわ。西大島の話では、気づいたそうね。でも、なんだかんだ理由を付けて納得してしまったとか。それは名探偵としていただけませんわ」
「……確かに。でも、一杯食わされたんですよね?」
「いいえ」
「いいえ?」
「実は、本物の古文書がありますの」
「本物の!?」
「埋蔵金の隠し場所を書き記した本物が」
「なーんだ。だったら、それを先に見せてくれれば――」
「今回の暗号など序の口の難しさですわ。さぁ、頭がほぐれたところで、本物を解いていただきます。難しさに驚くはずですわ。その前にちょっと早いですが、旅館で夕食を堪能してからにいたしましょう」
「あのー、別荘にはいつ行くのですか?」
「暗号を解くときにご案内しますわ。さあ、急ぎましょう。ここは暑くてたまりませんわ」
蝉時雨が降り注ぐ中、七人は扇子をあおぐ一之江部長を先頭に旅館へと向かった。
(後編に続きます)