第二話:「一緒にいる意味」
「ねえ、今日お昼どうする?」
朝のホームルームが終わってすぐ、奈々が振り返った。
「いつも通りでよくない?」
「購買行く人ー?」
「私パン買うー」
いつもの流れ。特に誰が決めるわけでもないのに、なんとなくまとまる。
それが、このグループのいいところ——のはずだ。
昼休みになり、机をくっつけて、弁当を広げる。 誰かが話し出して、誰かが笑って、適当に相槌を打つ。
楽しい。 ……はず。
「てかさ、昨日のやつ見た?」
話題が回ると、私はうなずいて、笑って、ちゃんと返す。
空気を壊さないように。
——そのとき、ふと視界の端に入った。
教室の後ろ。ロッカーの前で、一人で弁当を食べてるやつ。
「……あ」
小さく声が出た。
「ん? どうしたの?」
「いや、あいつ」
顎で示すと、奈々がちらっと見て、すぐに興味なさそうに戻る。
「あー、並木だっけ」
「そうそう、それ」
「いつも一人だよね」
「楽しいのかな」
誰かが笑う。
軽いトーンだった。特に深い意味なんてない。
——はずなのに、なんとなく引っかかった。
もう一度だけ、見る。
並木は、いつも通り一人だった。
スマホも見ずに、ただ弁当を食べている。周りなんて、全然気にしてないみたいに。
「……いいよね」
気づいたら、そう言っていた。
「え?」
何人かがこっちを見る。
「あ、いや……なんでもない」
慌てて笑ってごまかす。やばい。変なこと言ったかも。
「何がいいの?」
奈々がちょっとだけ首を傾げる。
その目が、少しだけ真剣で。
——しまった、と思った。
「いや、その……一人でいられるのって楽そうだなって」
言った瞬間、少しだけ空気が止まる。
ほんの一瞬。でも、確かに止まった。
「……あー、まあね」
誰かが軽く笑う。
「でも寂しくない?」
「うん、無理だわ私」
「ねー」
すぐに元の空気に戻る。笑い声も、テンポも、全部いつも通り。
なのに。なんか、少しだけ苦しい。
私はアハハと笑いながら、もう一度だけ並木を見る。相変わらず、こっちなんて見ていない。
当然だ。関係ないんだから。
——でも。
あいつ、誰といなくても平気なんだ。
そのことが、妙に引っかかった。
「……ねえ」
気づけば、また声が出ていた。
「ん?」
「私たちってさ」
一瞬だけ迷う。でも、止まらなかった。
「誰といたいんだっけ」
また、空気が止まる。
さっきより、少しだけ長く。奈々が、何か言いかけてやめた。
誰もすぐには笑わない。
——やばい。
言いすぎた。そう思ったとき、
「……なに急に」
誰かが笑った。それをきっかけに、空気が戻る。
「重くない?」
「哲学やめてw」
また笑い声。いつも通りだ。
完璧に戻ったはずなのに——
戻ってない気がした。
私はそれ以上何も言わなかった。
ただ、弁当を食べながら、なんとなく思った。
さっきの質問に、ちゃんと答えられる人、いるのかなって。
ふと視線を上げる。
並木はもう弁当を食べ終わって、窓の外を見ていた。
その顔はやっぱり、変わらない。無理もしてないし、気も遣ってない。
ただ、そこにいる。
——なんであいつは、それでいいんだろう。
「……いいな」
今度は、声には出さなかった。




