第一話:「一人でいるやつ」
あいつは、いつも一人でいる。
——いや、正確には「一人でいることを選んでる」って感じだ。
昼休み、教室はいつも通りうるさい。 弁当を広げるやつ、スマホで動画見てるやつ、誰かの恋バナで盛り上がってるやつ。
俺はいつものメンバーと窓際に集まって、どうでもいい話で笑ってた。
そのとき、ふと目に入った。
教室の端、ロッカーの前。 あいつは一人で弁当を食っていた。別に珍しくもない光景のはずなのに、なぜか少しだけ引っかかった。
「なあ、あいつってさ」
俺が顎で指すと、隣のやつがちらっと見て笑った。
「あー、あのぼっち? 名前なんだっけ」
「確か並木だっけか?地味そうだし話したことないけどな」
「まあ、そういうやついるよな」
興味なさそうに会話は終わって、また別の話題に流れる。
——それでいいはずだった。
でも、なんか違和感が残った。
もう一回だけ、目をやる。あいつは相変わらず一人で、静かに弁当を食べている。
スマホも見てない。 誰かを気にする様子もない。
ただ、食べている。
それだけなのに——
なんであんなに、普通なんだ?
ぼっちって、もっとこう……気まずそうにしたり、周りを気にしたりするもんじゃないのか。
あいつには、それがない。
別に強がってる感じでもないし、拗ねてる感じでもない。
ただ、そういうものみたいに、一人でいる。
「……なあ」
気づいたら、また声に出してた。
「ん?」
「いや、なんでもない」
自分でも何が気になってるのか、うまく言えなかった。
ただ——
あいつ、暇じゃないのか?
そんなくだらないことを考えて、すぐに打ち消す。
いや、別にどうでもいいだろ。
俺には関係ない。関わる理由もない。なのに、また目がいく。
弁当を食い終わったあいつは、空の箱をきれいに閉じて、軽く息をついた。
それから、窓の外をぼんやり見ている。
その顔が、なんとなく——
楽しそう、に見えた。
「……は?」
思わず小さく声が漏れる。ありえないだろ。
一人で飯食ってて、楽しいわけない。
なのに、そう見えた。
見間違いかと思ってもう一度見るけど、やっぱり変わらない。
特別なことは何もしてない。
ただ座ってるだけだ。
それなのに——
なんで、あんな顔できるんだよ。
「おい、聞いてる?」
友達に肩を叩かれて、我に返る。
「あ、悪い」
話はもう別のところに進んでいた。笑い声も、空気も、いつも通りだ。
なのに、さっきまでと少しだけ違って見える。俺はもう一度だけ、あいつの方を見た。
あいつは、こっちなんて見ていなかった。
当然だ。
興味もないんだろう。
——そのはずなのに。
なんでか、少しだけ思った。
あいつの隣で飯食ったら、どんな感じなんだろうなって。
すぐに、そんな考えは振り払った。
意味わかんねえ。
関わる理由なんて、どこにもない。なのに。
——なんでか、ちょっとだけ気になる。
それが、最初だった。




