ヨミルとナギ
「そういえば、ナギはどうした?」
「ナギちゃんは、私の横にいますよ」
「それは本当か!?」
「大杉君、ちょっと待ってくれる?」
ヨミルの顔が引っ込んだ後、ナギの顔が大胆に映り込んだ。
「……大杉さん?」
「ナギか。元気そうで安心した」
「ボクは元気です……。魔王城、のことは……まだ不慣れ、ですが……」
「そうか。そういえばナギに頼みたいことがあるんだ」
大杉は急に口が軽くなった気がした。
頭の中身が、見知らぬ舞踏会の妄想に染まっていこうとしていた。
「オオスギさん、現実に戻ってきてくださいデス」
両腕を掴んだヒュドラトが、必死に大杉の体を揺らす。
「はっ、俺は……」
大杉が我に返ると、大きな顔のナギと再び顔を合わせた。
「激しい妄想が入ってすまない。ところでさ、ナギの顔が赤いけど」
「えっと……それは……。魔王さんと……過ごしただけです……」
少し照れくさそうにするナギは、瞬きをする。
大杉が眠っていた期間、魔王城で過ごしたことで間違いないのだろう。
そして、ナギがヨミルと二人っきり。
何が起きてもおかしくはない。
「ヨミルが変なことをしたかも?」
「その……魔王さんは、やましいことなんてしてません……」
「ごめん、変な妄想した俺が悪かった」
大杉が全力で謝罪をすると、ナギは戸惑いの表情をみせる。
「べ、べつに大杉さんは……悪いことをしたとは……。思っていませんので……」
「そ、そうか」
「だから……その……」
「はい、私に代わって。話題が一向に進まないわね」
ヨミルの顔が押し掛けると、ナギの姿がみえなくなった。
「とりあえず状況としては、大杉君とヒュドラトが隣国シュラウメギアに潜入しているということね」
「潜入というわけでもないけどな」
「細かいことは気にしないで」
「了解した。……少しくつろげるようにするか」
手のひらを出し、待ったをかけた大杉は、ヨミルから顔を逸らさずにベッドの上に乗る。
ヨミルはそれに応じて、スムーズに進みかけていた会話を中断した。
「ふぅ……」
ベッドの上はふかふかである。
楽な姿勢になった大杉は、ヨミルと再び顔を合わせる。
「よし、それじゃあ舞踏会の潜入についてどうするか話をしようか」
「えっと、大杉君が舞踏会?」
「そうだが?」
「へぇ……」
「別に変な趣味はない。アナスタシアについて知りたくば、今夜の舞踏会に参加することが必要と言われただけだよ」
「やっぱり、アナスタシアのことね」
「楽しそうなヨミルさん……どうかしたのですか……?」
ナギの声が横入りする。
「そうね……ナギちゃんは、大杉君がいる街の地図を魔法で生み出せるのかしら」
「えっと、可能です……ボクは隣国に何度か訪れていますので……だいたいは……」
「それなら舞踏会の会場も分かるかしらね?」
「ごめんなさい。……心当たりがありません」
「ナギ、俺からも質問だ。五つの風の噂は聞いたことあるか?」
「風の噂ですか……。四つ目が……町外れの滅びた霊堂に、宝箱があり……だったかな?」
「それが四番目か。他のは知っていたりするのか?」
「ごめんなさい……」
「そっか。まぁ、いまは大丈夫だ」
開き直った大杉は、息を呑む。
ヨミルから目を離して、今度はヒュドラトに視線を向けた。
「この街の地図を手にしてからなんだけど、一番目の風の噂をみてから四番目の噂を調べに行くほうが良いか……?」
「それは良き提案デスね。それで行きましょう」
ヒュドラトが了承したので、大杉はベッドの上で暫し身体を休ませる。
ナギが魔法で地図を作り出すのを待つ必要性が出てきた。
それほど時間は掛からないと思うが……隣国シュラウメギアの地図が出来上がったら、風の噂の調査を開始しよう。
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