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第一章 「官位と主君を得た防人乙女」

挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。

 文豪ゲーテに「今世紀最大の天才」と賞賛された十九世紀ロマン派の詩人であるジョージ・ゴードン・バイロンは、「ある日に目覚めたら、自分が有名になっていた事を知った。」という名言を残しているね。

 私こと吹田千里、ほんの少し前まで件のバイロンの言葉は他人事だと思っていたんだ。

 国際的治安維持組織である人類防衛機構の極東支部近畿ブロック堺県第二支局に所属する佐官階級の特命遊撃士なんて私以外にも沢山いるし、同期の生駒英里奈少佐や淡路かおる少佐みたいに華族や士族という高貴な家柄って訳でもないし。

挿絵(By みてみん)

 それでも個人兵装であるレーザーライフルを用いた狙撃の腕前に関してだけは絶大な自信があって「赤眸の射星」という二つ名を誇りには感じているけど、それはあくまで人類防衛機構を始めとする公安組織の界隈だけで通じる通り名だからね。


 そんな私の立場が大きく変化するキッカケとなったのは、元化二十六年度が始まって間もない四月に決行された「EMプロジェクト」という特殊作戦だったんだ。

 この時期には日本の友好国である中華王朝の愛新覚羅麗蘭(あいしんかくられいらん)第一王女殿下が公務で近畿地方を訪問される事になっていたんだけど、麗蘭王女殿下の御命を狙う不埒者がいたんだよね。

 建国間もない中華王朝と帝政ロマノフ・ロシアの立憲君主制に異を唱えたマルクス主義者達による国際テロ組織である「紅露共栄軍」は数十年前の「アムール戦争」によって壊滅したんだけど、その残党や思想的後継組織が水面下で動いていたんだよ。

 そして有力派閥である「ユーラシア・ユニオン」って組織を中心に再結成された紅露共栄軍は、中華王朝の次期君主であらせられる愛新覚羅麗蘭第一王女殿下を公務で訪日されたタイミングで暗殺する事で、日本と中華王朝の友好関係に亀裂を生じさせて且つ両国の公安組織と人類防衛機構の信頼を失墜させようと企てていたんだ。

 これを阻止すべく立案されたのが、愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の暗殺阻止と紅露共栄軍の殲滅を二本柱とする「EMプロジェクト」だったの。

 その実態というのは、一言で言えば「トロイの木馬」だね。

 愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者を仕立て上げて故意に拉致させ、体内に仕込んだGPSで敵の総本部を突き止めた上で総攻撃で殲滅する。

 当然の事だけど、敵拠点に潜入した影武者もただ救助を待つだけじゃいけなくて、友軍が来るまでは破壊工作と敵兵の掃討を続ける必要があるんだ。

 この影武者として白羽の矢が立ったのが、何を隠そう私なんだよ。

 二つ名である「赤眸の射星」の由来となった赤い瞳さえカラーコンタクトで誤魔化せば王女殿下に瓜二つな私にしか出来ない大任であり、EMプロジェクトを成立させる上で最優先の構成要素。

 そこまで言われちゃったなら、引き受けない訳にはいかないよね。

 私こと吹田千里少佐、自分の生命を人類防衛機構の大義の為に捧げる覚悟は養成コース入りした小六の段階で既に出来ているよ。

 勿論、それなりの苦労はあったけどね。

挿絵(By みてみん)

 義歯に仕込んだGPSで呼び込んだ友軍と合流するまでは孤立無援の戦いを強いられたし、丸腰で拉致されたもんだから倒した敵兵から強奪した精度の悪い銃器しか使えないし。

 オマケに紅露共栄軍の構成員には、中国史の歴史的英雄や神々を憑依して戦う「降神拳」とか言う古武道を会得した連中もいた訳だからね。

 まるで歴史の授業で習った清朝末期の義和団みたいだけど、義和拳と時期を同じくして成立したようだから無理もないね。

 もっとも紅露共栄軍みたいな不埒者に中国史の名だたる歴史的英雄や神々が力を貸してくれる訳が無いから、憑依出来ても「自分を趙雲や馬超だと思い込んでいる異常者の悪霊」が関の山なんだけど。

 それでも紅露共栄の首領だけは本物だったようで、何と本物の著名人の魂を憑依させられたんだよ。

 それも始末の悪い事に、董卓と苻生と張献忠という歴史的な暴君の魂をね。

 だけど外部協力団体である京洛牙城衆と崑崙仙軍の人達との共同戦線を張ったり、義歯のGPSで呼び込んだ人類防衛機構と中華王朝政府軍と合流した事により、この厄介極まりない紅露共栄軍も遂に地上から完全に根絶出来たんだよ。

 数十年前の「アムール戦争」で曽祖母である園里香上級大佐を失った京花ちゃんなんかは、「これで私は曽御祖母ちゃんの仇を討てたんだ!」って歓喜の涙を流す程だったね。


 影武者作戦による愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の安全確保と、友軍部隊を呼び込んでの紅露共栄軍の殲滅。

 EMプロジェクトの要であるこれらの二大目標の達成に貢献した私は中華王朝から一番槍と認められ、愛新覚羅麗蘭第一王女殿下より巴図魯(バトゥル)の称号と官位を下賜されたんだよ。

 これは実に喜ばしくて、尚且つ誇らしい事だったね。

 何しろ満州族の言葉で「勇者」を表す巴図魯は、中華王朝が大清帝国から引き継いだ官位制度の一つであり、忠勇義烈に秀でて類稀なる武功を立てた武官に与えられる誠に名誉ある称号なのだから。

 要するに私は、将来的に中華王朝の四代女王に御即位される愛新覚羅麗蘭第一王女殿下によって初めて任官された日本人の臣下という事になる訳だよ。

 士は己を知る者の為に死に、女は己を悦ぶ者のために容づくる。今、智伯(ちはく)は我を知る。

 この春秋末の晋の義士である豫譲(よじょう)の残した言葉が、改めて身に沁みた次第だよ。

 忠義を尽くせる主君を得られたという事は、何と尊いんだろうね。

 これこそ、武人の本懐と言うべきかな。

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― 新着の感想 ―
こうして並べるとすごい経歴ですよね途中から。 この称号を得た事で果たしてどう変わっていくのか。 次回からも楽しみです。
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