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人間不信の俺が恋なんてするわけがない。  作者: 長谷川雫
第一章

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80/80

80 対等な関係

 両手を上げながら部屋へあがる事があるとは誰も思わないだろう。


可能性として考えるのであれば強盗犯に遭遇したとか居合わせたなどありきたりなものが思いつくが、残念ながら違う。


今現在俺は同級生という身内に脅されている。


一体俺以外誰がそんな場面に遭遇するんだよと苦笑いである。


「あのー....岸宮さん?」


俺が名前を呼び振り返ると鋭い目つきで睨みをきかせている。


「何?なんか文句でも?勝手に手下げたらもう一発蹴り飛ばすから」


....どうやら冗談ではなさそうだ。


俺は大人しく岸宮さんの言うことに従い不格好のまま部屋へ案内した。


 家の中へ入ると岸宮さんをソファーに座らせた。


俺はそのままキッチンへと向かい飲み物を用意して岸宮さんに差し出した。


「一応言っておくが変なものとかはいっさい入れてないからな」


「自分で申告してくる方が逆に怪しいと思うけど?」


俺は岸宮さんに差し出したグラスを掴み二口程飲み、元通りに置いた。


「これで問題ないだろ。じゃあ岸宮さんに渡したいもの取ってくるから少し待っててくれ」


俺は岸宮さんをリビングに残して自室に向かった。


 こっちに引越ししてくる時に何を持っていくか実家で悩んで結局は大体残してきたものが多いがこうして選別して持ってきた物が役に立つとは思わなかったなと今現在クローゼットを漁っている。


「お、あった。....俺が持ってても仕方ないからな。俺のクラスメイトを助けてくれ」


 探していた物を段ボールから取り出し、部屋に置いてあるタブレット端末を取ってリビングへ戻った。


「お待たせ。持ってきたよ」


部屋から持ってきた物をテーブルに置いた。


「あ、これ知ってる。うちの弟もやってるやつ」

「このカードゲームをやってるなんて良いセンスしてるな弟くん」


「それで、このカードがなんなのよ」


その言葉を待ってたと言わんばかりに俺はタブレット端末を操作して一枚のPOP画像を岸宮さんに見せた。


「あんたが持ってるカードと同じじゃない」


「その下を見てくれ」


俺の指示に岸宮さんが視線を落とした。


「いち、じゅう....」


桁を数えていた岸宮さんの顔がだんだん青ざめていった。


「これ小学生の時に大会で優勝してもらった奴なんだけどさ、今コレクター達から人気らしくてさ。驚きの金額になってたよ」


 岸宮さんに出したこのカードは小学生の時に成と遊んでいたカードゲームの大会に二人で出た時に優勝してもらったカードだ。


今まではただ飾っていたのだが、つい先日ネットで話題になっていてその価値に気づいたのだ。


「このカード一枚で本当にその金額なの....」


「もちろんお店によって査定金額とかは変わるだろうけど、それなりの金額はつくんじゃないかな?ただ飾ってただけだからカードの状態とかも良さそうだしね」


岸宮さんは目の前に置かれたカードと俺の顔を交互に視線を動かしていた。


「これ一ノ瀬が優勝したからもらえたって言ってたけど、そんな大切な物本当にもらって良いのか?」


「誰かの助けになるなら俺は惜しまないよ。それに思い出までなくなるわけじゃないから」


「一ノ瀬ってお人好しだな。普通こんなこと誰もしないって」


そう言って笑った岸宮さんは、まるで憑き物が落ちたような穏やかな表情を浮かべていた。


「....気持ちは嬉しいけどそれは受け取れない。私と一ノ瀬が対等じゃなくなっちゃうからな」


「俺は気にしてなかったけど、そういう考え方もあるよな全然考えてなかったよごめん」

岸宮さんはカードから視線を外し俺の目を見た。


「謝らなくていいよ。クソみたいなやつと比べて一ノ瀬はただの善意だったのがわかったから」


人を見る目を持っていて、高校生なのにふとした瞬間はどこか大人びていてこの一瞬で生まれた葛藤の中から適切な答えを選び抜いてしまう。


中学の頃は一握りだったのに、高校にきてからは自分と近しい存在に出会う機会が妙に多い気がする。


まったく嫌になる....


岸宮さんの口からは聞いたことないが、俺の経験上おおよそ境遇は似たり寄ったりだろう。


どうしてこんな風にならなきゃいけなかったのかな。


自分の中の記憶と目の前の岸宮さんを見て深いため息を落とした。


「俺が思いついた最有力候補説得はダメだったか」


「はぁ....毎回はバイトがあるから無理。でも合わせくらいなら出てやるからそれでいいでしょ?」


落ち込んだ俺を見て岸宮さんは呆れながらため息混じりに口にした。


「い、いいのか?」


「いいのかって?あんたがそれ言うの?」


「確かに変だけど驚いちゃってさ、ありがとう」


 俺は手段を選ばず交渉をしたはずが、逆に提示されいい結果を得ることができた。


岸宮さんの器の大きさに感謝をして話し合いに幕を閉じた。


「ねぇ....一ノ瀬一つだけ聞いてもいい?」


「俺に答えれることなら」


「....本当の一ノ瀬の事教えてよ。どうして君はそんな風にできるのか」


….岸宮さんの言う本当が何を指しているのか。


今の俺には言っている意味があまり分からなかった。


「ごめん。本当も何も俺は俺なんだけど....」


「そうだよね。変な事聞いてごめん」


岸宮さんは小さく笑うこともなく、ただ俯いた。


いつも棘があり強気な岸宮さんが、今だけはひどく弱々しく見えた。

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