79 必要で不要
追加注文を終え席へ戻るとスマホを片手に退屈そうに岸宮さんは待っていた。
「お待たせ。思ったより下混んでたよ」
「駅前だしこの時間だから私らみたいなの増えてんでしょ」
ポテトを摘みながら周囲を見渡せば確かに学生の占拠率が多くなっていた。
岸宮さんがポテトを摘まむ指に視線を落とした。
そのまま口に運ばれるまで見続けてしまったからだろうか?
目の前の岸宮さんと目が合うと眉をひそめこちらを見ていた。
「そんなにジロジロ見られて食べずらいんだけど、あと普通にきもいし」
かなり棘のある言葉を言われたが、これに関しては俺も悪いので特に言い返す言葉もなかった。
「それは悪かった。一つ聞いても良いか?」
「これのお礼に少しなら答えてあげる」
人差し指で指されたフライドポテトの奢りの事を言っているらしい。
「じゃあ遠慮なく、岸宮さんはなんのアルバイトをしてるの?」
「飲食店....ってこんなのが聞きたいの?」
「清水さんと違って俺は岸宮さんの事全然知らないからね」
「あっそ。どうせあんたの事だから他に裏があるんでしょうけど」
相変わらず鋭くてやりにくいなぁ.....
「岸宮さんは兄弟とかいるの?」
「下に弟がいる」
「お姉さんだったのか。ちなみに俺は姉さんがいる」
「それは意外だね一人っ子っぽいのにね。あんたの姉さんとか大変そうだ」
「どうだろう?今度会う機会があったら聞いてみるよ」
意外にも岸宮さんが質問に答えてくれることに驚いた。
まぁ、次に聞こうとしている事でどうなるかってところではあるが。
「お金が稼げれば、バイトって休めたりしますか?」
「それはどういう意味?」
先程と違い岸宮さんの雰囲気が変わった。
「岸宮さんのその手を見る限りかなりの時間働いている事がわかるから、バイトを休む期間俺がその分の金額払うから体育祭練習に参加してもらえないかなと」
「あんたって手段選ばないわけ?」
「俺が今できる事で岸宮さんの時間を作るにはこれしかないと思ってさ」
「一ノ瀬って普通にバカだな」
「それに岸宮さんも少し休める時間があったほうがいいと思ってるから」
「あっそ。というかさ、いくら体育祭練習に参加してほしいからっていくらんだんでもあんたが損する割合の方が大きいと思うけど」
確かに岸宮さんの言うとおりなのかもしれない、これは俺の経験からくる憶測だ。
勝手にそう考えているだけかもしれない。
それでも、今の岸宮さんと似ているような人を俺は身内で見た事があるのだ。
「そうかもしれない。でも、今の俺には必要なくて岸宮さんの助けになるなら俺はそれを惜しまないってだけかな」
「何?あんた私に好意でもあるわけ?」
俺は岸宮さんから出てくる言葉におもわず体がビクッと反応し嫌な汗をかきはじめた。
「あ、えっと。ごめん。そう言う感じのあれではなかったんだ...」
「うわ〜その反応は流石にひくわ。冗談に決まってるでしょ」
....どうやら俺は揶揄われただけらしい。
俺は溜まった息をこぼした。
「それで岸宮さん悪いんだけど、この後時間ある?」
「特にはないけど」
「それならよかった、ちょっとこの後付き合ってもらってもいいか?」
「それは断れるやつ?」
「断らないでほしいやつだな」
岸宮さんから返答はなく代わりにポテトが口に運ばれた。
ファストフード店を後にして岸宮さんと一緒に歩いている。
先程返事はなかったが、これは良いって事なのだろうか?
「それで、私を誘ってどこへ行くってのよ?」
女性って難しいな....。
「言ってなかったな。俺の家だよ」
「はぁ!?あんたいきなり家に連れ込むとかありえないんだけど」
「いや、別に連れ込むって訳じゃ、それにそこは俺も配慮するつもりだし」
「一ノ瀬ってそこらにいるクソみたいな奴と同じだったってことね」
「勝手に決めつけてもらっては困るし、そもそもそんなリスキーな事して俺にメリットがないだろう」
「まぁ、確かに。一ノ瀬より私の方が強いだろうし、そもそも一ノ瀬にそんな度胸があるわけないか」
納得のされ方に思うところはあるが、ここで変に口を挟むとめんどくさいことになりそうなので俺は言葉を飲み込んだ。
二人で駅から外れ少し歩くとマンションが見えてきた。
「あれが俺の家だよ」
俺は指をさし岸宮さんに伝えた。
「良い家に住んでるな。良いとこの育ちだったんだなお前」
「最初だけだけどね。良い家に住めてるのは、母さんが頑張ってくれたおかげだよ」
俺が答えるとそれ以上岸宮さんが聞いてくることはなかった。
マンションの中に入ると共有エントランスを教えたが岸宮さんは俺の家までついてくることになった。
「本当によかったのか?部屋までついてきてるけど」
俺は家の鍵をあけながらもう一度岸宮さんに問いかけた。
「人様のマンションで一人で待ってるのなんか嫌だし、それに一ノ瀬のご家族もいるだろうし安心だろうからな」
岸宮さんが俺の後に続いて家の中へ入り、鍵を閉めてお邪魔しますと丁寧に挨拶をした。
「....岸宮さん。すごく言いづらいんだけど、俺一人暮らし....」
岸宮さんは一気に顔を赤らめ、ぷるぷると体が震えていた。
俺は嫌な予感がして、即座に防御姿勢をとった。
「そういう大事なことは最初から言え!!」
次の瞬間スカートでいることも気にしない綺麗なフォームで蹴りが飛んできた。
男の性で防御姿勢を崩した俺はそれを正面から食らう羽目になったのだ。
強烈な物理ダメージと引き換えに、スカートの中の鮮やかな青色を脳裏に焼き付けた俺はその場に倒れ込んだ。




