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三匹のおネエ ~おネエ達の異世界生活~  作者: ジェード
第III章 グレイズの三匹
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071 悪魔

三章の始まりです。


 それは夕暮れ時、今日の収穫が無いと残念に思いながら家路につく妹と私。

 私達姉妹は野草や山菜を集めた後、河原に流れ着いたものを拾ういつもの日課をこなしていたのですが、上流から流れ着くものなんて何もないに等しく、たまに出る行き倒れの人が居たら運が良い程度のお話でした。しかし、その運の良いお話が私達の前に現れたのです。



「姉さん、あそこに人が倒れてるよ」

「えぇ、まだ誰にも見つかっていないようですね。私達が一番乗りかしら」

「フフフ、やったね」



 私達の前方の遠くの川岸に人が流れ着いているのが見えたのです。

 誰かに先を越されてはたまりません。

 そう思っていたら、妹が目を輝かせて駆け出していきました。

 全く何も得るものが無かった一日を考えると、日が暮れる手前で見つけられた幸運に喜ぶ気持ちは分かります。私も走り出したい気持ちを抑え、身柄を抑えるのは彼女に任せてゆっくりと周囲を警戒しながら私も気持ち足早に近づきます。

 川岸に流れ着いていた人は小柄な男の人の様でした。

 珍しい艶のある黒髪にとても綺麗な顔立ちをした人。

 幼さも残る顔立ちだから、年齢は私とそんなに変わらないのかもしれないけれど、服装はとても上等そうな生地を使っているし、綻びも見られないから当然継ぎなんてされていません。どこかの貴族の子息か豪商の息子でしょうか。服装を見る分には貴族の騎士の旅装の様にも見えますが、家を示す紋章の様なものは見当たりません。

 妹が男の人の体をつんつんと指で突いています。ちょっと汚い物を突く様な仕草が無様にも思えますが、気持ちは分かります。私も同じか木の枝で突くと思うので。

 彼女は意識があるのか確かめているけれど、これだけつんつんと突かれても反応が無い当たり、起きそうにない様ですね。

 私も妹の隣にしゃがんで彼の衣服に触れようと手を伸ばしたのです。

 そうしたら突然小刻みに体が揺れだしました。

 私は慌てて伸ばしかけた手を引っ込めました。



「うぅうぅぅ……」



 男の人は低く呻いたのです。

 その後目が唐突にカッと見開かれたかと思うと、急に起き上がってぴゅっと水を吐き出して咳き込み始めました。



「げはっ、がはっ、ごはっ、がはっ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁあぁぁ~……」



 とても苦しそうに呼吸をする彼の表情は、とても気怠そうで元気には思えないけれど、水を吐き出していたみたいですし、呼吸も徐々に整ってきているのを見る限りはどこも悪くないのかもしれません。


 まぁ、どうしましょう。


 私達が追剥に来ていると知れてしまったら、この方はお怒りになるんじゃないかしら。

 私は妹の方を見ると、妹もどうしたらいいか戸惑っている様ですね。

 ここは何も見なかったということで逃げることにしましょう。

 私がそう考えて妹の袖を引っ張ると、妹も気付いてくれたわ。


 よし、逃げましょう!


 そう踏ん切りを付けて立ち上がろうとしたら、急に私の右腕を掴まれましたわ。

 驚きました。この人小柄だけれど物凄い力で、振り解こうなんて思おうものなら私の腕なんて簡単にぽきりと折られてしまいそうな程です。

 どうしましょう。



「……○▽、×□○△××□○」

「え? 何を仰ってるのです?」



 男の人は、私の方を向くわけでもなく、相変わらず気怠そうな表情のまま話しかけてきましたけれど、何を仰っているのか全く分かりません。

 どこの言葉なのかしら。

 黒髪を考えたら東方の言葉なのかしら。


 困ったわ。


 男の人は私の言葉を聞いて私の方を振り向くと、何かを呟いたの。

 そうしたら急にわかる言葉で話しかけてきました。



「これがこの世界の言葉なのね~。ごめんなさい。貴方達の言葉が分からなかったから伝えようが無かったけれど、貴方が話してくれたから理解できたよ~。ところで、ここは何処~? グレイズって場所なのは分かっているんだけれど、それがどんなところか全く知らないの。教えてくれる~?」



 彼は急に笑顔でそう話しました。

 その表情がとても綺麗で独特の柔らかい雰囲気があって、黒い瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚える程引き込まれるのを感じました。


 もしかして、これは恋の瞬間かしら。


 濡れ鼠同然の彼だけど、その濡れ髪も色気が有って、これまで私の知る男の子達とは全く別の生き物という感じが致します。

 何となく私の胸の鼓動が早くなっている様に感じ、彼を直視できません。



「こ、ここはグレイズで間違いないです。商業都市グレイズ……の外のスラムですけれど」

「スラム~?……いわゆる貧民街?」

「……そうとも言いますね」



 貧民街……本来であれば私達がこのような場所に暮らすことになるはずは無かったのです。

 組合長であり、この町の執政官でもあったあの方の殺害犯として父が疑われ、あんなことにならなければ……こうして隠れ住むことも無かったはずです。でも、この場所に来て救われたことも事実だから、これまで私達が何を見ていて、何を見ていなかったのかを理解はしましたけれども。

 そんなことを思っていると、私の腕を掴んでいた手を放して彼はゆっくり立ち上がりました。

 体から滴る水が夕日に照らされてキラキラと橙色の光を瞬かせている様は、妖精とか天使と言っても間違いじゃなそうに感じます。

 実は羽が隠れているんじゃないかしら?



「うぅ、寒い~。ちょっと待っててくれる?」

「へ?」



 彼は表情を曇らせて体を震わせると、急にしゃっきりと姿勢を正して伸びをするように胸を突きだして体を逸らせました。すると、彼の体が仄かに青白く光りだして、急に暖かい風が彼の周囲に巻き起こりました。そして彼の体から水分が抜けて、雫が風に乗ってキラキラと輝いて飛んでいくのが見えたのです。

 蒼白い輝きが消える頃には風も止んで、彼はサラサラの黒髪を揺らしてこちらに笑顔で振り向きました。くりくりとした黒い瞳が茜色の光を反射してとても印象的です。



「おまたせ~。唐突だけれど行く当てがないの。貴方達の家に泊めてもらえないかな~?」



 あまりの現実離れした彼の雰囲気に一瞬飲まれそうになりましたけれど、私は聞き捨てならないことを聞きました。

 彼は唐突に何をおっしゃるのでしょう?

 そんなこと困ります。

 お母様に見ず知らずの男性を連れて来たら何と言われるかしら。

 ……きっと、はしたないと思われます。

 幾ら私の判断に任されていると言っても、ここは受けてはいけない場面ですわ。



「あの、申し訳ないですが、無理です」

「そうなんだ~。じゃあ、追剥しようとしていたとして、貴女達二人を連れてどっかに突き出すことにするね~」

「へ!?」

「あれ~、気が変わった~? だよね~。君達は僕を助けてくれる優しい天使ちゃんだもんね~?」



 前言撤回。

 この方は妖精や天使なんかじゃありません。

 悪魔です。



「……はい。私達の家で良ければ。ただ、変な気は起こさないでくださいね」

「うん、大丈夫だよ~!僕、こう見えておネエだから~!」

「お、おネエ? なんですか、それ」

「あれー、伝わらなかったかなぁ~。簡単に言うとね~、僕は男が恋愛対象なのさ~。だから~、女の子は眼中に無いの。あんだすたーん?」

「あ、あんだすたーん?」

「さ、行こうよ~!暗くなっちゃうよ~」



 なんだかさらりと凄いことを聞いたはずなのですが、この柔和な笑顔の前には何を言っても通らないような気がして。

 ……結局彼の言うままに私達は彼を連れて家に帰ることにしたのです。


 私達、大丈夫なのでしょうか。


 そんな私達の不安はどこ吹く風とばかり、彼は陽気な鼻歌交じりに私達の後ろをついてきます。

 神様、どうかこの悪魔から私達をお守りくださいませ。

少女達は黒髪の小柄な悪魔を拾いました。

悪魔はおネエだから大丈夫だと言いました。

悪魔の大丈夫ほど信じられないものはありません。

不安を感じつつつも悪魔の言われるがままに案内する姉妹です。


続きます。

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