050 父さん
水源の洞窟続きです。
「え?」
「だから、私達と一緒に来る?」
私は彼の目を優しく見つめる。
彼は戸惑いながら口を開いたわ。
「……良いのか?」
「良いも何も、こんな小さな子供が一人で暮らしていける世界なんて、魔物の世界は勿論、人間の生きている世界にも無いのよ。正直、あなたをこの姿に変えた責任は感じているの。だから、私は人間世界のあなたの親代わりってことで良ければ、どう?」
「構わぬ」
私は彼に手を差し伸べたわ。
彼はその手を握り返してくれた。
私はその手を握ったままゆっくりと彼と共にに立ち上がったわ。
「さて、あなたの名前はどうするの」
「お前が親なのであろう? ならば、付けるが良い。……それが人間世界の習わしだと聞いた」
彼はそう言いながらそっぽ向いているわ。
恥ずかしいのかしら。
さて、名前なんてどうしようかしら。
髪の色はインディゴ辺り? デニムの染め色ね。光が照らしているところはターコイズみたいな光が出ているけれど、全体的には濃い目の青って感じ。ふむ、インディゴから行けばいいかな。
「あなたの名前はインディでどう? 由来はあなたの髪の色。インディゴっていう名の色なの。日が暮れて夜の闇に消える手前の青い空のことを私達はインディゴブルーって呼ぶんだけれど、私の好きな色よ」
「……そうか。俺の名はインディ」
彼がそう言った瞬間、私の胸に強い痛みが走ったわ。
それは彼にも起きた様で、二人して胸を掴んで屈んでいる状況。……傍から見たらすんごく間抜けに映っている気もするけれど、暫くして落ち着いたわ。
私は姿勢を正しながら彼に尋ねたの。
「だ、大丈夫?」
「お前は、大丈夫なのか?」
「あら、心配してくれるの? 意外に優しいのね」
彼の頭を優しく撫ぜると、またぷいっとそっぽを向いたわ。
そして私の手をどけると、唐突に私の服を捲って覗き込んできたの。
「ちょ、ちょっと、どうしたわけ!?」
「黙っていろ、確認しているだけだ!」
「確認って、何なのよ」
彼は私の胸を見て驚愕の表情を浮かべていたわ。
どうしたのかしら?
胸は元々無いわよ?
「どうしたの? そんな怖い表情をして」
「……見てみろ」
私は彼に言われるまま自分で見やすいように服を捲って胸を見てみたわ。そうしたらとっても複雑な文様が私の胸の真ん中に描かれていたの。それが結構格好良いのよね。センスが良いじゃないの。
「あらやだ、なんか格好良いタトゥーが付いてるじゃないの。何これ?」
「……これは、俺の紋章だ」
「はい?」
「だから、俺の紋章だ。生贄共が付けてくるものではない本物の俺の紋章だ。これがお前に出たということは、お前が本当に俺の主となったということだ」
「へ?」
私は思わず上ずった変な声を出しちゃったわ。
彼もなんだか落ち着かない様子ね。
「これは、本来魔王様が受けているはずのものだった。それが人間に移ったというのか」
「つまり、貴方を使役する紋章ってことになるのね?」
「それだけではない。俺の力を共有する存在だということだ」
「パトラッシュもそういえば私から力を得ているとか言っていたわね。ね? パトラッシュ……!?」
私はそう言って背後のパトラッシュの方を見たら、パトラッシュがいなくてインディと同じような背格好の裸の男の子がワンコの様に座っていたの。髪色はプラチナブロンドで少し長めに伸ばした感じで、綺麗な青い目をした男の子よ。ってか、あれ?
「ん、どうした主。我に何か付いているか?」
男の子がそう言ったところを見ると、彼はパトラッシュで間違いないみたいね。
パトラッシュは全く自分の変化に気が付いていないみたい。
インディもパトラッシュの方を向いたと思ったら、何やらまた驚いている様子。
「お、お前は、その腕の紋章!?」
インディがそう言うものだから腕を見たら、右腕にタトゥーが付いていたわ。私の胸についている紋章によく似た感じだけれど、ちょっと違うかしら。
私達の視線を感じてパトラッシュも自分の腕を見ようとしたの。
そうしたらようやく自分の変化に気が付いたみたいで、驚いて自分の体をぺたぺた触り始めたわ。
「あ、主、これはどうなっているのだ!?」
「さ、さあ」
「ど、どうしたら良いのであるか!?」
パトラッシュが慌てている姿って珍しいわね。
そこにインディが彼に言ったの。
「それは使役の紋章。お前は俺の眷属であったが、主がキョーコに変わった際に消えたはずだ。しかし、俺がキョーコの下についたことで、お前の紋章も復活したのだろう。だが、安心するが良い。俺にお前を使役する力はない。お前はキョーコを通して本来俺が与える能力を取り戻しただけだ」
彼の話から、どうやら私は二人に力を与える代わりに、二人からも色々な力を得るどころか、私を通してスキルのやり取りが出来るみたいね。これは使い方が分かれば化けるかもしれない能力かしら。
私はパトラッシュにこちらに来るように言って、パトラッシュにも服を錬成したわ。彼にもインディと同じ服の色違いを送ったの。下着のタイツの色は同じで、ハーパンが青でシャツが白よ。んで、スパイクも白地に青い紐で結んだ感じにしたの。
良い感じに兄弟じゃないかしら。フフ。
「俺がこいつと同じ服装なのか!? キョーコ、何とかならないのか」
インディがあからさまに嫌そうな顔をして抗議してきたわ。
パトラッシュの方は全く意に介さずに新しい服に喜んでいる様子だけど。
「あら、パトラッシュの方がお兄さんなのよ? 兄弟らしく仲良くペアルックで良いじゃないの」
「おぉ、我の兄弟!? それは仲良くせねば。宜しく頼む。インディ」
「気安く呼ぶな。パト」
「パト!?!」
その後ワイワイ煩かったけれど適当にあしらったわ。
いちいち言うこと聞いていたら切りが無いもの。それに、インディは言っている割には兄弟という言葉には良い反応をしているみたいなのよね。だから、違和感を感じていてもそのまま放っておくことにしたわ。
二人を伴って私達は洞窟を出ることにしたの。
さて。
「ねぇ、インディ」
「なんだ」
「私の事、お父さんって呼べる?」
「キョーコではだめなのか」
「普段はそれでも良いけどね、人里に出たら必要になると思うわ」
「そうか。分かった」
「主、我も父さんと呼んでいいのか!?」
「えぇ、良いわよ」
「おぉ、よろしく頼むぞ!父さん!」
パトラッシュが口調と激しくギャップが有る感じで子供らしくはしゃいでいるわ。インディの落ち着きと好対照って感じかしら。まぁ、私も『父さん』と呼ばれる日が来るとは思ってもいなかったから、なんだか変な気分ね。
くすぐったいやら……。
怖いやら。
成り行きとはいえ幼い子供となったラズウルドオルムを保護することにしたキョーコ。彼だけのはずがパトラッシュまで人化していました。
唐突に親子の様に装うことにしたキョーコですが、内心は彼も複雑な様です。
次も水源の洞窟が続きます。




