026 薬づくり
「ねぇ、キョーコちゃん。今日は川を下ってみない?」
「この先を見てみるの? 良いわよ。まぁ、戻って来れるところまでよ」
「うん」
というわけで、私達は今パトラッシュの背に跨って川沿いを走っているわ。
下流はポンポンが沢山生えていて、ポンポンの群生地が続く感じ。この辺のポンポンも刈り取ったら結構な量の衣類が作れそうね。
遠くまで続く山々を颯爽と走り抜けるパトラッシュ。スピードを上げて走っていくと、川の流れは前方左側手前の山に隠れた感じ。進んでいくと川の水量も結構増えてきているし、深さも相当ありそうね。川流れをしていた山が過ぎ、左側に進む川を覗くと前方にぽっかりと穴の開いた山が見えていて、そこに川の流れは続いているのが見えたわ。
「ケリー、アレ、どう思う?」
「どうって、洞窟だよね~」
「そうだけれど、洞窟に流れ込むってことは、あの洞窟行き止まりではないってことじゃないかしら?」
「あー、そうだよねぇ。行き止まりだったら溢れちゃうものね~」
私達は洞窟まで近付くことにしたわ。
パトラッシュの足でトータル一時間くらい走ってようやく着いたそこは、穴の中に吸い込まれる様に大量の川の水が飲みこまれているの。ごうごうと洞窟の中に流れ込む川の流れは、洞窟の中で音が反響してより一層大きな音を立てているわ。
パトラッシュから降りて二人で用心しながら洞窟の入り口付近に立ったわ。
改めて見ると流石に遠くから見えるだけあって大きな穴ね。脇に私達は勿論、パトラッシュも余裕で通れそうな程度には開かれている足場があるわね。この足場は暗い先まで続いているのが分かるけれど、その先がどうなっているのかまでは分からない。たぶん、川の流れも真っ直ぐ前に向かって流れているから、この流速を考えるとそんなに曲がりくねってはいないんじゃないかしら。
「ここを進めば、もしかしたら山向こうに出られるかもしれないわね」
「山越えルート以外が見つかったのは収穫なのかなぁ……、でも、真っ暗で怖そうだね」
「……そうね。ここを進むにしても、どのくらいの長さが有るのか見当がつかないし、事前準備無しに行くような場所じゃないわよ」
「うん」
「さて、帰りましょう」
私達は再びパトラッシュに乗って来た道を戻ったわ。
帰り道は2時間半くらいで付いたわね。
「パトラッシュ、ご苦労様」
「我は問題ない」
「あなたに問題なくても、私の気持ちよ」
「そうか」
私はパトラッシュの体に優しくぽんぽんと手で触れると、家の中に入ったわ。
先に家に入ったケリーはいそいそと三時のおやつの準備を始めていたの。
こういうところは律儀というかなんというか。
彼の出してくれたハーブティーを飲みながら寛ぎのひと時。
相変わらず部屋の中には白い光がキラキラと舞っていて、そこに設置したバー型ライトの光も反射してとても明るい室内。まるでクリスマスの様ね。フフ、こんな場所だけれど、何だか毎日が充実ね。
私の人生の中でこんなにも充実していた日々って有ったかしら。
あぁ、でも、子供の頃にはそんな時も有ったわね。
時の流れのせいで私もただのおっさんに成り果てたけれど、こんな新鮮なことが毎日続く子供時代の様な冒険をしているだなんて、不思議なものね。
「ねぇ、ケリー。今後の予定だけれど、私、封印の洞窟を行ったあとに川向こうの洞窟を挑戦してみようと思うの。どう思う?」
「……そうねぇ。良いんじゃない? 封印の洞窟は前哨戦って感じで、川向こうの洞窟は本番って印象だよね~」
「そうね。私もそう思う。あの洞窟はここを出ることに繋がりそうな印象だものね。でも、そう考えるとこの手作りの家も放棄していくことになるのよね」
私はそう言って周囲を見回した。
整えられたキッチンや棚、綺麗に葺かれた屋根に床、上に続く縄梯子、そして木の上の母屋。みんなで力を合わせて作り上げたここを去るというのはなんだか寂しいものね。持っていくものとか考えないといけないけれど、持っていけないものは、もし誰かが私達の様に迷い込むことが有ったとしても、ここが有れば助かると思うのよね。……私達の様な存在がいるのかは定かじゃないけれど。
「事前準備ということなら、急がず万端で臨みましょうよ~。折角作った家で過ごしたいってのもあるけど~、私はガリやキョーコちゃんと違ってまだ満足に戦えないでしょう? だから、私が育つのをちょっと待ってほしいなぁ~って」
ケリーが眉をハの字にして言うの。
本人としては足手まといになりたくないとか色々考えていたでしょうね。
彼の気持ちは最もだと思ったから笑顔で頷いたわ。
「えぇ、オッケーよ。そんなに急ぐ話じゃないから、しっかり準備しましょう。ケリーは私より魔法の才能は有りそうだから、そっち方面を伸ばしていけば良いかしら」
「うん、私もそう思ってるよ~。よろしくね~」
「えぇ。後でガリにもそう話しましょう」
それから暫く私達はゆっくりと過ごしたわ。
ここにきてこんなに何もしないでゆっくりと話しながら過ごすことなんて無かったから新鮮ね。そう、こんな辺鄙なところに来ても落ち着きを絶やさない。上質な大人は落ち着きが大切だもの。アフタヌーンティーを楽しむ余裕が消えたら、ただのおネエよ。
え? それは落ち着きと関係ないって?
……襲うわよ。
お茶の後は二人で片付けて、ケリーは練習に行くと外に出て行ったわ。
私は室内でゆっくり錬金術に勤しんだわ。
川から持ってきた聖水と、クレディルとフォルボー、麻痺毒に効果のあるプルマニア、それにカラシェっていう草を用意したわ。カラシェも回復薬を作る素材なの。緑色の百合の様な花が特徴よ。
まず、クレディルとフォルボーとカラシェを合成して回復薬を作ってみたわ。
出来上がった薬は緑色のゲル状のモノなんだけれど、それを丁寧にガラス容器に移して鑑定してみたの。
鑑定結果……「傷薬」 高品質な傷薬。解毒作用もある。部位欠損は治せない。
解毒作用がある傷薬が出来たわ。カラシェには解毒作用もあるのかしら。
次にカラシェとプルマニアで合成してみたの。
鑑定結果……「解毒薬」 麻痺、毒等の状態異常を解毒する。
今度は解毒薬が出来たわ。状態異常とあるから、麻痺や毒以外の状態状にも効果があるのかしら。
次は薬草全部使って合成してみたの。その結果がこれ。
鑑定結果……「万能薬」 全ての状態異常と傷を癒す。部位欠損は治せない。
万能薬来ました!これが有れば何でもありみたいな薬だけれど、回復効果の記述を見る限り傷薬とあまり違いは無いのかしら。
最後は聖水と出来上がった万能薬を合成してみたわ。
鑑定結果……「ポーション」 高級な回復薬。あらゆる傷を癒す。部位欠損を再生する。
き、キターーーー!?!っつか、ポーションってチートじゃない!?
部位欠損治せるですって!
でも、状態異常の記述が消えているところを見ると、状態異常回復効果は無いのかしら。だけど、それを補って余りある「部位欠損再生」はやばいでしょうよ。
しかし、こうして見ていると、この世界の薬草の薬効って恐ろしい子。たったの4種の薬草と聖水だけでここまでの事が出来ちゃうようになるのよ? こんな山奥の何にもないところでこれだもの、この世界の住人がいたとしたらどれだけ健康で長寿命なのかしら。山暮らしの仙人になるのも夢じゃないわよ。って、そんなもの夢にするのはどうかとは思うけれど。
私はポーションをリボDくらいのガラスの小瓶に詰めて量産したわ。万能薬は丸薬にして胃腸薬が入っていそうな小瓶に沢山詰めてみたの。とりあえず回復薬は多めに用意しておかないと、これからの事を考えたら大事だと思うのよね。
その後私は家によくある救急箱を作って、その中に薬を仕舞ったわ。これを見れば誰が見ても薬が入っているって分かるでしょう? 常備薬大事よ!
さて、薬づくりの次だけど、今後の事を考えて旅装をちょっと用意してみようかなと。
え、ちょっと前に服を作っただろうって? ……あれはこの世界での普段着よ。旅をするにはあまりに軽装過ぎると思うの。だから、ちょっと拘ってみようかと思って。
二人に倣ってチュニックを着用することにしたんだけれど、折角だからチュニックやパンツをカーボンナノチューブファイバーで作って、軽くて高耐久を目指してみたわ。表布を被せているから見た目には普通の茶色の服よ。ケブラーのハンティングブーツを塗装で茶色い牛革っぽく見せて、パンツはキャメルのカーゴにしたわ。腕にも牛革っぽい表生地のアームバンドをカーボンナノチューブファイバーで用意して、ベルトは兎革、フード付きマントはダークウルフのファーコートよ。
……なんだか現代とファンタジーが混ざったようなすんごいのが出来たわね。
ほかに物が沢山入りそうなウエストポーチと物を引っ掛けたりするリール付カラビナも用意してみたわ。
そして、今回の目玉はこれよ!
鑑定結果……「スタッフ :名前なし 精霊銀製。オリハルコンによる自動修復機能有り。魔石による魔力貯蔵能力有り。使用者限定有り」
これに名前を付けるわよ。名前は「キョーベン」よ!
名称設定を受諾しました。
スタッフ :名前なし は スタッフ:キョーベン となりました。
名称設定により世界に登録されました。
え、名前の由来?
……そんなの決まってるじゃない。
私がキョーコでキョーコの持つ杖で賢そうといったら、教鞭でしょう!!!
……え、使っている物から考えるとあまりにも残念ですって?
あなた、教鞭でしばかれたいのかしら?
この杖は便利なのよ!
なんてたって伸縮出来ちゃうんだから!
伸ばせば50センチくらいに伸びて、縮めれば20センチくらいかしら。先っちょに青い宝石が付いていて、柄の部分はしっかり手にグリップする様になっているの。リール付カラビナに引っ掛けられる穴もしっかり付けてあるから、落として困ることも無いというしっかりさん!
ウフフ、これで暫く必殺技の練習かしら。
ウフフ、ウフフフフ。
その夜、湯船に初めて聖水を使って水を張り、お湯を沸かして入ったわ。
聖水のお風呂とか贅沢よねぇ。……とか思って入ったんだけれど、唐辛子入りの入浴剤に浸かる様な感じかしら。物凄い発汗作用が促進されて、じんわり熱いのよね。驚くほどぽかぽかが続いて、入浴後しばらく半裸で涼んだ程よ。
でも、凄いのはそれだけじゃなかったの。
肌の肌理が物凄く細かくなってもちもち肌になったのよ!!!
慌てて鏡を見たら、顔の皺が取れてるどころか、肌も若かりし日のニキビ跡も何もかも綺麗すっかり修復されているから、まるで十代の子みたいにぴっちぴっちなのよ!
それに顔だけじゃなく、体全体がなんというか締まるというか、張りが有ってなめらかな感じね。
何これ、スゴイ!
……これ、美容液として売ったらウハウハ間違いなしじゃないかしら。
私の後に入ったガリやケリーも同じ効果が出たのよ。
二人とも暫く手鏡とにらめっこしていたわ。
これ、何度か入ったら見た目だけなら20代とか行けるかしら?
え、サバ読むなって?
……分かってるわよ。
言ってみただけよ。
川下に洞窟を発見した二人。
まだ行くには早いという結論に達して帰ってきました。
帰宅してからは暫くぶりの寛ぎの時間でした。
そして、キョーコは教鞭を握る。(違




