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025 魔除け

 今日は朝からケリーと一緒に出掛けたの。


 ケリーが私の行ってる場所に一緒に行きたいっていうから、まずは滝壺の方へ向かったわ。

 滝壺は相変わらず結界が機能していて家同様にキラキラしているんだけれど、水飛沫の反射と合わさって一層綺麗なのよね。



「こんなところだったんだ~、とっても綺麗な場所だね~」



 ケリーはいつも通りの間延びした様な独特なテンポでそんなことを言ったわ。

 まぁ、実際ここは十分に観光地として売り出しても良いくらい綺麗な場所よ。

 あ、私、昔観光物産関係の仕事をしていたことがあるから、色々と観光地巡ったりしたもんなのよ。北海道の観光地って本州同様に日本人の客があまり来なくなって活気が無くなってきているけれど、あまりに商業的に開発し過ぎて、本来の景勝地としての綺麗さを失っていることも一因にあると思うのよね。

 自然のままの美しさに同化した様な建築だとかを考えたら面白そうなもんだけれど、そうはならないのよねぇ。日本庭園とかの美も自然の美しさの再現でしょう?



「私の結界の効果もあって、キラキラが何割か増していることは確かよ~。あ、そうそう、家で話した通り、ここの水、聖水だから」

「聖水って料理で使ったら美味しくなるかしら~。まだ使ってないからわかんないけれど~。どれどれ~」



 そう言いながら河原にしゃがんで水を飲むケリー。唐突に飲み始めたからちょっと引いちゃったわ。なかなか探求心が豊富というか、チャレンジャーというか。でも、彼が両手で掬って飲んだ瞬間、表情が固まったの。暫く微動だにしないで水面を眺めていたけれど、ゆっくりと腰を上げて私の方を向いたわ。



「……キョーコちゃん、この水、なんか分からないけどスゴイよ~。ちょっと飲んでみてよ~」



 指をさして私に飲めと促す彼。正直何がスゴイのやらサッパリ分からない反応だけど、私も考えてみたらここで水を飲んだ記憶が無いので掬って飲んでみることにしたわ。あ、北海道で川の水を飲んだりしちゃだめよ? エキノコックスってこわーいのが潜んでいるかもしれないから。詳しくはネットで調べてちょーだい。

 まぁ、生水を飲まなかった理由はこれね。先入観として沢の水キケン駄目ゼッタイ!……道民あるあるかしら。

 私もしゃがんで手で掬って一口飲んだの。



「……何これ」



 私も驚いた。

 何がスゴイって、飲み込んだ瞬間、体全体に広がる熱の様なものを感じたの。お酒を飲んだりして感じる熱とは違うのよ? でも、じんわりと広がる感じは近いものがあるかしら。



「ね、なんかスゴイでしょ~? これ、効果あるのかなぁ。鑑定してみよっと……聖水って体内の悪いものも浄化してくれるっぽいよ~。効果は大きくないみたいだけれど回復効果もあるっぽい。回復薬の素材として使ったら良くないかな~」

「あら、そうなの? 今度実験してみるわ」



 ポーションとか作れたりするかな。

 ちょっとワクワクしてきた。ウフフ。

 


「しかし、綺麗だね~。なんだか女神像とか立ってそうな雰囲気の場所だよね~」



 そう言って彼は滝壺の方を見ていたわ。

 滝を背景にして像が立っていたら、確かに絵になりそうね。



「そうね。そんな感じよね」

「折角だから、キョーコちゃんの錬金術で像建てちゃったらどう~?」



 彼の提案は私も乗っても良いと思ったけれど、私達が女神像?

 ちょっと違わないかしら? どちらかというと……、



「……私達の場合、女神って方向よりオスだと思わない?」



 私の言葉に彼は手をポンと打って頷いたのよ。



「……あー、キョーコちゃんならそうなるよね~。だったら、天使の像とかどうかな~」



 ちょっと、私の返答ってそんなにお約束だったかしら?

 しかも、そこで天使を提案するのもどうかと思うわよ。女神と大差ないじゃない。それに、私はこの手の提案をされても乗りたくない気持ちもあるのよね。え、像は作りたいんでしょうって? それはそうなんだけどねぇ。



「……人型って視線あるから嫌なのよね。なんか動き出して来たら嫌じゃない?」



 人型の人形ってなんか落ち着かないのよ。私の家にある母の形見のフランス人形も、寝室にあると思うと嫌な感じがしたわ。お雛様とかもそう感じる類のものよね。昔から市松人形とかお寺さんに供養に出される話を聞くじゃない? 人形には念が籠るとか。私はスピリチュアルを信じる方じゃないんだけれど、どうもあれは苦手なのよ。



「あー、わかるかも~。じゃあどうするの~?」



 私は暫く腕を組んで悩んでいたけれど、なんとなく思いついて小川の中に手を付けたわ。



「ふん!」



 そうして出来上がったものは、高さ2メートル程の太陽の塔よ。

 ケリーは軽く引いていたわね。



「……なんでこれ~?」

「……オスらしくて視線が気にならなくて偉そうだから」

「……折角だから羽生やしておこうよ~」

「え!? そう来る!?!」

「こういう場合、ちょっとは加工しておかないと色々な意味でまずいと思うのよ~」

「……メタい発言ね。分かったわよ。これでどう!」



 私は再び手を付いてスキルを発動させたわ。

 そうして出来上がったのはしっかりと足がついて、広げている手が人の手になり、背中に羽を生やし、首も出来て顔つきは原形を留めているのか微妙な出来栄えだった。

 ……我ながらどうしてこうなった?



「うわぁ……、なんか胡散臭い雰囲気があるね~。魔除けにはなりそうだけど~」



 魔除けって……言い得て妙ね。

 正直私も同意するわ。



「……そうね」

「ところで、コレ何で出来てるの~?」



 ケリーが興味深そうにツンツンと指でつついているわ。

 なんかその突き方、昔流行った某アニメの主人公のロボ娘が野糞を棒で突いている様な触り方ねぇ。失礼な。



「これ? 白い部分は石灰岩で赤い部分は魔石よ」

「魔石?」

「そうよ。この地域って魔石がよく取れる場所みたいで、魔石は魔素っての吸った石らしいんだけれど、魔石には属性魔法を込めることが出来るのよ。で、ここって聖なる魔力で満ちているでしょう?魔石放置しておいたら本物の聖なる像になりそうじゃない?」

「あー、そういうこと~。確かに~。でも、それって何千年も向こうの話っぽいよね~」

「言われてみれば。まぁ、夢が有って良いでしょう」

「うん。そうだね~」



 私はこの後、像の近くに祭壇っぽい物を作ってそれらしく飾ったの。

 ケリーはその祭壇に花を摘んで備えたわ。


 滝壺で遊んだあとは、ポンポンが沢山採れる場所に行ったの。

 ポンポンは川の下流の他の流れとの合流点辺りが沢山群生している場所なのよ。

 パトラッシュに乗って走っている途中、唐突にケリーが私に話しかけてきたわ。



「ねぇ、キョーコちゃん!」

「何!」

「あそ○に○い○○ど○○ってあ○ぉぉぉ~~~?」

「はぁ!?」



 走行中のパトラッシュの背の上だと風の音が大きくてよく聞こえないのよね。

 ケリーも必死になって大声を張り上げてるわ。



「あーそーこーに、○ー印のどー○って○るよ~~~?」

「はぁ!?」

「ふーうーいーんーのーー、どーうーくーつーーー!!!」

「あー、知ってるわ!」

「行ったことあるの~~?」

「無いわよ~~~」

「そうなんだ~。今度ガリも加えて一緒に行ってみよ~~~?」



 あらやだ。この子意外に積極的。

 私怖いわ~とか言いそうなのに興味あるのね。



「分かったわ~」



 その後、目的地について二人でポンポン狩りをしたの。

 二人で取るとあっという間に袋に一杯になったのよ。



「キョーコちゃん、そろそろお昼にしましょ~」

「あら、そうね。そっちに行くわ~」



 私達はお弁当を一緒に食べたわ。中身は野菜とお肉だけなんだけれど、野菜でお肉が巻かれている感じ。お肉がハーブで良い感じに炙られていて、巻いている葉っぱはレタスっぽい感じの味わいよ。

 ケリーの食材探しも結構広がっていて、こんな場所なのに沢山の食材が見つかっているのよ。なんていうか、手付かずの楽園って感じかしら。


 河原の石に腰かけて流れを見ながらランチを食べた私達。

 食後はデザートとお茶を飲んでゆっくりしたわ。

 ちゃんと水筒も作ったのよ~。

 あ、ガリの分は出かけるときにケリーがガリに渡していたから、ガリもどっかで食べているんでしょうね。



「この川の先には何があるんだろうね~」



 ケリーは食べながら遠くを見ているわ。

 私も彼の見ている方に視線を移したの。

 高い山並みの間に囲まれたこの谷間はまだまだ遠くまで続いているわ。



「そうねぇ。私達の世界と同じなら、川下には人里が有っても不思議じゃないけれど」

「キョーコちゃんはこの辺がどうなっているか探検したことはあるの~?」

「私はまだここまで来ただけよ。この川の向こうがどうなっているのかとかまでは調べてないわ」

「そうなんだ~。私ね。元の世界に戻ることも気にはなっているんだけれど、この世界の町とかを見てみたいって気持ちもあるんだ~。だからね?元に戻ることが出来るとしても、一度はそういうところを見ておきたいって思ってるんだよ~?」



 楽しそうに語るケリー。

 彼はマイペースでいつも前向きなのよね。

 この子の明るさに癒されたことが何度あったか。

 本当にどんな場所でもへこたれない子ね。

 


「そうねぇ。実際戻れるのかわからないけれど、仮に戻れないとしても人のいる場所での暮らしがしたいのが本音よねぇ」

「うん。そうだね~。んじゃ、山越える~?」

「どうかしら。あれ見て越えたいと思う?」



 私は視線を動かして遠方にそびえ立つ4千メートルは越えるだろう切り立った断崖を見た。

 ケリーもそちらに視線を動かす。



「……ちょっと、というか、かなり厳しいかも~」

「でしょう? ……何か解決可能なスキルを覚えるとかしないと、ここを出ることは難しそうなのよねぇ」



 いずれはここを旅立つのかもしれないけれど、私達の力で踏破するにはあまりにも無謀な挑戦の様に思える。そこを馬鹿正直に上ったとしたらコントにはなるかもしれなけれど、それ以上の収穫は無く逃げ帰るのがオチよね。


 私は溜息を吐いた。


 でも、いつかは何かしらの方法でこの場を去る日が来るんだと思うの。そうじゃないと、元の世界に戻る手段もこの世界のこともよくわからないままだもの。

ケリーと一緒に滝壺へやってきたキョーコさん。

話し合いの結果(?)魔除け像が出来ました。

ご利益の程はいかに。

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