024 ガリ
怒涛の二話目投下。
第24話「ガリ」
あたしはガリ。
数日前に唐突によくわからない場所に来てしまったの。
毎日忙しなく暮らしてきたあたしからすると、こんなところに来てしまってどうしようという気持ちが有る一方で、こんな景色のいい場所に来ることなんて、一生を考えてもまず無かっただろうと思うから、これはこれかしらという自分がいたのも確かよ。
この世界に生きているとね、どうしたって一人で生きていかなきゃって必死になるもんなのよ。そうじゃないと、自分の幸せなんてやってこない。いいえ、そもそもあたしに人並みの幸せというものがやって来ることなんて有り得ないもの。
現実世界の中のあたしは真面目にひたすら働く一方で、毎週末のススキノでのガリとしての自分を装う日々。その終末こそがあたしにとっての素になれる時間だけれど、年齢を重ねるに従って気持ち悪がられ、面白がられるだけ。
え? それは年齢関係ないですって?
しばくわよ!
こっちの世界に来て思ったことは、景色の綺麗さだけじゃなかったのよ。
入った瞬間に体がふわっと浮く様な感覚があって、夜中の三時という疲れもガッツリ溜まっていた頃合いを考えても、嘘の様に体の重たさが消えていたのよね。
それはすぐに現れた黒い狼を棒でぶっ叩いた時にも感じたの。
あたしの中では不思議と怖いという印象は無かったのよ。
ただ、何かでぶっ叩いてやらないとくらいの勢いで木の枝を探して、それで自然に構えていたの。そして、当然の様にぶっ叩いてやったって感じ。相手の動きが分からないわけでもないというか、とても不安を感じずに対応できる存在だったわ。
とても自然だったのよ。
本当に。
あたしの仕事は警備会社に勤めていて普段は警備の仕事をしているけど、昔は大工仕事もしていて、その伝手でたまにそちらの仕事もしているの。実入りで言えば後者の方が圧倒的に大きいけど、体力的なことも考えて前者の仕事をメインにするようになったのよ。でも、自分の性分的にはモノづくりをしている方が好きかしら。だからというか、家を作ろうという話になった時は嬉しかったのよ。
昔から秘密基地とかそういうのを作ってみんなで遊ぶのが好きで、板とか廃材を集めてそういう隠れ家を作って遊んだりもしたのよ。でも、そういうのに付き合ってくれるのって小学生までじゃない? それに、あたしの性癖への目覚めもあって、自分と同じ男友達との距離が徐々に開いて行ったのよね。
あたしの家って父は浮気しまくりで殆ど家に寄り付かなくて、母はその憂さをあたしで晴らすような家庭だったのよ。あたしも最初のうちは母の愚痴を聞いて同情して母を守らなくちゃとか思ったものだけれど、次第に母はあたしが成長するに従って父の面影を重ねるようになって、何かあれば父と同じだと詰られたものよ。
それがショックでね。
それでも、そんな男にはならない……とか健気に考えるのよ? でも、思春期に入って女の子に対する恐怖心が出るようになって、男友達と居た方が楽なんだと感じていたんだけれど、それが……いつの間にやらね。同性とも異性とも距離を置く様になって、一人ぼっちで居る方が多くなったわ。
この世界に入る男ってのは、大体似たような傷を負っているのよ。
そうじゃなかったら、普通の暮らし方をしていたら普通に男女の恋愛に進んでいくものでしょう? そういう風に社会の仕組みや教育って出来ているはずなんだから。
あたしはそれを被害にあったとかそんな風には思っていないわよ。
確かに寂しい人生かもしれないけれど、何をもって楽しい人生とするかはあたし次第でしょう?
高校卒業後はすぐに働ける世界を探して日雇いの大工仕事から始めたわ。時は就職超氷河期という恐ろしい就職難の時代だったから、普通の就職どころか、たかがアルバイトですら何十件と落とされるの。次第に人格を否定される様に、いえ、実際否定していたんでしょうけど、そんな話を何度もされていたら嫌気がさして、普通の仕事が無理ならって日雇いを探したってわけね。
最初はとてもきつかった。
なんでこんなにきつい世界に入ったんだろうって。でも、体を動かしていくうちに自分のひょろい体にも筋肉がついて鍛えられていくのよね。そして、自分が作ったものが誰かの役に立っている。あぁ、良いじゃないって。
経済的にも余裕が出てきて、一人暮らしをするようになった頃かしら。夜の街に出るようになったのも。
丁度インターネットが普及を初めて、夜な夜なチャットで盛り上がったりしていて、そのメンツで飲みに行きましょうって話になって。それで出会ったのがいまだに続くキョーコとケリーよ。
最初にキョーコと出会って、その後にケリーが入ってきた感じだったかしら。
キョーコはなんていうか、天然よね。無駄に明るいというか。あの子も相当に苦労している子だと思うけれど、そういうところ臆面も見せないの。
ケリーは不思議な子よね。実際あだ名が不思議ちゃんだったかしら。独特の雰囲気のある子だから、いつも何かしら注目されている愛玩動物みたいな存在だったかしら。この年になったらどっちも場末のおネエだと思うけれど。
それにしても、変な場所よね。
モンスターが出たり、変なステータスが出たり、スキルが有ったり。こういうのバーチャルリアリティっていうの? ……そういうゲームが有ったら凄いわね程度には感じていたけれど、まさか自分がそれを体験するなんて思わないじゃない?
キョーコが作ったフェンリルブレードなんてぶっ飛んでいる性能よ? 振るえば遠くの木がスッパリ切断されるんだから、最初見たときは目が飛び出るほど驚いたわよ。あ、実際には飛び出ないわよ?
家づくりは昔取った杵柄というべきか、頭の中で適当に想像してどんどん作っていったわ。定規とかが無くて最初は困ったものだけれど、無ければ無いで工夫できるもので、自分でもびっくりするくらい作業も早く出来ちゃって、その日のうちに完成するとは思わなかったわ。
そうなのよ。
体の軽さとかの感覚は気のせいじゃなかったの。
疲労感が蓄積しないっていうのがまず最初に思い当たるところかしら。
動いていて分かったのは、体力の消耗がHPの減少という形で表れるということ。動けばHPが消費されるのだけれど、その動きも激しくなければ回復するのよ。これが不思議な点ね。まぁ、ゲームとかで休憩していれば回復するみたいな感覚かしら。そう考えれば不思議じゃないのだけれど、疲労感という部分のカウントの取り方が現実世界とは違う様だわ。
じゃあ、ここはゲームの世界なのかしらってことになるんだけれど、そこは分からないのよ。だって、あたし達はみんな現実世界の姿のままでしょう? ……いわゆる異世界転生みたいに全く違う姿かたちに生まれ変わったのなら、流石のあたしでも色々と実感して順応すると思うのだけれど、こう中途半端な状態で放り出されてしまった様な私達が、仮にゲームの様に復活できるかどうかなんて分かるわけないじゃない?
例えば復活の魔法とかが存在していたとすれば、死に対する考えもステータスの状態異常という感覚で捉えられるのだと思うけれど。こればっかりはね。だから、安易にゲーム感覚で死ねないのは間違い無いわ。
キョーコはマイペースというべきかアグレッシブというべきか、色々なスキルの研究をどんどんして行っている感じかしら。あの子が使っている錬金術の力はとっても便利なものだけど、あの子が言う通り不思議なことが沢山あるスキルでもあるのよね。それがまさか魔法を編み出すヒントとなるとは思ってもみなかったけれど、あの子のああいうところは凄いわよね。
で、ここから戻れるかどうかってのが問題なんだけど、実際問題戻れるのかしら?
物語的な意味合いで言えば確かに終わりが有るものだから、これが旅なら終点があると考えちゃうものだけれど、これだけ非現実的な物を見せられてしまうと、清々しい程に夢かしらと思っている自分も居るのよね。
それでも夢ではないことは分かっているのよ。
だけど、現状で手掛かりになるものが全く無い。それでいて日は暮れるし魔物も出てくる。ケリーのあの場の言葉は、あの子なりの現実への誘導だったと思う。まぁ、あたし達の世界の人間は依存する関係を容認し難いってのもあるわね。
ただでさえ精神的に重たいものを抱えて生きてきた人が多い中で、他人の重りまで背負える余裕を持っている人がどれ程いるか。問題に対して解決への答えを模索するのは各自の責任で、その上で擦り合わせ可能な所で協力する。答えをクレクレ言うのは弱さの押し売りみたいなものよ。
弱いだけじゃ生きていけないのがこの世界。現実がおかしいとしても、それをおかしいと言って曲げてくれるような優しい世界に生きてはこなかったもの。おかしい現実と寄り添いながら、出来ることをまずしていく。それでしかあたしは道を切り開けなかった。
さて、あたしはあの子から教わった魔法の力をどうにか自分のモノに出来ないかと、山の麓のいつもの練習場所に来ていたの。
いつもここで剣術の練習を密かにしていたのよ。
私はキョーコやケリーと比べると魔力に対する実感が薄いのよね。たぶん、あたしが戦士という職業になっていることも関係しているのかもしれないけれど、センスの違いというのかしら、魔法の力を感知するのが下手の様ね。
でも、あたしも現代っ子だからRPGくらいは普通にやっているのよ? 小さい頃は貧しくて買って貰える環境に無かったけれど、大人になってからはね。だから、魔法を使うとかは人並みに憧れたりしたものよ。 ……こんな世界に来て使えるというのだから、使い倒したいのが人情ってもんでしょう?
火の魔法よりは風の魔法に対する特性が高いのか、風を操作する方は割としやすいのよね。そこで、風を纏う剣技を練習しようと思ってね。
あたしは正眼に構えて目を瞑り、自分の剣に風が集まるイメージをして集中したわ。
暫く集中していたら剣を持つ手に風が吹いているのを感じられたの。
その時突然頭上で甲高い音が鳴ったわ。
ピコン!
「え!?」
思わず上を見上げたら、不自然に空中に浮いて光ってる白熱電球があるの。
同時にあたしの頭の中で確固たるイメージが沸いたの。
「飛燕」
剣を一閃すると、草原の草を巻き上げて前方にしゅっと音がしたと思ったら、正面の山肌が横薙ぎに抉られたの。
「うっそーん!?」
破壊力半端な!
何アレ。
某国民的RPG制作会社の独特な成長システムと連携で有名なアレから着想を得て作ってみたけれど、マジもんは怖すぎ。これで初歩技だとしたら、これを連続で飛ばすとかチートじゃないかしら?
上を見上げてみたら白熱電球の姿は無くなっていたわ。
「……」
と、とりあえず、これでダークウルフが何匹来ようが、憂いなく倒せるってことよね。
そういうことにしておきましょう。
ガリの過去が本人から語られました。
そして、電球がピッカリして驚きです。
以前のケリーの話も含め、少しずつ彼らの暮らしが見えてきました。




