095 メイリンの散歩 後編
メイリン視点が続いてます。
ナイフもフォークも箸も無いけれど、どうしたら良いのかしら?
周囲を見てみると、どうも手で取って食べているわね。
近くに置かれた白い布は何かしら。
細長い木製の皿の上に置かれた布は丸い棒状に丸められて収められているわ。
ご夫婦の方を見てみると、その布を使った形跡があるわね。
私は布に触れてみると、布はとても暖かい熱を帯びて湿っている。半ば熱くも感じるそれを私は手に取って広げてみたの。ほんわりとした熱気が出てホッとする温かさ。それで手を拭いてみたらとっても気持ちいいわ。何これ、こんな布を出すなんて初めて見たわ。
私がうっとりと手を拭っているのを見て、ご婦人が微笑みを浮かべて話しかけてきたの。
「それ、良いわよね。私も初めて使ったけれど、うちの使用人にも作らせてみようと思っているわ。こちらの料理は手を使って直接持って食べる料理だから驚いたものだけど、この布で清潔に拭えるという趣向の素晴らしさを見ては、さしたる問題ではない様に思うの」
「まぁ、では、奥様も直接お手に触れて召し上がったのですか?」
「えぇ。こういう料理も良いわね。とってもシンプルな作りなのに、味付けも素晴らしくて癖になりそうな程よ」
笑顔で語る奥様を見ていると、その話が私を引っ掛けようとしているものではないことは瞭然ね。旦那さんもそれに頷いているところを見ても間違いないと思う。
私はサンドウィッチを眺める。
どれもおいしそうだけど、まず最初は緑色のものが挟まった方を手に取ったわ。
見たところ新鮮な葉物野菜に練り込んだパテ状のものが挟まれている様ね。
パクりと齧りついてみると、独特の魚の風味に酸味と甘みが混ざった粉っぽい口当たりがするの。これは芋類を使っている様ね。芋類を潰しているんだと思うけれど、この酸味のある独特の味は何から来ているのか分からないわ。でも、癖になる味と言わしめるだけある何かがこの味には有ると思う。
一口を食べてしまうと、もう本当にあっという間に一切れが消えてしまったわ。
ベリーティで口の中をすっきりさせようと思って手に取ったら、ガラスがとても冷たいし水滴で濡れていて驚いたわ。どうしてこうなっているのかしら。そんなことを思いつつコップを口元に運び一口。
「……美味しい」
思わず漏れた言葉。
本当に美味しいの。氷の様に冷たく冷えたコップの中には芳醇なベリーの香りを感じさせる甘酸っぱさとティー独特の渋みが合わさって、果実感がありつつもちょっと大人な味わい。しかも、飲んだ後僅かに口の中がすーっとする成分が含まれている様で、後味が良いの。
これうちでも欲しいわ!
次に赤いものが挟まれたものに手を出してみたわ。
こちらはフェブランの実を輪切りにして葉物野菜で挟んでいるわね。口元に近付けるとフェブラン独特の青臭い香りが漂っているけれど、ハーブの香ばしさで和らいでいるかな。私、あまり生のフェブランは好きじゃないんだけれど、まぁ、仕方ないわね。
意を決して一口噛むと、確かにフェブランの香りが鼻に来るけれど、独特の酸味のあるクリームが塗られていて、その味ととても合っていて良さを引き出しているの。ちょっと癖があるんだけれど、それが癖になりそうな味とでも言うのかしら。また食べたいと思わせる食欲を湧かせる何かがこれにも有るわ。これもあっと言う間に食べちゃった。
そして、残るは黄色のコレ。
見た目には芋類を感じさせる色合いだけれど、ただの芋なんて美味しくないわよね。普通の芋料理は煮物が定番なんだけれど、さっきの緑のと同じだったら……きっとこれも美味しいはず。
私は最初の一口を食べる。
やっぱり芋の風味があるけれど、先程の赤い方にも使われていた酸味の効いたクリームと和えられていて、その中に小さく刻まれた様々な野菜が入っているの。だから芋類特有のもっさりとした食感だけじゃなくて、中にシャキシャキとした歯触りもあって不思議な食感よ。これ、パンにはさんでいるけれど、単品でも十分料理として美味しいと思う。でも、それをあえてこのパンに挟んで食べるということで手軽さを強調しているのね。
確かにこれならこうしてお店の中で食べるだけではなく、露天商の様な形態での販売にも適しているから、今後のこの店の広がりを感じさせるわね。凄いわ。
それにしても、たぶん、これら三つに共通する味付けはあの独特の酸味のあるクリームね。あれがこのサンドウィッチという食べ物の味を引き出しているのを感じるわ。
隣のフェンをちらりと見ると……、
「え……」
既にフェンはバーガーを食べ終えてティーで喉を潤しているのが見えたわ。
は、早すぎじゃない? もっと味わって食べるとかしないのかしら。
……もう、仕方ないわねぇ。
「フェン、あなた、まだ食べたいなら追加の注文なさい」
「え、お嬢さん」
「良いのよ。気に入ったんでしょ?」
「はい」
全く。フェンがこんな小さな食事で収まるはずがないもの。
フェンはベルで呼び出しをすると、先程の金髪のお兄さんにオーダーを伝えていたわ。今度はホットドッグというものに挑戦するようね。後で感想教えてもらおうっと。
こうして私達はこの店で暫く舌鼓を打った後、満足してお店を出たんです。
でも、私が出る頃もお店には人が並んでいて、その並ぶ人数は私が入った頃以上の並びに。騒ぎになりそうな雰囲気を感じたのだけれど、ギルドのライセンス持ちの人が店の近くで警戒していたりして、迂闊に騒ぎを起こせば彼らに制圧されるのは間違いないわね。
だからか、しっかり行列は出来ていても大人しく談笑していて、店側もその人達のために楽師や店員さんが何らかの余興を披露したり、水を配ったりしているの。
この町でこれほど行列が出来たお店は初めてじゃないかしら。しかもこんなに平和に。いえ、こうしたスタイルが根付いたら、グレイズはもっと変わっていくかもしれないわね。
「どうしたんです、お嬢さん。随分と嬉しそうですね」
フェンったら、私の顔を見て不思議そうに首を傾げるのよ。
結局フェンはバーガー、ホットドッグ、サンドウィッチの三つを制覇しちゃったの。だからかとっても満足そうにしているんだけど、それだけ満足なら私が何で楽しそうにしているかわかりそうなものなのにぃ~~~、まったくぅ。
「もう。貴方って人は。……だってとっても良いお店を見つけたんですもの。きっとお爺ちゃんにお話ししたら喜ぶでしょ?」
「あぁ、それは確かに。でも、これほどの行列になっているんです。大旦那様のお耳には既に入っているかもしれませんね」
「もう。そうかもしれないけれど、実際に確かめてはいないでしょう?」
「はい。左様ですね。きっとお嬢さんのお話をお待ちでしょう」
「そうでしょ? そうでしょう? さ、行くわよ!」
「はい」
早くお爺ちゃんにお話ししたくて、気持ち少し足早に私達は家路へ着きました。
街では新しい食事処の話がそこかしこでされていて、行列を見て断念する人も沢山居た様だけれど、それも一つの宣伝になっている様で、評判が町中に広がるのはとっても早かったみたい。
……あれだけ美味しいんですもの。
当然よね。
こうして二人は新しいお店を堪能したのでした。
フェンもとっても満足です。
次は裏側です。




