綾式礼奈
栞はお茶好きなんて言ってますが、私は普通です。日々の中で感じていることを書いただけなので、違うよ!もっとこうしなきゃ駄目だよ!とありましたら優しくメッセージ下さい
今日は下の階に住む茜さんが田舎から届いたと言う和菓子を持ってきてくれた。
「栞ちゃん、お菓子あるんだけどお茶缶とかない?」彼女はそう言ってズカズカと上がり込んで、棚の中などを物色し始める。まったく、茜さんも今年で30になるのだからもう少し大人らしくして欲しいのだが、本人に言わせるとちょっとガサツな方がモテるそうだ。僕はお断りだけど。ちなみに茜さんは栞ちゃんなんて呼んでいるが僕は男だ。
「あった、あったよ!栞隊長、お茶缶発見しました!」
「いや、頼んでないんだけど」とは思うが丁度和菓子が食べたかったので、何も言わない。
「へぇ、結構いいやつじゃん!」茜さんが薬缶に水を注ぎながら言う
「あれ、言いませんでした?うちの実家、宇治なんですよ。てっきり狙って来たのかと思ってました」
「ん~、そう言えばそんなこと言ってたなー。流石私、知らずにも名茶の在処を探し当てるなんて」
無視して和菓子の包装紙をあけて口に放り込む。うーん、パサパサしてる。丁度茜さんがお茶を淹れて持ってきたので口に流し込む。餡子の甘みとお茶の苦みがマッチして美味しい。
「やっぱ、栞のとこ来て正解だったよ」
「そういえば、茜さん就職は上手くいってます?」
「上手くいってたらこんなとこ来ないって」嫌だなー、と茜さん。こんなとこって酷いな
「やっぱ駄目ですか。僕もいい話がなかなかなくて」ブラックとかは嫌だからなー
「それなんだけどね、栞ちゃんにはいい話があるのよ」
「また、神社の藁人形回収とか言うんじゃないでしょうね」去年の夏のことだ
「違うって。惜しいけど」惜しいのかよ!
「まあいいですよ、言ってみてください」
「私の知り合いに趣味でリアルな人形とか作ってる人がいるんだけどね」
「危ないですね、通報した方がいいんじゃないですか?」
「ううん、大丈夫。そんなに醸してないから。それで人形作りに今まで助手がいたんだけど、その人この前、死んじゃったんだって」いやいやそれヤバいって!危ない雰囲気醸してるって!
「それで若い男の人を募集してるんだって。どう?」
「どう?じゃないですよ!危なすぎますって。ていうか前の助手の人、人形にされたんじゃないですか?」
「嫌だなー、そんな訳ないじゃん。怖いこと言わないでよ」
「何て名前なんです?」
「彩式礼奈」
「あら、可愛らしい名前」
「じゃなくて、真面目にそんな人とは関わらない方がいいですって」
「そう?」「そうですよ、僕、茜さんが解体されて人形にされてる様子を想像するだけで吐き気がします」
「よし、わかった!栞ちゃんがそう言うなら、もう会わない」
「約束ですよ、僕と茜さんが同じアパートに住んでいる限り茜さんはその人とは合わない」
「別のとこに住んでればいいの?」
「ええ、茜さんとはそれ以降付き合うことはないと思うので」
「そんな~」ぶーぶー言いながらお茶を啜る茜さん、と思ったら噴出した!
「あ!」それはこっちのセリフだ!
「栞ちゃんのこと例の人に話したら興味あるとか言って、この部屋に呼んじゃったんだった!」
「ふえっ!?」マジですか?
「あああああ、二時にくるって言ってたんだったぁ」
「二時ってもう一分もないですよ!」
「いきなり約束破ってごめん!」いやそっちじゃないっ
「終わった、人生が終わった」 キンコーン
「うわあ、来た!」
「もう駄目です、茜さんの話を聞いて玄関で笑顔で挨拶できる気がしません、茜さん出てくださいよ」
「えー、早速自分から約束破るのは気が引けるな」
「そんな数十秒のタイムラグで罪の重さは変わらないですよ」
キンコーン
「うわ、また鳴った!」チラッと茜さんを見る。駄目だ、動く気配がしない。
「はぁ、いま行きますよ」ガチャ
さほど重くない扉をあけるとそこには…誰もいなかった
「なんだ、ピンポンダッシュか」うちはキンコンだけど
「おい!」ああ、生きているって素晴らしいな
「おい貴様、どこを向いている!」…聞こえない聞こえない。さてと、戻ってお茶の残りを飲みますか。
「こっちを向け!」そう茜さんは嘘をついたんだ
「こっちを向けと言っているだろう!」「ふぎゃー」ドタンとアパート中に音が鳴り響く。何か足に重いものを感じる。気付いたら僕はうつ伏せに倒れていた。
「何するんですか!」足には小さな女の子がまとわりついていた
「貴様が呼んでも無視するからだろう!」
「当たり前です!こんなぼろいアパートに小さな女の子を中に入れたら、少女を監禁してると思われるでしょうが!」
「日頃の行いがいざと言う時には周りの認識に影響を及ぼすからね~」茜さんが出てきて口出ししてきた
「黙ってください。で、何の用です?って、おい!」少女は茜さんに抱きついている。
「レナちゃん久しぶり~」茜さんが頭を撫でられながら言う
「レナちゃん?知り合いですか?」
「知り合いも何もこの子が例の彩式礼奈」今度はくすぐりあっている
「はぁ!?」
はあ、何故こんな事になってしまったのだろうか、彩式礼奈の前には貢物もとい僕の非常食のお菓子が積まれていた。
「茜さん!何なんですかこの子!」クッキーやらチョコレートやらが次々に飲み込まれていく。しかも上品にゆっくり食べやがるからイライラする
「すまない、申し遅れた。妾は彩式礼奈とゆう。…モグモグ。」それは知ってるから早く次を言えよ!
「茜嬢とは新宿のとある店で出会って意気投合したまにお会いしている。…スス―。」これはお茶を飲む音だ
「それでな、妾は仕事で人形を作っているのだがな、助手の石川君が彼の事情で逃亡してしまったのだ」石川君って誰だよ。あと、しゃべり方変だな
「はあ、それは理由が気になりますね」
「うむ、俗にいう夜逃げだ」助手死んでないじゃないか
「不景気ですもんね」茜さんを睨む
「うむ、それで助手がいないと妾の仕事も滞るので新たに助手を持とうと考えたわけである」
「それでなんで僕なんです?」
「それは、茜嬢に貴様の部屋には名茶があると聞いたからであろう。実際、この茶も美味である」
「はあ、それはありがとうございます…。それだけ?」
「ああ、以上が妾が貴様を助手に選んだ理由だ」 「ちょちょちょ、お茶のことは言わないでって言ったじゃん!」レナちゃーんと茜さん
「何故隠してたんです?」心底気になる
「だって、言ったら栞ちゃんが隠してる最高級茶葉を勝手に飲んだことばれちゃうじゃん」
「はぁ!?飲んだんですか!僕がバイトしてわざわざ実家に行って頭下げてようやく50万で買えたあの茶葉を!?」
「なに!そのような物まであるのか!茜、持て来い!」「了解です!」「了解じゃない、あの茶葉を素人の手で汚させてたまるものか!」
30分ほどアパートの埃を落とした後、いつもの静けさが戻った。
…ようは僕が負けたのだ。 「お茶っていうのはですね人間と同じように生きているんです。だから、種類はもちろん袋によっても違う特徴を持っているんです。だから茶葉と心を通じ合わせて丁寧に淹れなきゃならない。たとえ高価な茶葉でも雑に扱えばスーパーで買ってきたものよりも味が落ちてしまうこともあるんです。この最高級茶葉はポテンシャルが高いから特に凝った事をせずにもお湯の質を注意深く管理すれば安定して質の良いお茶が入れられる。和やかなお湯を作りたいからまず、土釜で湯を沸かす。金属だとどうしてもトゲがついてしまうから。そしてこの間に」
「説明は良いから、黙ってやってくれないか?」綾式があくび混じりに言う
「…」 「ほら、できたから飲んで見てください。まず色です。何ともいえない厚みがあるでしょう?今回はこの厚みを生かしてゆったりしたお茶を作りました。」
「香りをかいでみて下さい。」
「はぁ…」3人で揃えて溜め息をつく。
「では、ゆっくり飲みましょう。」 「…」アパートに沈黙が訪れた
「凄い、柔らかい」茜さんが口を開く
「一度に行く年も過ごしたようだ…」綾式が言う
「どうです?これが最高級茶葉です」
「納得しました」
「そうだな。栞君、君は今日から私の世話係だ」
「…」そうだった…。結局、上手いお茶を作るだけ彼女の圧力は強くなるのだ
「まあまあ、レナちゃん、まだ契約金とか話してないじゃないの~」そういう話じゃないっ
そういう話だった…。
「月収15万!?」生まれて初めて見る数字だ。しかも経費抜きでだ。
「茜さん、この子何やってるんですか?やっぱりこっちですか?」
「こっちと言うのはよく分からないが、別にやましいことなど無いぞ」
「だから言ったじゃん。人形を造ってるって」
「まあ、やましく無いなら何だって良いですけど。でもこんな子供が何を作ってるんですかね?」
「妾は子供では無いぞ」…
飲み干したお茶の後には深い緑の茶葉が溜まっている




