大平原の決戦ー急変する事態ー
皆さんのお蔭で週間1位も取れました!ありがとうございます。活動報告でも書きましたが、1話から6話まで加筆修正を行いました。今まで色々醜い誤字や脱字、申し訳ありません。
(ジロウ様からの伝令です、『ハンター』を撤退させることに成功。本陣までの道を開けてほしいとの事です)
(解った。道を開けつつ先のウィルムを退治しておくと伝えてくれ)
(了解しました)
『超合金』のロボットは、ヨーコが手に入れて。ジロウは『ハンター』を 撃退か。倒し損ねた様だが、この戦場から撤退させただけでも戦況は変わるな。
『魏武将』の方は、まだ戦闘が継続してる様だな。だが、足止めには成功してるからこのまま本陣攻めても大丈夫だろう。…本人は足止めとかしてるつもりは、全くないみたいだがな。遠くからでも二人の声が聞こえるし。
さてと、さっきから波動剣で斬りまくっていたんだが、敵兵が流石にビビッて襲い掛かってこなくなった。俺の通り道が血に染まっていて、挑めば殺されると解ってしまったみたいだな。
試しに一歩歩けば…。
「ひっ…!!」
敵が怯えた声を出して道を開け始める。これじゃ流石に、斬りかかる訳にもいかないな。俺と戦う意志を無くしてる。俺には都合が良いからこのまま突き進むか。 シャウトでもこの距離は遠くまで届きそうにないな。圧倒的な力を感じさせるには…今迄使っている機会が無かったが『システムメッセージ』でこのエリア全体に伝える方が良いだろう。指定先も出来るみたいだな、ならば敵全体を指定して…。
『武器を捨てて道を開けろっ!!邪魔立てするならば…斬るっ!!』
俺は威圧感を込めて『システムメッセージ』で叫ぶと、見事に敵が俺の直線状から武器を捨てて逃げ出した。
「何だっ…!?頭に直接言葉がっ……!!」
直接頭に伝わったのか、相当、恐怖を与えてしまったみたいだ。
「貴様らっ…!武器を捨てるとは何事だ!帝国軍人としての誇りはないのか!恥を知れ!」
唯一残っていた馬に乗った部隊長っぽいのが居たが、馬でさえ怯えて後ずさりをしている。動物は人より危険に関する感覚が敏感だからな。このままでは、命が無いと解ってしまったのだろう。
俺は、兵士達が開けた道を駆け抜けて、部隊長と思われる奴の首を跳ね、振り向きもせずに直進する。
すると、程なくしてから巨大なウィルムが見えるようになり、『ウィング』を再発動して空を飛びながら、一体のウィルムにむかって横薙ぎの一閃を加える。追加攻撃で4回の斬撃がウィルムに入り、長い胴体がバラバラに崩れ落ちていく。
俺はそのまま、近寄ってくる2匹のウィルムに向かって、フレイムジャベリンとボルテックスバースを放とうとするが、魔法を構えた俺に向かって倒したはずのウィルムが身体を巻き付けてきた。よく見れば、5等分にした胴体が半分までくっ付いたように再生し、二つの胴体で俺に絡み付いてきている。
「こいつ再生能力持ちかっ!」
伝承のウィルムの事を思い出した。確か、幾ら切っても直ぐにくっ付き、毒の息を放つドラゴン。ならばこいつの対処法は。
俺は2匹のウィルムに向けていた手を、巻きつこうとしてきた半分のウィルムに向けて、フレイムジャベリンとボルテックスバーストを至近距離からぶち込んだ。
「−−−−!??−!!?!?!?」
激しい炎と雷の魔法に、ウィルムは大きく体を痙攣させて炎を消そうと転がり、雷を受けた胴体の方に至っては、一瞬のうちに全身が丸焼きになったようでピクリとも動かなくなった。炎を受けた方の頭がある部分も転がった程度では火を消すことが出来ずに、徐々に動きが鈍くなって辺りに肉が焼ける匂いをだすだけになっていった。
「剣より魔法っと。この辺りはこの世界でも一緒みたいだな」
ウィルムの鱗は硬く、斬りつけても直ぐに身体をくっ付けて元に戻ってしまう。伝承では、激流の川に入って斬った足を流すなりして再生を妨害したが、魔法が使えるこの世界なら、普通に魔法を使って倒す方が楽だ。
魔法で黒焦げになった同族を見て、俺に近づいてきたウィルム二匹が動きを止める。巻き付けて殺そうとした同族が、一瞬のうちに魔法を受けて即死したのを見て警戒すべき敵としてみたのだろう。
一匹のウィルムは空を飛び、もう片方のウィルムは、地を這いながら俺に近づき、大きく息を吸い込んでいく。空中に飛んだウィルムも同じだ。
その様子を見た周りの兵士達が、我先にと逃げ出していく。奴らが大体何をするかは馴染みのモーションでもう解っていた。プレイヤーをやっていた頃に何度も見たモーションに近い。
2匹のウィルムは同時に俺に向かって口をあけ、猛毒のブレスを放ってきた。猛毒のブレスは、大地すら腐らせ、射線上にあった草や花をあっという間に枯らしながら俺を包み込む。避けるそぶりすら見せなかった俺を見て、ウィルムは俺が死んだと喜んでいたかもしれないが、俺は『無敵』『全状態異常無効』で毒もダメージも受けずに、猛毒の息の中で立っていた。視界が見えないが何処から放ってきたのかはマップで解るので、俺は今度こそ両手を2匹のウィルムに向けてボルテックスバーストを放つ。
「「!?!?!?!??−−−!!」」
2匹のウィルムは、猛毒の息の中から飛び出てきた強烈すぎる雷を受けて、その身を大地に伏し、ピクリとも動かなくなった。雷が弱点だったようで、即死したみたいだな。
「そんな…ウィルムがこうも簡単に…」
帝国の兵の絶望が篭った声が聞こえる。普通にこの世界の奴が戦えば苦労する相手なんだろうが、相手が悪かったというべきだろうな。
だが、確か後一匹いたはずだがどこ行った…?
俺はマップを開いて確認すると、大きな反応があった。だが、その反応は街に…?
俺が不思議に思っていると、ラーフから轟音が聞こえて、地面が大きく揺れた。
「な…何事だ!?」「まさか、王国が?」「本陣の確認を急げ!!」
俺の目の前にいた兵士が、慌てて確認の為に兵士を向かわせようとするが、一人の兵士が空から放物線を描いてこちらへ飛んできていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
こいつなら何か事情を知ってるかもしれない。
俺は、『ウィング』を使い、衝撃を押さえる為に防御を上げる単体魔法、『プロテ』を帝国兵に使い空中で捕まえる。
「あ……あ…生きてる…?」
「おい」
「ひっ!まさか…蒼き英雄…!?」
こいつも敵である俺に助けられるとは、思っていなかっただろうな。だが、こいつは敵の本陣で何が起きたか知っている貴重な情報源だ。
「殺すつもりはない。怯える気持ちは解らなくもないが、何があった?」
「あっ…そうだ!本陣が…バリー男爵が化け物に…!!」
「化け物…?」
「ああ!牢屋に閉じ込めていたんだが、突然大声を上げたかと思ったら信じられないような力で牢屋を吹き飛ばしてっ…それで止めようとした皆を…皆を食い始めてっ!!」
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時間はマサキが本陣に辿り着く少し前、異変は既に始まっていた。
マサキが、未だ戦場の半ばで敵の攻撃を引き受けつつ無双していた頃だった。
バリー男爵が、戦場にすら出してもらえずにラーフの独房に閉じ込められていた。男爵というには不適切で、爵位は既に剥奪されて今は元男爵だ。
両手に手錠を付けながらもその眼は絶望に堕ちておらず、どこか虚ろな、だが、希望へと満ちた目をしていた。
「…これでいい。これで。言われる通りに生贄はなった」
バリーは魔族との停戦協定に自分に責任があると言って、自己推薦をした。本来ならば、それは通らなかっただろう。だが、この時は何故か、通ってしまった。
裏で動いたモノがいたのだろうか。誰も反対せずに、逆に推挙すらして停戦協定の使者にはバリーが選ばれた。
そして、狙い通りに魔族との停戦協定は決裂。怒りを覚えた魔族は、そのまま苛烈な攻撃を始めて帝国の兵士を壊滅させ、ここまで来た。
「これでいいのだろう?さぁ、【英雄】の儀を」
バリーは、手錠が付いたまま立ちあがり、部屋の隅を見る。
そこには、誰も居ないと思われていたが、確かに居た。深くフードを被っていて顔が全く見えないが、そこに何かが居た。
「「ええ、後は、渡した薬を呑み、最後に住人、兵士、王子を殺すのです。それで、貴方は真なる【英雄】になるのです」」
男とも女とも付かない、二重の声を出しながら歪んだ笑みを浮かべながらフードの人物は低いトーンのまま喋る。その声はまるで、精神を汚染するような声だった。
「ああ…俺は【英雄】…【英雄】になるんだ!」
バリーは渡されていた薬を含んで、渡されていた水を飲みこむ。
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強い鼓動がバリーを襲いかかるがそれは決して不快感を思わせるものでなく、強すぎる昂揚感を感じさせる強い鼓動。
「力が…力が漲る!ははははは!」
「「そう、その力が【英雄】の力なのです。さぁ、真なる【英雄】の力を得る為に…生贄を捧げるのです」」
「解った…フフフ…ハーッハッハッハ!!」
バリーは高笑いをしながら、両腕に付けられていた鋼鉄の手錠を紙を破るように千切り、拘束から解き放たれる。
「何事だ!?」
バリーの高笑いに気づいた兵士が牢獄の前に辿り着くと、同時に、ガゴオオォンと大きな音を立てて、鋼鉄の扉が吹き飛ぶ。
「素晴らしい…これが【英雄】の力。素晴らしいぞっ!」
信じられないような力にバリーは心酔し、これがもっと強くなると笑みが止まらない様だった。
「バリー!何をしている!早く牢屋に戻れっ!お前の所為で俺のぺぎゃ!」
兵士は最後まで言葉を告げることが出来なかった。無造作に距離を詰められたバリーに頭を握られ、そのまま壁に叩き付けられると、トマトを潰したように頭が砕け散る。バリーはそのまま壁に向かって剛腕を振るうと頑丈な壁が見るも無残に崩れ落ちた。
突如、崩れ落ちた牢屋に辺りの兵士が何事かと集まってくる。
「誰に物を言っている…と言いたいがもう言う頭がないか。さぁ、【英雄】バリーの礎となってもらおうか!光栄に思うが良いっ愚民共っ!!」
異世界人を超えゆる力を手に入れたバリーは、その力をかつて味方だった者に振り始め、虐殺を始める。挑んでくる兵士も、逃げる兵も、街で商売していた民も、全てを。恐るべき剛腕で噴き飛ばし、命を刈り取り、屍を量産していく。
「腹が減った…」
空腹を感じたバリーは、無造作に近くにいた兵士を掴み、頭から喰らい付いた。
「あああ…あががが…痛いいたいっ!やめっ」
グシャリと音を立てて、兵士はバリーに食われた。その様子を見ていた兵士達は悲鳴を上げて逃げ始め、足がすくんで動けない者もいた。その中で一人の兵士が勇敢にも挑むが、軽く腕を振るわれるだけで木の葉のように吹き飛び、城壁の外まで吹き飛ばされる。
「力が増す…フハハハ…もっとだ…もっと!!」
バリーは動けなくなった兵士に向かって喰らいつき、暴食を始める。本来の英雄とはかけ離れたバリーは、空腹を満たし、力を増す為に喰らい続ける。その彼の元に大きな影が襲い掛かった。
「GALALALALALALALALA!!」
「喧しい、このゴミが」
「GA!?」
異常な事態に気づいた王子のペットだったウィルムが、バリーに挑むも圧倒的すぎる力の前に瞬殺されてしまう。
「ウィルムでさえ雑魚か…もっとだ…力を寄越せっ!」
狂気に堕ちた目でバリーは本来守るべき指揮官、民が集まって居る避難所まで走っていく。
「護れっ!帝国の威信に掛けて、この化け物から護るんだっ!」
本陣に残っていた部隊長の言葉に、兵士達は正気を取り戻したのは過酷な訓練のお蔭だった。だが、それも直ぐに無意味となり、バリーの力の前にただの肉塊となっていく。手に付いた人肉を、バリーは喰らいながら自らを高める餌に向かって走り続け、暴れ続ける。この本陣の兵士が、民が死に尽くすまで…。
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食い始めた?人間が?それじゃ、完全に化け物じゃないか。
こいつの目を見て見るが俺に捕まえられて時より、心底怯えた目をしている。身体も大きく震えて、よく見てみると腕もへし折れているようだ。吹き飛ばされた時に折られたみたいだが、痛みよりも恐怖の方が上回っているようだ。
本陣で間違いなく異常が起きている。そう思ったその時。二回目の轟音が聞こえて大地を揺らした。
街の方へ眼を凝らすと、街中が黒煙を出し、何か飛び出たのを見ると、ウィルムが空を舞っていた。だが、その身体は引きちぎられたようにボロボロで、再生を得意としていた体は骨以外無くなり、頭すら欠けていて死んでいるのが見ただけで解った。
「はっ…離してくれ!頼むっ!殺される!バリー男爵に!あの化け物に皆、殺される!!」
俺に支えられていた兵士は、腕が折れているにもかかわらず暴れだし逃げ出そうとした直後だった。轟音が起き地震かと思うほどの揺れが起きた。両軍の兵士達は全員困惑して、今まで戦っていた兵士達が次々と戦いを止めてラーフの街の方を見ている。
俺は、腕が折れていた兵士に向かってポーションを押し付けて解放してやる。
「腕が折れている。それを飲んで回復し、逃げろ」
「へっ?」
「良いから早く!ヤバいのがこっちにくる!!全員だ!」
俺の声に全員が危険の高さを感じたのか、本陣の前にいた兵士が全て散らすように逃げていく。
さっきから気配感知能力が、今迄見た事がないほどに真っ赤になって危険を記している。『無敵』を使っている俺でも鳥肌が立ち寒気を感じるほどだ。これはリヴァイアサンでも感じた、本当にヤバい相手との感覚だ。
互いに争ってる場合じゃないと思った俺は、全両軍に対して『システムメッセ―ジ』を使った。
『全両軍に告げる!!ラーフの街において緊急事態発生!!再度告げる!緊急事態発生だ!将軍クラス、異世界人は本陣前に集まってくれ!』
俺からポーションを受け取った兵士は友軍から飲ませてもらい、怪我を回復したようだ。戦闘が中断した敵の本陣前にアデルとジロウ、ギガントゴーレムに乗ったヨーコと、飛竜に乗って春香と王子が。大きな虎型のゴーレムに乗った秋葉。今迄、戦っていたのすら止め、ハヤトと『魏武将』が生き残った将軍、兵士を連れてやってくる。
「さっきの声はお前か?王国の『英雄』。何があった?それに何だ…この寒気は」
「街で何かヤバいのがいる…あれをみろ。街に向かったウィルムの成れの果てだ」
『魏武将』の言葉に俺は、近くまで飛ばされてきていたウィルムの骨となった死骸を指さす。その凄惨過ぎる死体を見て全員が絶句し、街で何かが起きているという関心を得た。死体を見て秋葉が口元を押さえて目を逸らしていた。あれは、ミンチになるのを見ていたとしても、酷過ぎる光景だ。気持ち悪そうにしている秋葉を春香が抱きかかえて宥めている。
「帝国の奴から聞いたが、バリー男爵という奴が化け物になったらしい。人を食う化け物にな」
「何だと!バリーの奴が!?」
『魏武将』が驚く最中、3度目の大きな轟音が起きる、街に目を向ければ――――ラーフの誇る巨大な城壁が崩れ落ちた。
中から常人から見てわかるほどに異常な、真っ赤なオーラを立ち上らせた一人の男が姿を現した。その片手には元は立派な服を着ていただろうと思われる男が見るも無残に所々千切り取られ、骨や内臓が見えていた。
「アルフレッド王子っ!?な…何てことだ…」
掴まれていたのは帝国の王子のようだな…あれじゃ生きていないだろう。もう、痙攣もせずにぶらりと身体を掴まれて、人形の様にダラリとなっている。
『魏武将』の表情は険しく、目の前の男を睨みつけている。その隣も『番長』のハヤトも、同様に表情が険しい。異様な威圧感に飲まれつつある秋葉を春香と王子が宥めながら後ろへと下がり距離を取っている。元が遠距離からの狙撃が得意だからな。今のうちに、距離を取った方がいいと思ったのだろう。
「バリー…なのか?お前、何をしてるのか解っているのか!!」
「あぁ、役立たずの王子を殺した所だよ。【英雄】の誕生には犠牲が必要だからなぁ…兵も民もぶっ殺した」
「なんだと…?貴様…まさかっ!」
「ああ…その通りだ。ほぅら、見てみろ。くっくっく…立派な生贄の山だ」
バリーの指を刺した方を見れば…、最初は瓦礫かと思ったが違う。あれは…死体だ。死体の山だ。それも…服装を見れば、兵士だけじゃない…一般人も混ざってる…あれは子供だ、手を繋いだ男女もいる。それらは全て血を流し、物言わぬ死体となっている…こいつ…狂ってやがる!
「生贄だと?貴様っ…それでも人間か!!」
「俺は人間を超えた存在になったんだよ!アイツらも光栄だろ、この俺の偉大なる犠牲になったんだからよ…それがこの力だっ!!まずは、前々から気に入らなかった貴様だ。タツマ!!」
目の前でバリーが帝国の王子の頭を容易く握り潰し、ドンっと大きな音を立てて、恐るべき速さで『魏武将』のタツマに襲い掛かっていった。
今迄使う機会が無かった『システムメッセージ』がようやく出せました。