大平原の決戦③
バレンタインは特に特筆してやることがありませんでした。やることがあるとすれば半額になった高級チョコを買う位でしょうか。
ジロウは、マシンガンによる銃撃の雨の中、疾風のような速さで、弾丸に一発も当たらずに駆け抜けていく。マシンガンの銃口めがけて棒手裏剣を投擲すると『ハンター』は、マシンガンを投げつけて盾にし、即座にバズーカ砲へと武器を切り替えてジロウへ砲弾を撃ち、大爆発を起こした。
周囲の兵は、倒したと思い込んでいたが、『ハンター』の表情は変わらず、即座に腰に付けていた光る刃、ビームセイバーに手を掛けて、後ろへと振りぬいた。
ギィン―――!
周囲に、光の刃と闇の刃が交錯する音が響いた。そこに居たのは、爆発に巻き込まれたと思われていたジロウだった。
ジロウが短剣と同じサイズの刃を、ビームセイバーと合わせる。ただの短剣ならば、ここで熱で溶かされて持ち主諸共切られていただろう。だが、ジロウの持つ刃は『忍』が、持てる最上位武器闇と呼ばれる忍刀だ。
戦国侍戦記において裏の世界と呼ばれた死霊の世界のボスが極低確率で落とす最強の忍刀だ。
その忍刀は、高い攻撃力を備え、あらゆる武器破壊能力を防ぎ、ボス以外の防御すら無視するという壊れ性能を持っていた。重さを微塵も感じさせずに、最速で振るえる事からバランスブレイカーとまで言われた武器。
その刃が今、光り輝く未来の武器であるビームセイバーと斬り合った。
「今のに反応しますか…!」
「お前は、この程度では殺せんだろう」
互いに、無表情で語り合う二人。だが、二人は刃に力を込めながら押し合っている。その拮抗を、崩したのはジロウからだった。ジロウは鍔迫り合いをしながら忍術を完成させる。
「火遁:豪烈火!」
呪文とは違った術式である、忍術をジロウが発現させると『ハンター』が立っていた位置に炎の柱が立ち上り、『ハンター』を焼き尽くさんばかりの熱量が襲っていく。
すると、攻撃したはずのジロウが後ろへと飛び退き、ジロウが居た地面に一つの弾丸が撃ち込まれていた。
ジロウが視線を空に向ければそこには、火柱より高く跳躍した『ハンター』の姿が目に入る。ジロウの忍術さえ読み、回避に成功していた。ジロウの火遁が思ったより威力が高かったのか、足元に火が少しついているが大したダメージにはなっていないだろう。
『ハンター』は空中からビームセイバーを、ヒュンと風切り音を立たせながら最速で刃を垂直に振い、ジロウは後ろへと後退して避けた。そのまま横薙ぎに振う光る刃を、ジロウは闇の刃で捌きながら威力を完全に殺し、鋭い一撃を繰り出す。『ハンター』その一撃を、ジロウの腕に狙いを定めて足を打ち上げて妨害する。
「ここまで先を読まれるのは厄介ですね」
「お前の先は読みづらい。お前の方が十分厄介だ」
熟練同士の、早すぎる戦いに周囲は付いていけずに、近づくことすら出来ないまま、手を拱いてみているだけだった。迂闊に入ればやられるという異様な空間を二人は作り出しており、混戦とした戦場でここだけが静かな刃の戦いを繰り広げていた。
二人の周囲では部下達が槍と剣を振い、血を流し、倒れていくが『忍頭』と『ハンター』には、それすら視界に入っていないようだ。
二人は光と闇の刃を、猛烈な速度で攻撃と防御を繰り返している。だが、互いに必殺の時を待ち構えながら、その身を削らせ続けた。
僅かながら、互いの刃が腕や頬、腰などを掠らせて周囲に血を飛び散らせていく。二人の刃が、一合するたびに互いのどちらかが傷つき、大きな金属音を鳴らす。身体をうっすらと赤黒くなりながら機会を疑う。大きく二人は刃を交差させて同時に後ろへと飛ぶ。
二人は周囲の音が一切入っていない様に、息を荒らさず、硬直し、刃を構えていた。どれほど硬直していただろうか、先に動いたのは―――『ハンター』の方だ。
今までの動きとは違い、無造作に、防御を捨てて、ただ目の前の敵を屠るための刃と化した『ハンター』は、ジロウへと今までと比べ物にならない程重く、より早く刃を振う。
防御を捨てた『ハンター』の攻撃に、怪訝に思いながら後ろに回避してカウンターを狙おうと思ったが、突如目の前でビームセイバーが伸びて肩を深く切られてしまう。今までリーチを増した攻撃に肩を持っていかれ、返す刃を後ろに跳ぶも、僅かに身体を削られた。
『ハンター』は、ビームセイバーの出力を上げて、そのままジロウが体勢を持ち直す前に追撃を与え続け、一方的に攻め続ける。ジロウは、防戦一方になりながらも逆転になりうる切り札を使う機会を体力を犠牲にし待ち続ける。
『ハンター』は防戦一方なジロウの身体を、慎重にただ冷徹に削り続ける。辺りにはジロウの血が流れて、弱っているのが明らかだ。血を流し過ぎたのか、歳の所為もあったのか、ジロウはついに片膝をつく。
「止めだ…!」
削り弱り切ったジロウに、向けて上段から大きく斬撃を振りぬく。だが、それをジロウは待っていた。ジロウは、その斬撃に向かって自ら飛び込み、大きく体を切り裂かせる。
「何っ!?」
冷静な『ハンター』もこれには予想外だったのか硬直してしまう。そして、手ごたえがに違和感を感じた時には遅かった。目の前にあったのは、ジロウだったモノで、影の分身だった。その分身は斬られながら『ハンター』の刃を、押さえながら傷口から光を溢れさせ、膨大な熱量を放つ。
「チッ…!」
『ハンター』が、舌打ちしながら飛び退こうとするが、既に遅く、ジロウの分身は大きく大爆発を起こした。
ジロウが使ったものは、忍のスキル「影分身」と「微塵隠れ」。前者は自らの分身を囮に、後者は自らの命を犠牲にし、相手に大ダメージを起こす必殺ともいえる技だ。ゲーム時代では、この併用は無理とされていたが、ここは異世界、ジロウのHPを犠牲にし、本当の身体を持つ分身として作りだして、微塵隠れの代償を肩代わりにさせることに成功した。
『ハンター』は大振りで攻撃したのもあり、質量をもった影分身にビームセイバーを押さえられて防御も、刃を捨てて後退するのも間に合わず、微塵隠れに巻き込まれていく。
「はあ……はぁ……」
そこから、少し離れた所にジロウは息を荒げながら爆発の後を見ていた。ジロウに気付いた帝国兵が切りかかろうとするが、ジロウは振り向きもせずに後ろ回し蹴りで頭を蹴り飛ばす。帝国兵は打ち所が悪ければ死ぬが、運が良ければ生きているだろう。爆発の煙が収まった後に居たのは、爆発によりズタボロになり、破損したのか放電したビームセイバーを握りながら片膝をついている『ハンター』がいた。
「分身に体力を渡すとはな…正気とは思えん」
「正気で忍びはやれませんよ」
音も立てずにジロウは、重傷を負い動けないでいる『ハンター』に向かって歩き、ザシュっと音と共に『ハンター』の首を刎ねた。その様子に、『ハンター』の部下だった帝国兵は、肩を落とし、武器を捨て戦う意志を捨て投降。ジロウの部下が、兵士達の武器を取り上げて捕虜を収容する施設へと誘導していく。ジロウはその姿を見ずに、『ハンター』だったモノを見下ろしながらつぶやいた。『ハンター』だったモノは黒いスーツだけを残し、地へ黒い染みのように黒く解け、消えて行った。
「……逃げられましたか。まさか、一回で真似をされるとは。しかし……以前の『ハンター』にこのような力は……考えるのは後にしますか。マサキ殿に念話を、『ハンター』を撤退させました。本陣までの道をお願いします。と」
「解りました!」
ジロウからの伝令を受け取った魔法使いは、念話でマサキへと伝える。
ジロウは、『ハンター』に違和感を感じつつ、本陣までの道を駆け抜けていった。




