大平原の決戦②
感想を沢山いただき感謝します。中々返事が返すことが今は出来ていませんが一つ一つ読ませてもらっています。
今回は割と難産でした…。
番長都市から召喚された桐生・隼人。今は召喚した国を自らの手で潰しその身をセントドラグ王国へとおいて若干19の身でありながら将軍の地位まで上り詰めた。
番長都市で鍛えた指揮力、カリスマ性、そして人工チートとまで言われた程の戦闘持久力を持たせたキャラクターの身を体に宿したハヤトはその実力をこの世界でも如何なく発揮し、本物の戦争であっても大人以上にやりあっていた。
『番長』であるハヤトは一人異常なほどの強さを持つマサキに驚きつつも笑みを浮かべた。あれほどの強さであればこの戦争を早く終わらせることが出来ると。それと同時にあの強者と戦いたいと。
ハヤトは普段は温厚だが、一度戦闘が始まれば血が昂ぶり自分でも中々抑えることが出来ない戦闘狂。それは番長都市の部下も、今のこの世界での部下も皆知る事実だ。
マサキへの滾る戦闘欲を抑え、その欲を今は目の前の好敵手へと向ける。
気迫が赤いオーラとなって具現化し、先端が血に濡れた真っ赤な木刀を深紅へと染める。そのオーラは風を巻き起こし赤黒い特攻服をはためかせる
「よぅ…久しぶりだな。タツマ!」
「ああ、此度の戦、貴様との決着をつけるには打って付けの大舞台だ。貴様の所の蒼き英雄には感謝せねばな」
対する『魏武将』のタツマは槍を突き付けて答える。
二人は幾度となく戦い、切り合い、勝ち、負け、時には引き分け。もはや宿敵と呼ぶべき存在だ。
二人とも最初は同じ国へと呼ばれた。だがその国は従属する術を持たないまま召喚し、二人に蹂躙され、少ない兵士を分割されて連れていかれて滅ぶ道を辿った。
歳はタツマの方が少し上だろう。だが二人とも年齢、性別など気にするタイプではなかった。実力さえあれば関係がない。
「てめぇが帝国に付いたのが運のツキだ。ここいらでクソッタレなことする帝国をぶっ潰させてもらうぜ!」
「良いだろう、やってみろ!!魏武将のタツマ、参る!!」
二人が同時に木刀と槍を撃ち合い、発生した衝撃波で大気が揺れる。
互いの実力は拮抗、二人の迫力に互いの兵士は気を押されるが直ぐに持ち直す。
近づけば巻き込まれると解っている二人の部下はある程度避けつつぶつかる。
「弓兵撃てぇぇぇえ!!」
「前衛、盾を前と上に構え矢を防げ!後衛!火炎ビン用意!」
二人の副官が、大将に代わって指示を出す。普段ならば出す指示も、こうしてぶつかり合ってしまった二人にとっては水を差す事でしかなく、長く仕えていた二人の副官は大将に言われずとも指示を代わりに出して自軍の兵の犠牲を少なく、相手の犠牲を増やす為に兵を動かしている。
前衛が盾を構えながら矢を押さえ、それを崩そうと槍や斧で長盾を貫こうとする帝国兵士だが、的確に上から降ってきた火炎瓶によって鎧で包んだ身体が火に包まれる。
「魔法部隊!最下級水魔法を打ち上げて火を消せ!弓兵部隊!火炎瓶を迎撃だ!前衛!3軍に分かれて2つは左右に分かれて挟撃だ!」」
「左右からくるぞ!方円の陣!!火炎瓶部隊を決して死なせるな!」
魔法使いが少ないハヤトの軍は、火炎瓶や道具を使い、奇策で戦うスタイルだった。魔法戦になれてしまっていたこの世界の軍は、中々この奇策に対抗できずにいるが目の前にいる敵は幾度となく相対していた敵だ。互いに、弱点も戦い方も解っていて激しい攻防を、軍単位で広げている。それは二人の大将も同じだった。
「タツマアアアァァァァァァァ!!」
「ハヤトォォォォォォォォォォ!!」
一合、二合、三合とタツマとハヤトは斬り合って激しい剣戟を繰り出して常人では近づけぬ空気を作り出す。
タツマは槍を神速ともいえる速さで繰り出すが、ハヤトは紙一重でかわしながら突っ込んでいく。槍が引かぬうちにハヤトは木刀を突き入れるが、タツマは槍を離して木刀を掴み、更に勢いを付けるように引きこんでハヤトの顔面に向けて拳を繰り出した。ハヤトも木刀を離して拳を突きだし、互いにクロスカウンターで拳が入り、互いの顔面へと拳が突き刺さった。
「へっ」
「ふんっ」
二人は口の端から血を流しながら互いの武器を放り投げて返す。
「全くあそこで躊躇なく武器を離すとか、本当にお前武人かよ。ったく相変わらず化け物じみてるな」
「不良には拳でも十分だ。あれに反応して木刀を離せる時点で、お前も十分化け物だ」
二人は戦場の真っただ中で凶悪な笑みを浮かべる。タツマは龍、ハヤトは狼といった獣の笑み。
「おらぁぁぁあああ!!」
「はああああぁぁぁ!!」
二人は撃ち合い、殺気と覇気を撒き散らしながら誰も寄せ付けない戦いを再度始めるのであった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「サンダァァァァボルトォォォォォォ!!!」
エコーが掛かった声を上げながら『超合金』の肩にある突起から雷撃が発生し周囲に破壊の雷を落とす。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!?」
一人の王国の兵士の頭の上に雷が落ち、即死かと思われたが……それは大きな影によって阻まれた。
「え…あれ?いきてる…?」
「全く、とんでもないゴーレムね。魔法まで使うなんて聞いたことないわ」
その影は、ヨーコが使役しているゴーレムだった。だが、ただのゴーレムではなく、とてつもなくでかい。普通のゴーレムは平均4mもあればいい方だ。
だが今、兵士に手を翳し雷を防いだゴーレムは8mも超える巨大なゴーレム。ヨーコ特性のギガントゴーレムだ。
「今のうちに、怪我人を連れて引きなさい。ポーションは渡してあるはずよ。早くしないと…巻き込まれるわよっと!」
ギガントゴーレムの肩に乗ったヨーコは、肩に突きだしている巨人族の骨に掴まって直接ゴーレムに指示を出す。
距離があればその分だけ指示が遅れるが、こうして触れて置けばリアルタイムで思った通りの動きをしてもらえる。
普通のゴーレム使いでは決してやらない芸当。だが、ヨーコはそれを率先してやっていた。それがヨーコがいつもやっていたことだったからだ。
ヨーコの意志を読み取って、ギガントゴーレムは『超合金』へと向かい骨が突き出た拳を突きだす。『超合金』も、まさかゴーレムがこれほど機敏な動きをするとは思わずに胸部に直撃を受けて後ろに仰け反る。
「くそぉぉぉ!ゴーレムがこんなに早く動くなんて汚ねぇぇぞ!このチート野郎!!」
「それが私の術式よ。それにチートって何かしら?」
「お前らは俺にただひたすら叩き潰されればいいんだ!男は潰す!女は…へへっ…良い身体してんなぁ。良い遊び道具になりそうだ」
エコーのかかった声で、下品な口調で喋る『超合金』。見えないが感じる視線にヨーコは明らかに不愉快な表情を浮かべ、次の指示をギガントゴーレムに伝える。
「残念だけど、私の身体はもう売約済みなの。それに好みじゃない男に抱かれる趣味は無いわ」
冷たく言い放ちながらギガントゴーレムは、巨体に合わない速度で右足で蹴りを繰り出すが、それを『超合金』は左腕に付けていた盾のようなもので防ぎ、辺りに重厚感溢れる大きな音が広がる。鋼鉄と岩。普通なら岩が砕け散るがヨーコのは拳にも巨人の骨が入っており、鋼鉄にも負けない強度を持っていた。
「そんなの知ったこっちゃねぇぇよ!このゲームは俺の好き勝手にやれるんだ!てめぇらNPCはさっさと俺にやられちまえばいいんだよ!」
この『超合金』は召喚され、首輪を付けられてなおこの世界はゲームだと思い込んでいた。自分が好き勝手に暴れれる理想の世界。PKをしても誰も逆らえない夢の世界。だからこそ男は潰し、女は犯す。他の異世界人とは違い「何でも出来る世界」と思い込んで非道に走り続けた。元のゲームのでは、好き放題に暴れまわり、殆どのプレイヤー達から嫌われていた。何度となく運営から警告やアカウント停止に合っていたが新しく作り直し、暴れまわる事を繰り返していた。だが、ここでは誰も逆らうことが出来ない。全てが生身。自分こそが最強と言う愉悦に溺れていた。
「訳が分からない事ばかりね。こんなのに操られてこの子が可哀想。ギガントゴーレム。救ってあげるわよ」
ヨーコは『超合金』と会話するのを諦めて、ギガントゴーレムの肩を優しく撫でてやるとギガントゴーレムは、それに応じるように頷いて腰を落とし深く重く、骨拳を『超合金』の胴体に打ち込む。
『超合金』は、それも盾で防ごうとするが先ほどとは違い腰が入った拳に押されて仰け反ってしまう。更に追撃で、左から繰り出される拳をマトモに仰け反ったまま受けて大きく弾き飛ばされる。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
エコーが掛かった声で吹っ飛ばされながら叫ぶ『超合金』。彼らの戦いに巻き込まれない様にと、全ての兵士達が遠くまで離れており、巻き添えの心配は無いように思われた。
「くそっくそがぁぁl!!消しとべぇぇ!!バァアァァニングビィィイィィム!!」
『超合金』が、上半身だけ動かし目から高熱の光線を撃つが、狙いをロクに定めなかったのか、掠るだけで留まり、ヨーコの後方にいた帝国兵が熱線で蒸発する。
「ちょっと…!味方の位置位確認しなさいよ!」
「うるせぇ!!あんなのタダのNPCだ!幾ら潰しても代えは幾らでもあるんだよ!!」
「命の代えなんて無いのに…!!」
帝国との戦争でヨーコは、多数の敵や味方の命を散るのを見た。目の前の敵は、それを道具の様に、その辺りにある石ころの様に扱うのを感じ憤りを感じさせる。
「ギガントゴーレム…やるわよ」
ヨーコの冷たく怒気を孕んだ感情に、ギガントゴーレムも大きく頷いて、これ以上の敵と味方の被害を出さない為に接近戦へと持ち込む。
「やられるのはてめぇぇだぁ!ぜってぇぇ犯す!」
『超合金』は、大声を出しながらギガントゴーレムへと走り、次の瞬間、二つの巨体が大きく衝突し凄まじい衝撃音を鳴らす。
ギガントゴーレムは8m程。対する『超合金』は10mを超える。
重さは若干ギガントゴーレムが上だが超合金が体格差で上回り上からギガントゴーレムを押し潰しにかかる。骨と岩で出来たゴーレムと、鋼鉄の塊で出来た『超合金』では重さはギガントゴーレムが上回っていたが、力は僅かながら『超合金』の方が上で、上から力と重量を掛けて押し潰しにかかる。
二つの重量で地面が沈み、上からその巨体を押し付けられたギガントゴーレムは、徐々に足を曲げ、膝をついてしまう。
「ギガントゴーレム!踏ん張って!」
「無駄な足掻きだぁ!!」
ヨーコは、魔力を込めてギガントゴーレムの力を上げようとするが『超合金』は突起のついた頭をギガントゴーレムの頭にぶつけて大きくゴーレムの頭を破損させる。
「くぅぅ!」
その衝撃にヨーコは、必死に肩に掴んで堪えていた。その様子を見た『超合金』は、更に頭突きを続けギガントゴーレムの頭が半分ほど割れる。
「遊びもここまでだなぁ!」
しがみ付くしかできていなかったヨーコに向かって、巨大な鋼鉄の手を向ける。
『超合金』は顔は見えないが、下品な笑みを浮かべながらヨーコの細い体を掴みとった。
「くぅっ…しまっ…!」
「はっはっは!さぁぁぁて。皆に見てもらおうぜ!!戦場の公開プレイだ!」
『超合金』は、ヨーコの服に手を掛けて引きちぎろうする。
だが、その手前でヨーコの身体に異変が起きた。
突如ヨーコの身体は、土色になりボロボロと土塊となって崩れ落ちたのだ。
「何っ!?まさかこいつも…本体は…!」
「こっちよ。流石に異世界の物は時間がかかったわ」
声はギガントゴーレムの腹部から聞こえた。そこは、ゴーレムの命ともいえる核があった場所。狙われても結界と強固な骨で包んであったが集中して狙われればヨーコの命は無かっただろう。ヨーコは核を狙われるのを防ぐ為に。自分そっくりのダミーゴーレムも同時に使役していた。
「時間?なんのこと……どうした!何故動かない!」
「この子泣いていたわ。本当なら殺したくないのに。平和の為に作られたのにと」
ヨーコはギガントゴーレムの腹部を開けて、姿を現し動かなくなった『超合金』の頭を撫でている。ヨーコの姿は戦場へ赴くための衣装、陰陽師と呼ばれる服を着ていた。だがいつもと違うのは服だけではなく、一尾だった尻尾が3尾にまで増えていた。ヨーコは戦いながらも、魔力の糸を『超合金』へと伸ばして操れないか探っていた。魔法を扱えるものならば、その糸は見えただろうが、魔法を勉強せず、カメラ越しにしか見ていなかった『超合金』は糸を認識できずに、糸を『超合金』へと繋がれたのだ。
「泣いているだと!馬鹿馬鹿しい!ロボットなぞただの道具だ!!」
「あなたにはそうであっても、この子には心があったわ。だからこそ私に、心を許してくれたのね。……エクスマイザー」
「な…なぜその名を…!」
「この子が、教えてくれたのよ」
ヨーコが、『超合金』の本当の名を告げると、目を光らせてエクスマイザーが答えていた。ウォンウォンと目を光らせながら、音を立てる様子はまるで泣いているようだった。
「くそ!動け動け!!お前は俺の道具だろ!動くんだよこのポンコツが!!」
「残念だけど、この子はもうあなたのモノじゃないわ。私の仲間よ」
懐から一つの札を、取り出してヨーコはエクスマイザーの額に付ける。
「臨・兵・闘・者・皆」(リン・ピョウ・トウ・シャ・カイ)
この大陸とは、違った島国での呪文を手を横縦横縦と九回振りながら呪を唱え、一言一言発するたびに、エクスマイザーが光り輝き、存在を希薄にさせていく。
「な…なな何だ!何をしている!」
「陣・裂・在・前!」(ジン・レツ・ザイ・ゼン)
最後の一言を、ヨーコが唱え終るとエクスマイザーはより一層光り輝き、その輝きはヨーコがもつ札へと吸い込まれて10mもあった巨体は全て札の中に収められた。
「式神:エクスマイザー…契約完了よ」
そしてエクスマイザーが居た後に残ったのは、全身スーツを着込み、ヘルメットをかぶった『超合金』のパイロットだった。
「お前っ!よくも俺のエクスマイザーを!チート野郎!泥棒!返せっ!!くそっ…リセット…!リセットだ!弱点は解ったんだ!リセットしてやり直す!リセットボタンは何処だぁ!!」
「五月蠅い」
冷たく冷酷な目線で、見下しヨーコは別の札を取り出して魔力を込めると、釣鐘型のゴーレムが、『超合金』と呼ばれていた男を内部へと閉じ込め一切の音を封じ込める。
「空気はあるから安心しなさい。といっても、聞こえないわね。ギガントゴーレム…無理させちゃったわね。ごめんなさい」
先ほどとは、別人と思えるほどのいつもマサキに浮かべているような表情を浮かべながらヨーコは、傷ついたギガントゴーレムの頭を撫でていく。
「傷ついたまま悪いけど、まだ戦いは終わってないの。お願い、力を貸して」
ヨーコの願いに、ギガントゴーレムは「ゴッ」と岩が擦れたような声を出して、答えながら『超合金』が閉じ込められた釣鐘型ゴーレムを後にし、まだ続く戦場へと巨大な足を進める。