112話 帰郷の日
忙しく遅れました。申し訳ございません。
ヨルムンガルドとの話を終えた次の日、とうとう俺達は獣王国からアタミに帰る。なんだか短かったようで妙に長かったような気がするが、気のせいだろう。
見送りに来てくれたのは獣王や王妃、それに今回の旅で出会った同じ異世界人である屈強な身体に重火器を扱うジーク、変態的な姿だが心は確かにヒーローであったダン、俺と同じ『ブリタニアオンライン』出身のジェイムズ、他には今や三大貴族となった各当主が見送りに来てくれた。
その中で、この国の異世界人組を取り仕切るジークが一人、前に出る。
「なぁ、もうちょっと居てくれても良かったんじゃねぇか?」
「と言ってもやる事あるからなぁ。これでも伯爵だし」
「はぁ、貴族になっちまってるなら仕方ねぇか。じゃ、今度は俺等から会いに行くからよ」
ジークは俺に拳を付きだすと、俺も拳を打ち合わせる。
本来はホイホイ会いに行けるような距離ではないが、空間を超える妖精の抜け道があれば直ぐに別の大陸にいる俺達に会える。逆に俺達もこっちに来ることは出来るだろう。
ジークの次に出てきたのは獣王ヴォルガンフだ。
「此度は本当に世話になった」
「いえ、こちらこそ」
本当に王宮での暮らしは凄かった。デカい風呂に美味い飯。それで来て気さくな獣人たちの姿は窮屈な宮廷暮らしとはかけ離れたものだ。
「授けた領地の薬草などは収穫次第、そちらの領地へと送ろう。それと、これが薬草や果物の種と苗だ」
報酬の方はギリギリまで難航したが、王鳥の領地を半分貰い、そこで取れる高品質な薬草や苗、それに珍しい種やそこで取れる日持ちする収穫物という事で落ち着いた。
まーた飛び地増えたけど、管理は獣王国でやってくれるのは助かる。
「有難うございます」
うちにはありとあらゆる農作物、ありえない野菜や果物まで作り出す『農家』の春香がいるから苗木や種があれば直ぐに量産も可能だ。これを元にまた改造して色々な薬草や果物、野菜を作るだろう。
カレー味の芋とか作りだしそうだな。
「それと、これも渡しておこう」
獣王から更に渡されたのは、狼の証をした勲章だ。何処かフェンの狼形態を思わせる。
「それは神獣勲章と言ってな、わが国で歴史に残る偉業を果たしたものに授けられる勲章だ」
それってこういう場面で渡していいものじゃないだろう。本当は何か仰々しい式典で渡すようなものだと思うんだが……。いやまぁ、堅苦しい式典なんて俺も勘弁願いたいけどさ。
「いいんですか?」
「何、構わん構わん。小うるさい貴族共ならば昨日の祭りで疲れ果てておるし、ひっそりと式典をやったことにしておく。それさえあれば国内に限り、関所や門も並ばずに通り抜ける事が出来るぞ」
それは便利だな。門の行列は普通に並ぶとして、関所で足止めくらわずに進めるのは助かる。……と言っても、俺の力があれば空飛んで超えれるしな。
くれるというのであれば貰おう。他にも宿代三割カット(この分は国家持ち)にここまで来るのに使った騎獣の使用権など色々なサービスが付くようだ。
「トウドウ伯よ。獣王国はいつでも貴殿を歓迎しよう。暇があると来るが良い」
「はい。その時は俺の仲間全員できます」
今回来れなかった無双アクションの力を持つ『魏武将』のタツマや春香、それに帝国から脱出した時から俺に付いてきてくれている海賊団の皆と来てみたいものだ。多分、全員この国の事は気に入るだろう。
「マサキー、そろそろ安定する時間だよー」
ふわりと俺達の元に飛んできたのは妖精のアリスだ。
今回の帰り道は『妖精の抜け道』を使ってアタミまで戻るつもりだ。普通に帰ると一か月もかかるからな。その点、『妖精の抜け道』なら空間を飛び越えるので直ぐに帰ることが出来る。
『妖精の抜け道』を使うに当たり、妖精であるアリスなら、魔力嵐の影響も少ないし、先に様子を見て貰っていたんだ。
「それじゃ、俺達はもう行きます」
「ああ、息災でな」
「ネメアー、また再び手合わせを」
「マサキちゃんもういっちゃうのねー。よし、じゃあ私も一緒にー」
「ダメですよ。リデア様」
闘獅子族のシーザーがネメアーと握手し、色気溢れる月兎族のリデアを熊猫族のトントンが止める。
三人とも公爵とは思えない程に気さくに俺達に接してくれた良い人たちだ。
この獣王国では色々な戦いがあったが、それ以上に出会いもあった。
俺は思わず腰に吊るしているレヴァーテインの柄頭を撫でる。
愛剣の『セブンアーサー』じゃ凌ぎきれない戦いもこれから増えるだろう。万全にレヴァーテインを扱えるようにならないとな。
獣王国で出会った人々に見送られ、俺、吸血鬼のアデル、もふもふな狐尻尾を持つヨーコ、同じ世界で狙撃の名手『狙撃姫』の秋葉、三龍が一龍、リヴァイアサンのレヴィア、ウロボロスの巫女であり大狼族の末裔であるフェン、その従者でありウロボロス教団の生き残りの神官騎士のネメアー、妖精のアリスにペット枠なクリスタルドラゴンのクリスタ、新たに仲間になった格闘家の聡さん、そして――
「んじゃ、正樹の家にレッツゴー!」
「お前も来るのか。司」
「そりゃ正樹の所は温泉やろ? 丁度あっちの大陸に渡っておきたいと思ったんや。それならうちもーってな。ええやろ?」
旧友であり、昔のギルドメンバーだった司も付いてくるつもりなようだ。仲間を連れて。
司の実力は折り紙つきだ。アタミでは新しい娯楽も欲しいし、司が来てくれるなら音楽文化も発展するだろう。そのうち郊外にコンサート会場を作るのもいいな。闘技場を兼ねて。
「構わないよ。だが、うちに居つくならちゃんと働いてもらうぞ?」
「にはは! それ位はするから安心してな」
そんなこんなで出発時よりも多くの仲間を引き連れてアタミまで戻ることになった。さてと――帰ったら書類が山のように溜まってる。それを思えば帰りたくねえ……!
12月はハードになりますけど、出来るだけ更新します…!




