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獣王祭三日目その二


 司もノリノリで司会をやってるな。元から人を引っ張る力はある方だが、異世界に来てより一層それは増しているようだ。んー……できれば司も連れて帰りたいが、これは難しいかもしれない。

 声だけはかけてみるつもりだが、無理なら無理で諦めよう。仲間の意思は尊重したいし、つながりが途切れる訳じゃないからな。

 一回戦の試合が始まる中、俺達は配られたトーナメント表を開く。決勝トーナメントに出場できたのは四名。

 ネメアーの試合はニ回戦。聡さんの試合は三回戦だ。聡さんとネメアーが当たるには互いに決勝まで進まなければいけない。

 シーザーは四回戦。順調にいけば聡さんとシーザーは準々決勝でぶつかることになる。


 第一回戦の試合はトロウルの重戦士、ガル・ガンと、猿頭マントー族の武人ファフーの戦いだ。

 ファフーの武器は大木のような棍棒。細い腕のどこにそんな力があるのかわからないが、軽々と振り回すその力は見事な物だ。

 ガル・ガンは派手さはないものの、スタンダードに大型の盾と片手斧だ。

 闘技部門では、予選以外では武器の規定がない。レンタルも可能だが、自分の持つ武具で挑むことが出来る。重火器もありだが、多分下手に撃っても当たらないし、集団戦のトーナメントの時点で落ちるだろう。秋葉は別として。ナイフでも十分強いし。

 ファフーは身軽な動きでガル・ガンを翻弄しているが、対するガル・ガンはやたらむやみに動かず、じっとその場で盾と斧を駆使しファフーの攻撃を捌き、防いでいる。

 元から硬い表皮を持つトロウル族が防御に徹すると突き崩すのが難しい。まるで要塞だな。

 ガル・ガンはその場からは動かないが、絶え間なく反撃を続ける。

 激しい攻防の末に、最初に疲れを見せたのは動き回っていたファフーだ。当然と言えば当然だな。

 外から見ていてよくわかるが、ガル・ガンはその場から一歩も動いていない。ファフーは縦横無尽に動き回り、自分より大きな棍棒を振り回していた。疲れるのも当然だ。

 ファフーは勝負に出たようで、棍棒を背に持ち、天高く跳躍する。そして、縦に回転しながらガル・ガン目がけて振り下ろす。

 ここでガル・ガンが横に動けばその攻撃は空振りし、反動でファフーは自滅するだろう。

 でもなんとく予感があった。ここで避けるような奴じゃないだろうなと。

 ガル・ガンは避けもせず、盾を構える。

 盾と棍棒が当たる瞬間。今まで動かなかったガル・ガンが初めてその足を動かした。

 その動きは見た目以上に機敏で、早く、ファフー目がけて跳躍し、棍棒に向けて盾をぶち当てる。シールドバッシュだ。そこでジャンプとは恐れ入る。

 攻撃のタイミングをずらされたファフーは、衝撃を殺せずに棍棒ごと吹き飛ばされ、場外まで落ちた。

 棍棒は当たり所が悪かったのか真っ二つに折れ、ガル・ガンの盾は多少のへこみはあるものの健在だ。


『ファフー選手の場外や! 試合、そこまで! 勝者! トロウル族のガル・ガン選手やー!!』


 オオオォォォォーーーーー!!


 勝ったガル・ガンに観客達から惜しみない拍手が送られる。

 流石決勝トーナメントというべきか。見ごたえある戦いだった。

 ファフーも動きや力は悪くなかったが、切り崩す手段を見いだせなかったのが敗因だな。ガル・カンは防戦しつつも的確に反撃を繰り返した手際は見張るものがあった、

 血をにじむような鍛錬を繰り返してきたのだろう。種族的に優れているとは言え、それに慢心せずに鍛錬を重ね続けた様子が見て取れる。

 ガル・カンは観客に大きな雄叫びで返し、ごつい顔に笑顔を浮かべ、手を振りながら控室へと戻っていく。意外と社交的だな!


 次は第二回戦。ネメアーと、同じ闘獅子族の騎士、カイザックだ。彼は王家近衛騎士団の副団長で実力的にはシーザーの次に次ぐ実力者であると、司が解説していた。判りやすくてありがたい。

 フェンが心配そうに俺の方を見る。


「あの人……すごく強そうですけど、ネメアーおじさん……大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ。ネメアーは強い。だから安心していいぞ」

「はい……大丈夫です……ね」

「そうだよ。フェンちゃん。ネメアーさんは凄く強い人なんだから」

「素手でもずばーってやっちゃう人だからねー。きっと絶対多分勝てるよ!」


 隣にいる秋葉は優しくフェンの手を握りながら、優しく微笑む。

 アリス。元気づけたいのは判るがどれかに絞れ。言葉としておかしいぞ。


「そうです、ね……。……ネメアーおじさんっ……頑張ってください!」


 フェンが精一杯の大声を上げて、ネメアーに声援を送る。

 この大勢いる中、騒然とした状況でその声は聞こえるはずがないのだが、ネメアーは確かにこちらを向き、拳を上げる。

 

 ◆◇◆


 決勝トーナメントともなれば強敵と当たる覚悟はしていたが、まさかカイザック殿と当たるとは。

 目の前にいる相手、副団長カイザックの話は聞いたことがある。

 私と同じ、闘獅子族の生まれで、過去にも多くの近衛騎士を輩出してきた名家レオパルド家の出身だ。常に光の当たる場所で王を、民を、国を護り続けたレオパルド家は、黒色のたてがみを持つ闘獅子族に相応しい一族であろう。

 対する私は、祖先から邪教と呼ばれるウロボロス教団を崇める一族、ロンドウェル家。鬣は黒色。今ではこれがロンドウェル家の色だと知る者は、里のものでもそう居ないだろう。

 ウロボロス教団を崇めていたという事で、祖先が里から追放され、影の中で生きてきた。話を聞かされた時は、命までは奪われなかったことに疑問に思っていたのだが、まさかウロボロス様が時の権力者の手によって貶められていたとは。

 リヴァイアサン様――レヴィア殿と、ヨルムンガルド様から聞かされた時は驚いたものだ。

 命まで奪われなかったのは、恐らくは影ながらヨルムンガルド様がウロボロス様を、我らを守っていたのだろう。三龍という立場でも、無理に強権を強いることは出来ないだろう。下手な干渉は、神と人の両方の身にならないのだからな。

 しかし、運命とはわからぬものだ。まさか再び、私のような存在がこのような表舞台に出ることが出来るとは。

 感慨に浸るのはここまでにしよう。この場は戦いの場。余計な考えは捨てるべきだ。

 その時、不意に巫女様……ではないな。フェンの声が聞こえた。この喧騒の中では聞こえるはずがないのだが、聞こえた気がした。

 今日はマサキ君たちが見学に来ているという事なので、用意されていた席に座っているだろう。確か、あちらだったか。

 心当たりのある場所を見ると、そこではフェンが確かにこちらを見て何かを叫んでいた。

 聞こえはしなかったが、何を言ったのかわかる。私を応援しているのだ。

 余計な考えを捨てるべきだ、というのは撤回しよう。

 マサキ君達の、フェンの期待を背負い、勝つ。


「知り合いか?」

「ああ。私の守るべき人だ」

「そうか。ネメアーといったか。貴殿には礼を言わねばならんな」

「礼? 私は貴方に何かしたような記憶はないのだが……」

「しているとも。貴殿は邪教の一族とはいえ、我らが獣王、そしてヨルムンガルド様の為に戦ってくれた。獣王近衛騎士団副団長として、感謝する」


 私を邪教の一族と知っての礼か。中々出来る事ではないな。彼を副団長という身分に付けたシーザー殿の目は確かなようだ。

 他の騎士は私が邪教の一族と知ると、何処かしら軽蔑する様な目を向けていた。そういった目はもはやなれたものだったが、彼は別のようだ。

 このような騎士がいるのであれば、これならこの国も末永く安泰だろう。


「だが、手加減はせぬぞ。武器は素手だとしてもな」

「私の師は言っていた。人が初めて手にする武器は、無手だと。それは獣人も変わらない。鍛えられた無手は、鉄をも切り裂く。我が武、とくと見るが良い」

「そうか。そこまで言うのであれば手加減など失礼だな。我が剣を受けるが良い。ネメアーよ!」

 そういうとカイザック殿は、剣と盾を構える。私もそれに応じ、拳を突き出し、構えをとる。


「参る!」


『奇しくも闘獅子族同士の戦いやー! 第三回戦! 試合、始め!!』


 戦いのドラが鳴らされる。

 怒号のような歓声を背に受けカイザック殿は私に向かって剣を構え、駆け抜ける。


「せぇい!!」


 裂帛の気合と共に、迫りくる剣を紙一重で避ける。

 チッと音が鳴り、私の体毛が切り裂かれる。

 柔らかな毛先でさえ切り裂く鋭い斬撃、流石は近衛騎士団副団長。

 避けられたと判ったカイザック殿の次の動きも早かった。素早い足さばきで体制を変え、剣を引いて突きに転じる。見事!

 私は剣の平を拳で叩き、横にずらしながら懐に飛び込み、密着状態から膝を打ち上げる。

 この距離では避けれなかったのか、カイザック殿の腹部に私の膝が食い込む。

 だが、カイザック殿はそのまま、弾かれた剣を振り抜き、私の肩を切り裂く。

 私の膝はカイザック殿の強靭な筋肉に阻まれたが、多少なりともダメージを与えることが出来た。だが、私の怪我もそう軽くはない。

 肩から鮮血がにじみ出て、私の黒色の毛皮を赤く滲んでいく。

 避けきれぬと判って、捨て身で攻撃に転じるか。

 ふふ、楽しくなってきた。

 思わず笑みを浮かべるが、それはあちらも同じようだ。

 再度ぶつかり合い、拳と剣が互いの身体を削りあう。


「無手で剣とやりあうとは。確かにその武は侮れぬな。その師とやらは、この大会に出ているのか?」

「ああ。出ているとも。サトシいう人族だよ」

「あの者か!? はははっ。ならばこの一撃の重さも納得よ」

「師の一撃は、私の一撃よりも深く重いぞ」

「そうかそうか。ならば、ここで手こずるようでは、挑む資格もないという訳か!」

「その通り!」


 私もこのような場で手こずるわけにはいかない。大舞台で、師と真剣勝負できる希少な機会なのだ!

 カイザック殿も勝負に出るようだ。後ろに飛びのき、大きく距離を置く。

 一呼吸を置いて、カイザック殿は足を強く踏みしめ、私に向けて文字通り、剣を突き出して飛んできた。

 速い!

 距離を置いたのは助走をつける為でもない、飛び続けて、加速するためか!

 しかも、機動を読まれないようにとジグザグに飛びながら迫ってくる。

 最初より、数倍速い。これが彼の本気なのだろう。避けるのは至難の業だ。ならばっ!


「ぬんっ!」

「っ!?」


 カイザック殿の目が驚愕で見開く。

 それもそのはず、剣先が私を貫く瞬間、両手を合わせ剣を強く挟み込んだのだ。

 全力で挟み込んだ剣は、一寸も動くことはない。

 カイザック殿も、避けるでもなく防ぐのでもなく、受け止められるとは予想外だったのだろう。驚きと共に硬直し、決定的な隙を見せた。


「はぁぁぁ!! 〈昇竜脚〉!」

 

〈昇竜脚〉は、師から〈雷神脚〉の代わりに教えてもらった必殺技だ。


 度重なる練習と地獄のような訓練の末、ようやくスキルまで昇華することが出来た技だ。私は師のように雷など出せないからね。本当に、何度死にかけたか……。

 一瞬の内に片足にありったけの力を込めて足を踏み出し、杭のように地面を固定した後、もう片足で体のひねりと重心移動、太ももから足先にかけて、力を移動し、全力で頭の上まで振り抜く。

〈昇竜脚〉は、カイザック殿の頑丈なブレストプレートを穿ち、衝撃が彼の背中まで通り抜けた。


「ごはっ……!!」


 カイザック殿の身体が宙を舞い、地面に叩き付けられる。

 会場がしんっと静まり返り、審判が慌てて舞台に上がり彼の容態を見る。


「勝負あり!! 勝者! ネメアー・ロンドウェル!」


 オオオオォォォーーーー!!


 割れんばかりの驚きと歓声の声が闘技場に響いた。

 観客の中から嘆く声も聞こえる。闘技は賭けもやっているので、恐らくは大金を彼にかけていたのだろうね。私からはご愁傷様としか言えないな。賭け事は、身を崩さぬ程度にやるものだよ。

 カイザック殿は急ぎ、担架に運ばれ医務室へと運ばれた。闘技部門はこういった怪我が日常茶飯事なので、医務室には常時、回復魔法を扱えるものが待機している。

 エルフに妖精族、蟲人インセクティアン族と言った回復魔法の手練ればかりだ。腕が斬り飛ばされたとしても直ぐに結合してくれるだろう。

 マサキ君は、それ以上の回復魔法を扱えるのだから、彼の凄まじさは底を知れない。

 私は歓声の中、フェン達がいる場所を見上げ、手を振る。


 フェン、勝ちましたよ。次も勝ちますから、見ていてください。


 ◆◇◆


 いやー、まさか無刀取りを異世界で見れるとは思わなかった。しかもあの速さの突きだ。一瞬でも遅れたり、力が弱ければ刃が身体を貫いただろう。

 あの突きを見極めることが出来たのは、聡さんの文字通り死ぬほどキツイ訓練の賜物だろう。あの速さに慣れると大体の速度は遅く見える。

 ネメアーがこっちに向けて手を上げる。


「ほら、フェン。ネメアーに応えてやってくれ」

「は……はい」


 フェンはコクコクと小さく頷き、精一杯背伸びして手を振る。アリスも同じように振っている。


「やっぱり、ここまでくると皆凄いわねぇ」

「ああ。皆、この時の為に腕を磨いてきたのだろう。種族の多様さもあるが、見応えがある試合が多い」

「正直、私はこういった戦いを観戦するのは好きではなかったんですけど、改めてみると楽しさが分かる様な気がしますね」

「日本じゃやってても年末特番か夜中のプロレスくらいだしなぁ」


 血が飛び出るガチの戦いなんて、規制が煩くてもう見ることが出来ない。

 その点、本気での戦いを見れるこの闘技は、平和ボケしがちな俺と秋葉にとっては新鮮で楽しく感じる。血に慣れたってのもあるけどさ。

 

 そう思っていると三回戦が始まる。聡さんの試合だ。

 聡さんと熊猫族のカンカンとの戦いだが……一撃で勝負は決まった。

 カンカンが両手に盾を構え、聡さんの動きに注意を払っていると、聡さんは間合いを一瞬で詰め、盾の上から右ストレートを打ち込んだ。

 カンカンはそれに合わせて、両手盾をクロスするように構える、

 だが、聡さんの雷光を放ち、光の速さで穿たれた一撃はカンカンを盾ごと吹き飛ばして、場外失神KOをやらかした。

 まさかの一撃KOという展開に会場が唖然とし、シンっと静まり返った。

 俺も固まった。まぁ、ある程度は予想はしたがここまでとは。

 審判も一瞬の出来事で硬直し、本来ならば出すべき勝者宣言を出せずにいる。

 この空気の中で、いち早く我を取り戻したのは司会をしてる司だ。

 

『はっ! あかんあかん。こほん、勝者! 聡選手ー! まさかの、まさかの一撃で勝負が決したー!!』


 司の勝利宣言の後、遅れて観客達から大歓声が起きる。

 相手のカンカンは鉄壁の防御力で、堅実に相手の攻撃を防ぎながら盾で叩きのめすスタイルを持つ熊猫族だった。

 その防御力は前回優勝のシーザーでも苦戦する程で、優勝候補の一人でもあった。だが、その一人がまさかの一撃。

 こういったまさかの展開が好きな獣人達にとってはこの展開は大好物だったらしい。

 後で聞いたのだが、試合前にカンカンは本気で来てほしいと頼み込み、今出せる本気で挑んだようだ。それがあの一撃だ。もし防ぐことが出来れば、あれに続けて連撃が入っただろう。


 第四回戦、鬼族の刃鬼ハキと前回優勝を果たしたシーザーの試合だ。

 ハキの武器は刀で、シーザーの武器は剣。互いに長い年月を行き、剣と刀の違いはあるものの剣の道に身を捧げた者同士の戦い。

 幾度となく斬り合い、打ち合い、互いを削り凌ぎ合った勝負の末は、ハキが刀を吹き飛ばされ、剣を喉元に突きつけられた。シーザーの勝利だ。

 ハキもまた、優勝候補の一人だ。鬼族は長寿で頑丈、剛腕と言った種族的に非常に優れた種族だ。

 前回も決勝でシーザーとぶつかり合ったらしい。

 

 「くっそ! また負けた!」

 

 ハキは床に座り込みながら悪態をつくが、その顔は憎しみにこもっておらず、どちらかというと単純に悔しがってる感じだった。


「シーザー! 俺に勝ったんだから、必ず優勝しやがれ! 判ったか!」

「うむ。お主の為にも、勝利を誓おう」

「けっ。相変わらず堅苦しい騎士様だぜ」

「それがそれがしなのでな」


 口は悪いが、性根は悪い奴じゃないようだ。シーザーと拳を突き合わせ、互いに笑いあっている。

 ライバル関係なのだろう。


 次は準決勝だ。どれもが見応えのある試合になるだろう。個人的に、シーザーと聡さんの試合が気になるな。



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ガチな対人戦闘。ネメアーと聡の相手は獣王国でも相当の腕利きで、決して弱くはありません。

単純に相手が悪かったというだけですね。特に聡。本当ならガードクラッシュの一撃から壁コンまで繋がります。世紀末ならバスケルート。

次回の更新ですが、間に合えば明日にでも……。溜め込み分消化しきりましたorz(年度末忙しすぎるヨ!

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最近はこちらの方も日曜更新で頑張ってます。 宜しければこちらの方も感想や評価諸々を下さると大変喜びます。 TSさせられた総帥の異世界征服!可愛いが正義! re:悪の組織の『異』世界征服記~可愛い総帥はお好きですか~
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