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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
2.人界に集う光と闇
40/186

2-20

 裏通りを駆けながら、ルーヴァンスが首だけで振り返る。銀の髪が揺れた。

「ヘリオスくん。急いでください」

「はぁ、はぁ。べ、別に急がなくていいじゃん、ルーせんせえ」

「何を仰っているのですか? 他の方がティアと合体したらどうするんです!? そんなことになったら……僕は死にます!」

「何で!? たぶんルーせんせえが考えてるようなことはしないよ! あと合体じゃなくて一体!」

 騒がしい二人に対して、飲食店の勝手口や民家の窓から、迷惑そうな視線が集まる。

 ざわっ。

 彼らの視線が一斉に上へと向いた。

 昼間にもかかわらず闇が一帯を満たしていた。陽が消え去ったかの如くであった。

「……へ? 何か暗くなった?」

「……これは!」

 かっ。

 驚愕に表情を歪め、ルーヴァンスが足を止めて辺りを見回す。

 すると、勝手口に立つコックや窓辺に寄る市民から、黒い何かが流れ出でていた。

 それらの黒は天を――天に浮かぶ黒翼の者を目指して逝く。

「なに、あれ? 人? 悪魔?」

(魔化術か。戦場ならともかく、町中でとは穏やかでないな……)

「ルーせんせえ?」

 黒天を睨み付けて舌打ちするルーヴァンスを、ヘリオスが訝しげに見る。

 その間にも、天に浮かぶ者は黒を町中から集めている。

 ソレはルーヴァンスやヘリオスの身からも溢れ出でた。

「うわっ! こ、この、人から出てる黒いの何なの!?」

悪気あっきというモノですよ。まあ、僕は単に力と呼ぶべきと思いますがね」

 神代の説話より、悪魔は現代悪魔学において、人に宿る悪い気――悪気が元となって生じたという。

 しかし、古代悪魔学において悪気は、必ずしも悪いモノと考えられない。善悪にかかわらず、広義での『力』を示す。

 それゆえに、悪魔は現代悪魔学で完全悪とされ、古代悪魔学では単なる力有る者とされる。力有る存在という意味では、悪魔は神と同視される場合もある。


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