2-19
「……ったく、クソ虫どもがゴミみてーに集まっといて、結局、最初に見つけたクソガキが一番マシとかくだらねーですね」
嘲笑を浮かべて精霊さまが呟いた。
彼女の言葉を耳にして、ブルタス隊長が動揺を顔に浮かべてティアリスに詰め寄る。
「お、お待ちを、ティアリス様! セレネお嬢さんはアントニウス家のご息女。危ないことをさせるわけには――」
「クソ虫どものくだらねー事情なんて知らねーんですよ。黙ってろです」
ビシッとブルタスを指さして、ティアリスが睨みを利かせる。
見た目が女児の割に、不思議と凄みがある。
そうしてから、彼女は正面を見据える。機嫌よさそうに、集った人間たちを見回す。
「では、てめーらは解散しやがってくださいです。無駄足ご苦労様ですよ。このクソ虫」
ざわざわ。
楽しげに紡がれた唐突な暴言を受けて、人々の間に不満の声が伝播する。
市井のそのような声にはっと反応して、セレネがようやく苦悶地獄から帰還する。
慌ててティアリスの腕を引き、ひそめた声で注意を促す。
「……ちょ、ちょっとアリスちゃん。もう少しお手柔らかにお願いします」
「めんどくせーです。役立たずは切って捨てるのがワタシの主義ですよ」
いさぎよい態度だった。
「そんな、あえて敵を作らなくても……」
「敵になったところで、精霊術で瞬殺できる奴しかいねーから気にすんなです」
精霊さまが肩を竦めて、世間話をするように虐殺の予告をした。
冗談めかしてはいるが、極めて物騒である。
「……せめて『殺』はしないでくださいね」
肩を落としてため息をつき、セレネが呟いた。
すっ。
ブルタスが一歩前に出た。顔には諦観の念が浮かんでいた。その表情を引き締める。集っている者たちを見回して、大きく息を吸う。
「皆、ご苦労だった! あとは精霊さまと我らに任せてくれ! 事件の早期解決を約束しよう!」
「ま。そこはワタシも確約してやりますよ」
ティアリスが腕を組んで語る。
そうしながら、上目遣いに町の空を見上げた。にやりと笑う。
「さっそく、鴨が葱しょってやって来やがったよーですし」
「きゃあああああぁあ!」
ティアリスにつられて視線を上げたイルハード正教会信徒の女性が、悲鳴を上げた。
つられて皆が天を見上げる。
「あ、悪魔……? いや、人……?」
人々の視線の先で、男が漆黒の翼を大きく広げて羽ばたいていた。かの者の身体や表情は人のそれだったが、背に負うのはまさに悪魔の翼であった。
バサッバサッ。
羽音を立てて空を漂うモノは、どこか頼りなさげで虚ろな目をしている。
「……下級クソ悪魔の力を注入されたクソ虫みてーですね。今度は魔化術ですか」
独白ののちに、精霊さまが舌打ちをする。
「ちっ。精霊術だけだとキビしいですね」
「な、何だ!? 黒い光が!」
キィーン!
鋭い音が町を駆け抜ける。呼応して、方々から闇が集った。闇は有翼の男へと吸い込まれていき、天にはあたかも太陽の如き黒の塊が生じた。
絶望を強いる黒々とした光がリストールの町を照らした。




