セクハラ野郎には鉄の処女を
今どうにか出来るなら、アリサに差し出して拷問道具の実験台にしたい人間ナンバーワンに躍り出たコウ。
(暫定チャンピオンの父はとりあえず二位陥落)
憎らしい!
そうは思いつつ、どかさないと部屋に入れないので声をかける。
「ちょっと、何しているの。どきなさいよ!」
「えー、何?」
「聞こえないふりしてないで、どいて!」
「そんな遠くから、何わめいてるのー?」
近づきたくないが故に、二人の距離は数十メートルあった。
「だいたいわかるでしょ、あっち行け!」
ジェスチャーを交えて、追い払うように手を振る。
すると、コウは可愛い笑顔で手を振りかえした。
「違う!」
なんだあいつは天然なのか、それともわざとなのか。
視力はいい椎菜は、笑顔で手をふるコウをぼんやりと見つめる。
もう少し近づかなくてはいけないようだ……。
「だ、だから……部屋に入りたいから、どっか行ってと言っているの!」
そろそろと、すり足で近寄る。
部屋にさえ入れば、熱光線銃が守ってくれる。
最初は大げさな、と思ったけれど、今となっては椎菜の重要なサンクチュアリになっている。
「部屋に入られたら、会話できないだろー」
見破られていた。
唇を噛み締めながら、そろそろ近寄る。
なんとか、五メートル弱には縮まった。それ以上は無理である。
「さっきのことは、全然気にしていないから。だから、もう私のことは放っておいてくれるかしら?」
滅多に使わない言葉遣いをして、愛想笑いを浮かべる。
しかし、コウは懐っこい笑みを浮かべると、少し寂しそうに首を下げた。
「ゴメン」
身構えていた椎菜は、思わず固まる。
謝られるとは思っていなかった。
「俺、あんまり女の人と話さないし、口ベタだから。どういう接し方わからなくて……」
そういえば、コウはどこの人間なのだろう。
日本人だと思っていたが、茶色い髪は地毛なのか。
白い肌に、薄いガラス玉のような瞳は、もしかしたら純血の日本人ではないかもしれない。
ここでは、そういった個人情報を手に入れることはできないが、アリサも日本人かはわからない。
だから……。
「それは、言い訳にはならない。私をそれで篭絡しようとでも? 馬鹿にしないでよ。鉄の処女にでもぶっこんであげようか?」
鉄の処女とは、鉄の棺の中に無数の針があって、生きたまま全身を刺される処刑道具である。
椎菜でも知っている、メジャーなものだ。
冷たい返事に、コウは舌をぺろりと出した。
「同情作戦失敗か。俺は情報分析しかしないから、心理戦は苦手だ」
苦手どころか、こっちはやったことない。
椎菜は再び身構えた。
「シーナが、そこらの馬鹿な女と違うということはわかったよ」
「この三文芝居に騙される人いるの?」
「いるよ。シーナが思うより、騙されたい人はたくさんいるから」
馬鹿な人、ではなく騙されたい人、という言い方が気になった。




