上手に騙されるも賢い方法
「騙されたがる、ってどういう意味?」
「騙された方が、楽しくて、ある意味賢い、ってことだよ」
意味がわからず、椎菜は首をかしげた。
廊下で立ち話をしていると、少し体が冷えてくる。
しかし場所を変えるつもりもないのでそのまま続行する。
「たとえばさ、嘘だと分かっていても、愛しているよなんて言われたら、その時は気分がいい」
「でも、それは偽りじゃない」
自分が言われたわけではないのに、愛している、の言葉に思わず顔が赤くなる。
「偽りでもいいんだよ。本心から愛を囁いてくれる人なんて、そうそういない。一生に一人か二人か……ひとりもいないかもね」
すると、コウはにやっと笑った。いやらしい笑みではあったが、つい引き込まれてしまう笑顔だ。
椎菜は思わずあとずさる。
「結婚していたって、そこにはどこか打算がある。好きだ、愛しているって言っておけば、女は満足する」
「そんな単純じゃない」
馬鹿にしているのか。
苛立ちを隠しきれなくなってきた。
「浮気されても、お前が一番、お前の元に戻りたい、って言われたら許す。心のどこかでまた浮気をするかもしれないと思ってもね」
「でも、許しを請うときは本心かもしれない」
すると、コウは指を鳴らし、椎菜に人差し指を向けた。
「その通り。上手に騙されているのは、女だけじゃない。男なんだよ」
急展開に、ついていけない。
戸惑いつつ、椎菜は意味を考える。
……やっぱりわからない。
「愛を囁けば、自分にとって一番大切な人間を作れる。許しを請えば、またその人の元に帰れる。女はわかっていて、上手に騙される。男は騙せたと思って女に騙される」
じり、とコウは椎菜に近寄ってきた。
「何を言いたいのか、ちょっとわからない」
一歩下がりながら言う。
「みんな、偽りの中を生きていて、ある程度それに満足しているってこと。俺たちみたいに情報で凝り固まった人間には、ちょっと理解出来ないんだけどね」
情報分析に、人間の心理など必要ない。
その割りに、コウは人の心にずけずけと入ってくる。
このままじゃ、押し切られてしまう。
だけど、椎菜には反論するテクニックがなかった。
「はっきり言ってよ」
手の汗を感じながら、じりじりと下がる。
「シーナも、騙されてみればいいんだよ」
「はぁ?」
「俺のこと、大好きっ、って言ってみなよ。そうしたら、本当にそう思うかもよ?」
可愛い顔して、なんだかえげつないことを言われた気がした。
「絶対言わない」
「言った方が面白いのに。そんなに警戒心丸出しだと疲れるよ」
「もっと疲れたくないから、このままでいいの」
警戒心を解いたら、男が近くをうろついて、それを我慢しなくてはいけない。
だったら、これでいい。
「言いたいことは言えた? さっさと帰ってよ」
手で追い払うと、コウは諦めたように手を上にあげ、首をふった。
「知ってる?」
手はそのままに、コウはうしろに下がりながら言った。
「解読出来ないアクセスキーが、一番燃えるんだよ」
「君のアクセスキーは何かな、とかクサいこと言ったら、アリサに言いつけて拷問させるから」
言われた、とちょっと残念そうに肩をすくめる。
言うつもりだったのか。残念すぎる。
「じゃあね」
コウは手をふって、フロアの奥へ歩いて行った。
階段もエレベーターもない。
ということは。
「同じ階かよ」
早いところ、熱光線銃に守ってもらおうと、椎菜はカードキーを使い、自室に入った。
とうとうモテ期が来てしまった!
嬉しくない……とは一概には言えないのは、早くも騙されているから?




