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予想通りのアリサの正体

 アリサと、カフェスペースに行く。セルフでコーヒーが飲めるし、ウォーターサーバーに自販機もある。

 紅茶のティーバッグもあった。


「新入学を祝して、かんぱーい」

 各々、好きな飲み物を手にし、テーブルについた。

 日当たりがよく、観葉植物もある。街並みも一望でき、ここがスパイ養成学校だとは思えなかった。


「あの、あなたはなんの得意分野があるのですか?」

「敬語なんてかたっくるしい。いいよ、アリサで。あたし、本名が有田だから、アリサってことにしてる」

「いいんですか、本名明かして」

「ま、本名というものは何個もあるけど。本当の本名はおしえなーい」

「はぁ」


 グロスで可愛らしく光る唇を尖らせる。

 可愛いし、きれいだし、問題はないはずなのにやはり違和感がある。


「あの、アリサは、男?」


「あら、やっぱり勘が鋭いのね」

 当たりか。できれば外れて欲しかった……。

 絶望的に肩を落とす。でも、見た目は女だし、どうにか話せそうだ。それならそれで構わない。

 そういう性癖であることをありがたいとさえ思った。


「えーと、あたしの得意分野? なんだと思うぅ?」

「知らないから聞いてるんですけど」

「つまんない子ね」

 面白いとかつまらないという問題なのか、これは。

「……情報分析とか?」

「あは、そう見える? 正解はねー」

 金髪を指で弄びながら、口の端を持ち上げる。

「でも、情報をタダで渡すわけにはいかないの。それがここのルール。だからシーナちゃんも何か教えて」


「そうは言っても……知りたいことがあるなら言いますけど」

 そうだなー、とアリサは天井を眺めた。

 美しい指先を見て、今度は逆に男だとは信じられなくなった。


「ま、どうせすぐわかることだから、簡単なことでいいよ。性癖とか」

「全然簡単じゃないんですけど」

 ロクでもないことを聞くんだから。


 男嫌いはバレたくない。余計な弱みを見せたくない。


「まぁいいや。今回はサービスね」

 そう言って、耳元に口を近づけてきた。男、と思うとぞっとしたが、必死で我慢する。

「ご・う・も・ん」

 きゃー、言っちゃった、とアリサは頬に手をあてる。


 拷問? 拷問ってあの?


 この優しい、細い体からは想像出来なかった。残酷なことができるなんて。

「えっと、どんなことするの?」

「体験してみる?」

 嬉しそうに言われ、思いっきり首を振った。

 この人、ドSだ。

 青い顔をしていると、アリサは面白そうにコーヒーを口に含んだ。


「シーナちゃん、何か隠しているようね」

「な、なんでそう言えるんですか」

 慌ててお茶を吹きそうになったが耐えた。

「拷問とは言っても、別に肉体的苦痛を与えるだけじゃ脳がないからね。瞳孔、筋肉、鼻、発汗……ありとあらゆる肉体的反応を見逃してはいけないの」

 指を組み、顎をのせる。

 新しい映画でもいかない? みたいなテンションで言われても困る。

 キヨといい、みんな只者ではない。


「いざとなったら新しい拷問道具の実験ついでに、吐かせちゃおうかな♪」

 きれいな顔と、ポップな口調でとんでもないことを言う。

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