こんな馬鹿でもスパイになれる!
見ず知らずのダン(男しかいない学園だから、男だろう)が捕らえられ、救出しなくてはならないという事態に陥った。
正直どうにでもなれとも思わないではない。
しかし、父の経営する学園で余計なことがあったらそれはそれで嫌だな、とか。
私が見捨てたみたいではないか、とか。
色々考えるうちに、行かないわけないは……と思った。
指定されたホールには、研究室のような質素なドアが並んでいるだけだ。
三号室、と言っていた。
ドア脇のプレートの数字を確認すると、律儀にもノックをし、ノブをまわした。
「ダンを知らないとは言わせないぞ!」
まわしただけなのに、虚勢を張ったような口調で、コウが叫ぶ。
「いや、あの。まだ顔見てないから」
ドアを開ける前に言われても、と思いながら、思い鉄製のドアを押し開ける。
棚があるだけで、閑散とした部屋。
椅子に縛り付けられているのは、見知らぬ男だった。きっと、ダンという生徒だろう。
脇に立つコウは、珍しく焦った様子で椎菜の様子を窺っていた。
「ほら、知ってるだろ、ダンだよ、ダン!」
「いや、全然」
やっぱり来なくてよかったかな、と思いつつ、クラスメイト(?)を縛り付けるのはよろしくない。
あとでキヨに言いつけよう。
そう思っていると。
「お前なー。自分のことが好きに決まってる! なんて言うから信用してしまったじゃねーか!」
「だ、だって、俺のこと見てるような気がしたんだよぅ」
なんだか風向きが怪しい。
「俺のハッキングした監視カメラ映像によると、シーナは俺のことを部屋で口にしたんだ。その後、シーナに会ったらやっぱり見ていたし……」
もごもご言うが、コウに脅されていて、というだけではなさそうな気がした。
「お前がそう言うから! 情報分析して、シーナの挙動を確認したんだ。それなのに、全部ダンの勘違いなら、俺の分析すら間違いじゃないか!」
おいおい、と椎菜は呆れた。
「情報分析系の二人が何言って……って、監視カメラの映像、見たの?」
そう言うと、二人は顔をひきつらせた。
ダンは、肩より長い髪をひとつにくくり、高校生にしては濃い無精ひげをたくわえている。
見た目だけなら、近寄りがたい不良、といった風情なのだが。
「み、みてないよ。なぁ?」
ダンの言葉に、コウは動揺を隠した顔、どちらかというとドヤ顔で答える。
「見てないよ。それに、シーナは監視カメラのうつる部分じゃ着替えとかしてないだろ? 問題ない」
ピク、と頬が引きつる。
「どうして、私が監視カメラのあるところでは着替えをしない、って知っているのか説明しなさいよ」
語るに落ちた二人は、開いた口を塞ぐことができなかった。




