椎菜の弱点早くも告白
「……ま、そういうことで、キミも家業を継ぐために、ここに来たというわけさ」
なるほど。親に騙され、こんなところにつれてこられた。とはいえ、普通にお嬢様学校に行くのも退屈だったから、別にいいか、と椎菜はあっさりと納得した。
「はい。でも私、何も出来ませんよ」
「すんなり馴染むね」
「拒否しても時間と労力の無駄だと言うのは、父とずっと一緒に暮らしてきた私が一番知っていますから」
平然と言われ、逆にキヨは面食らったようだが、どうにか平静を保とうとしている。
「ま、まぁ。そういったことを出来る人間にするのが、この学校の役割さ」
「キヨ先生は、何か特殊技能をお持ちで?」
地面に置かれた荷物を拾いながら、キヨは自己紹介をした。
「元、グリーンベレーの一員さっ」
絶対嘘だ。理由はないが、こんなバカ丸出しの日本人が入れるわけがない。確かにガタイはいいが、どこにでもいる体育教師レベルだ。
「先生、どこかで体育教師をしていたけど、なにか問題でも起こしてクビにでもなりましたか」
わかりやすく肩をビクっとさせると、キヨは目をさまよわせた。
「せ ん せ い」
椎菜の強い言葉に、キヨは諦めたようだ。こんなにすぐ落ちるなんて、スパイ学校の先生には向かないと思うのだが。
「俺、ダンス出来ないんだよ……」
どうやら、必修科目になったダンスが出来ないらしい。ということは、中学教師だったのだろうか。
ダンスが出来ないから辞めて、武術の腕を買われてここに? 不思議なものだ。
「でもっ、でも俺、武術はまじ得意だから! シーナが身を守れるように、色々教えるから! 誰にも言わないでぇ」
急に甘えた声を出されても。でも、いちいち言いふらすのも面倒なので言う気はないが。
それに、もうバレている気がする。
十中八九、生徒にバカにされているのは簡単に予想できた。
そもそも、他にどんな生徒がいるのだろうか。
それも知らない。
「先生。私のほかに、生徒はどの位いるんですか?」
「十名ほど。シーナ以外は先生も全員男だから、気をつけるんだよぉ」
なぜかいやらしい笑みを浮かべてくる。
しかし、本心では椎菜に女としての興味がないのか、それとも持って生まれた爽やかさなのか、さほど下品には感じなかった。
「あー。男ばっかり……って、え?」
初めて、椎菜は表情を変えた。
「どした?」
「いえ、あの……部屋は違いますよね。ここ全寮制だと思うんですけど」
「当たり前だろ。そこは安心しな。鍵付のいい部屋だよ」
「あの、食事は、お風呂は、あの、男子と話さなければいけないのですか?」
「いけないも何も、男子しかいないから。って、先生とこれだけ話せるのに、男子嫌いなの?」
「い、いえぇ、別に……」
声が裏返ってしまった。
クソ親父! 帰国したらぶん殴る!
口汚く罵りながら、裏で黒いことをやる割にはのほほんとした顔の父の顔を思い浮かべる。
同世代の男性恐怖症も克服させるつもりなのか。




