漫研部部長、真壁悠斗②
美羽は、悠斗の反応を無視して、同じ言葉を繰り返す。
「小説、しょうせつ、しょ、う、せ、つっ」
「……え?」
「聞き返しすぎ〜、もう何回も言ってるし!」
「いや、そうじゃなくて」
悠斗はノートを見る。
「小説って……橘さんが?」
「それって、わたしと小説が釣り合わないとか言いたいわけ?」
美羽が少し不機嫌そうに話すので、悠斗は慌てて弁解した。
「ごめん、そうだよね。橘さんがギャルってだけで決めつけちゃダメだ、な、みんな?」
周りの部員たちも、慌ててその言葉に頷く。
「つーか、わたし、美羽呼びでいいって」
「じゃあ、美羽……ちゃん?」
「なんで、そこ疑問形よ!」
「えっと、ごめん。でも、なんでいきなり小説なの?」
「ま、色々あってー」
「その説明、雑、いや便利すぎない?」
「うん、便利っしょ!」
悠斗は苦笑しながら、目の前のノートを開いた。
数ページと読むうち、徐々に悠斗の表情が変わった。
「……」
「どう?」
「待って」
「え、なんか怖」
「これ、ほんとに書いたの?」
「うん、へん?」
「いま、普通に驚いてる」
「それって悪い意味で?」
「むしろ、その逆……」
「文章は、かなり読みやすい」
「え、マジ?」
美羽の顔が少し明るくなる。
「でも……」
「でも?」
「これ、話が始まってないよね?」
美羽の笑顔が止まった。
「え?」
悠斗はノートを指差す。
「この子がどういうキャラなのかはよく分かるんだ」
「……」
「でも、この子が何をする話なのかが分からない」
「……」
美羽はノートを見る。
確かに、図星だった。
主人公の説明ばかりで、何も起きていない。
美羽の心配していた所を、悠斗は的確に指摘した。
「これじゃ、小説じゃなくて主人公のプロフィール帳になってる」
「え、そこまで言う? なんか、ひどくない!?」
「ご、ごめん」
「でも、否定できないのが悔しい!」
美羽は机に突っ伏した。
「文章は書けるんだけど、なんでか話が出てこないの……」
悠斗は少し考える。
「たぶん……美羽ちゃんは、人物を見るのが得意なんだと思う」
「え?」
「この子が何を好きで、どういう性格で、どんな言葉を言うか、そこはちゃんと見えてる」
「そ、そう?」
「たぶん、今必要なのは文章力じゃない」
「じゃ、なにが足りないの?」
「この子に、何か起こすことじゃない?」
美羽は顔を上げる。
「何かって、事件とか?」
「いや、そんな大げさじゃなくていいんだ」
悠斗はホワイトボードに文字を書いていった。
【主人公の日常が、少し変わる瞬間】
美羽はその言葉を見ながら、もう一度ノートに目をやった。
ノートの中のこの子を絶対に動かしてやりたい。
そのために、自分が今できること……
「先輩!」
「な、なに?」
「わたしにもっと色々、教えてっ!」




