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隠しごとは、書く仕事①

数日後……


橘美羽は、またアルカディアの前にいた。


「……」


看板を見る。


Literature Café ARCADIA。


「いや、別に通ってるわけじゃないし……」


誰に言うでもなく呟くと、


「ちょっと気になっただけ」


さらに言葉を付け足して、


「ま……三回目だけど」


で、最終的には、


「もうそれ通ってるじゃん」


小さくツッコミを入れて、ようやく扉を開けた。


チリン。


「いらっしゃいませ」


いつもの声。


綾瀬しおりが立っていた。


「こんにちは」


「……」


美羽は目を細める。


「なんかさ」


「はい?」


「その挨拶、完全にメイドカフェの店員さんなんだけど」


「店員ですから」


「いや、そうなんだけどさ」


美羽はしおりを見る。


黒髪。


落ち着いた雰囲気。


そしてメイド服。


「改めて思った」


「何をですか?」


「文学カフェにメイド服って、やっぱり不思議だわ」


「まだ言いますか」


「だって気になるじゃん」


しおりはため息をついた。


「アルカディアは、入り口を広くするためにこの形を取っています」


「入り口?」


「本を読む人を増やすためです」


その言葉に、美羽は少しだけ反応する。


「……」


「どうしました?」


「いや」


美羽は店内を見る。


「なんか、本気なんだなって」


しおりは少し黙った。


「そうですね、ビジネスですから」


そして。


「だから、私もここにいます」


「え?」


「私は、ここで働きながら小説を書いています」


美羽は瞬きをする。


「……」


「え? 小説?」


「はい」


「書いてる?」


「はい」


「しおりさんが?」


「そうです」


「メイドさんなのに?」


「メイドですが」


「いや、そこじゃなくて」


美羽は頭を抱える。


「情報量多くない?」


「そうでしょうか」


「多いって、まじで!」


美羽は指を折る。


「メイドさん」


「はい」


「本好き」


「はい」


「小説家」


「はい」


「設定盛りすぎじゃない?」


「設定とは、失礼ですね」


しおりは少し不満そうに言う。


「私は真剣に書いています」


その表情を見て、美羽は笑った。


「ごめん」


でも分かった。


この人、本当に本が好きなんだ。


「ちなみにさ、どんな小説書いてるの?」


「秘密です」


「えー」


「まだ名前を公表していませんから」


「まだって……もしかして売れてたり?」


「……」


「また間があるしー」


「何でもありません」


「それ、絶対なんかあるじゃん」


そこへ。


「しおりちゃんー」


カウンターから圭が声をかける。


「もう隠しても仕方ないんじゃない?」


美羽は振り向く。


「マスターも色々と謎っすけどね」


「え、なんで?」


「この店、普通の人いない説あるからさ」


圭は少し笑った。


「いや、俺は普通だよー」


「黒服でカフェ店長って時点で普通じゃないっしょ」


ま、サングラスの向こう側の姿には、今は触れないけど……


「それもそっか。じゃ、美羽ちゃんには、教えてあげよ」


圭は美羽の発言をあっさりと認めたうえで、


「……俺は昔、新聞記者をしてたんだ」


その正体までバラしてしまった。

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