Literature Café ARCADIA④
美羽が店内の人たちに感心していると、
「最近はネット上に、文章を書く人も増えたよね〜」
圭がカウンターから話しかけてきた。
「SNSってこと?」
美羽が振り向く。
「そうそう。昔は本や新聞だけだったけど、今は読む場所が変わってる」
圭はコーヒーを淹れながら言う。
美羽は、ふみのやの店主が言っていたことを思い出した。
本屋がなくなる。
本が読まれなくなる。
「だから、本が減ってるんすか?」
美羽が訊くと、圭は少し考えながら言った。
「いや、形が変わっているだけかもしれないな」
「形?」
「紙で読む人もいる。電子で読む人もいる。短いSNSなんかの文章から興味を持って、小説を読む人もいる」
「それって……なくなってるんじゃなくて変わってるだけ?」
「文章って身近すぎて、みんな気づいてないんだろうねー」
「……」
「ちょっと、マスター。その説明じゃわかりません」
どこからか突然、しおりの声が飛んできた。
「美羽さん、今も昔も本の数は変わってません。いえ、むしろ本は増えています」
「えっと、まじで?」
「ええ、文章として2行あれば、それはもう本になりえます。SNSの呟きもある意味では、書籍です」
「相変わらず、しおりちゃんは極端なこと言うよなぁ」
「本の存在理由は、誰かに伝えたい思いですっ」
もしかして、いま、この二人は文章論を語ってるのか?
つか、この雰囲気って、なんか雲行き怪しくないか?
わたしが、なんとかしないと……
「つか、マスターって本のこと詳しいんっすねー」
「ま、仕事柄かな」
「えっと、何の仕事?」
「昔、文章を書く仕事をしてたんだ」
「へぇ……」
「見えない?」
と言いながら、なぜかサングラスを外した。
クリッとした優しげな眼差しは良しとして、
なんで、つけまつけて、シャドウにラインまでがっつり決めてる?
しかも、ちょっとギャルっぽいメイクで、なんか敗北感……
「う、うん……」
つか、いろいろと情報量、多すぎっ!
脳内はパニック気味で、会話はここでギブアップ。
改めて、店内に目を向けた。
メイド服の店員。
文章を直す人。
外国の言葉を日本語に変える人。
ネットで文章を届ける人。
そして、本を好きな人たち。
「ほんっと、へんな店だし」
反射的に、また言ってしまった。
「それって、ここを気に入ったって意味でしょう?」
「……だよね?」
二人から、同時に言われた。
「た、たぶん」
すんなりと頷いている姿に、自分でも驚いた。
最初は単なる興味本位。
ただチラシをもらっただけ。
メイドが少し気になっただけ。
ここがへんな店であることは間違いない。
でも、この場所には、本屋とは違う何かがある気がした。
だから帰り際、店のドアを閉める前、
美羽はもう一度、店内を見渡しながら、
「また来よかな」
と小声で呟いた。




