表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/47

潮騒のサラリウム

雑貨屋ざっかや店主てんしゅはプランターでささやかな家庭菜園かていさいえんを楽しんでいた。


それが呼びよせたのか、今回ははたけ依頼いらいだった。


むぎわら帽子ぼうしをかぶったシエリアと同じくらいの年頃としごろの娘がやってきた。


わたし、マリエって言います。あなたのことを聞いてきて。畑の(はたけ)お野菜やさいで困ってるの」



シエリアは農業のうぎょう専門家せんもんかではないものの、農機具のうきぐあつかっている都合上つごうじょう、それなりには知識があった。


「そのですね、お野菜やさい、いえ、果物くだものまですごくしょっぱくなってしまうんです」


あまり聞かないケースである。


とりあえず、現場げんばを見てみないと始まらない。


シエリアはマリエの農園のうえんに向かった。


小ぶりではあるが、手塩てしおにかけて育てられたのがわかるはたけだ。



そこには不機嫌ふきげんそうな老婆ろうばつえをついていた。


「なんだい。この小娘こむすめは? こんなちんちくりんにたよるほどモウロクしちゃいないよ!!」


「まぁまぁ、ニッキおばあちゃん、そんなこと言わないの」


やりとりからするに祖母そぼまごのようだ。


トラブル・ブレイカーをやっている以上、たまにこういう当たりの強い依頼人クライアントも居る。


だが、そんな人達ひとたちを満足させるのもシエリアにとっては仕事のかてだったりするのだ。


雑貨屋少女ざっかやしょうじょはまずはたけながめたが、これといって異常いじょうは見られない。


「う〜ん、野菜やさい果物くだもの味見あじみしてもいいですか?」



マリエは不安ふあんそうにうなづき、ニッキはそっぽをむいた。


「では、まず、このバニラ・コーンを……」


シエリアは初手しょてから激甘品種げきあまひんしゅのトウモロコシを選んだ。


くきからもぎって皮をむき、がぶりとかじった。


「うッ!!」


まるで海の水をモロに飲んだ時のようなが走った。


「うっ、うぇッ……しっ、失敬しっけい……」


しょっぱいとかいうレベルではない。尋常じんじょうでない塩分濃度えんぶんのうどだ。


その後、他の作物さくもつも食べてみたがどれも壊滅的かいめつてきあじである。


とてもではないが、売り物にはならない。


これは困って依頼いらいを出すのも無理はなかった。



沈黙ちんもくやぶってニッキが声をあらげた。



「見てみぃ!! このはたけにはな、怨念おんねんいておる!! 不吉ふきつじゃから、こんなはたけ、やめとけいうたんよ!!」


聞きてならないワードが出てきた。


思わずシエリアは聞き返した。


怨念おんねん?」



なぜだかまごのマリエはその言葉をさえぎった。


「もう!! おばあちゃん!! 怨念おんねんなんていないって言ってるでしょ!!」


なんだか事情がありそうだ。


ニッキは夜中、はたけ異変いへんが起こるというが、マリエはそんなもの一度いちども見たことがないという。


それどころか誰が見に行ってもそれらしいものは見かけられず、老婆ろうばのモウロクあつかいとなっているようだった。


試しにみをしてみようと言うことで、シエリアと祖母そぼまごがつきっきりで畑を観察かんさつしてみることにした。


だが、まったくそれらしい怪奇現象かいきげんしょうは起こらなかった。


ニッキが全くのデタラメを言っているとは思いたくなかったし、それしか手がかりがなかった。



シエリアがにっちもさっちもいかなくなって、カウンターで頬杖ほおづえをついているとあやしげな商人しょうにんがやってきた。



「ヘヘッ!! 毎度まいど霊媒園れいばいえんでござい。シエリアさん、景気けいきはいかかですか?」



彼はちょくちょくあやしげな霊媒れいばいグッズを売りにくる商人しょうにんである。


こういったたぐいのものも需要じゅようがあるので、詐欺さぎまがいのものははじきつつ入荷にゅうかすることもある。


すじとかありますか?」


そういいながら胡散臭うさんくさい商人はかばんの中身なかみを広げだした。



「ヒッヒッヒ。最近は除霊じょれいグッズが流行はやってまして。このおきよめのしおなんて怨念おんねんはらうってウリでしてね。っていっても元はただのしおですからね。いやそりゃもうバカもうけ……」


シエリアは身を乗り出した。


「その塩、全部ください!!」


そしてその夜、畑には雑貨屋少女ざっかやしょうじょ依頼者クライアントが集まった。


「おばあさん、あなた、怨念おんねんはらう時にしおきましたね?」


ニッキは不機嫌ふきげんそうだ。


「あぁそうだよ!! でも一向いっこうに消えないからヤケになってさ!!」


するとシエリアは手に持ったしおをパサリとはたけいた。


「当たり前ですけど、このくらいでは野菜はしょっぱくなりませんからね? ほっ!!」


さらにこなくと畑中はたけじゅうから青白あおじろたまのようなものが無数むすうにき出してきた。



「うひゃあ!! 出たね!! 消えな!! 消えな!!」



必死に老婆ろうばはおきよめのさおをぶつけまくった。



「待ってください!! この子たち、おばあさんのこと、好きみたいですよ。私達わたしたちの前ではあらわれなかったですし」


人魂ひとだまはふわふわとあたりをただよった。


「この子達は″サラリウム″っていう妖精フェアリーなんです。海がないと生きていけなくて、塩が大好きなんです。もしかして、最初はこんなにいっぱいなかったんじゃないですか?」


老婆ろうばまゆをしかめた。


「畑にふわふわと小さな鬼火おにびが見えたから追い払ってやろうと……」


シエリアはニッコリと笑った。


「おばあさんのおかげでいのちつないだんですよ。他の人の前ではこわがってでてこれなかったみたいで。ちなみに塩に海のエキスを加えると活性化かっせいかするので今は私たちにも見えてるんです」


しお妖精フェアリーたちは美しくキラリキラリとかがやいた。



とてもうれしそうにふわふわと上下じょうげしている。



「あんたら……。悪かったねぇ。怨念おんねんなんて言って。すまんかったよぉ。知らんばかりになぁ。もっとやさしくしてやってよかったんにな」


ニッキはいとおしげに妖精フェアリーを見つめたが、シエリアはうでを出してそれを止めた。


「今回は素敵すてきなめぐり合わせの結果けっかで、だれが悪かったというわけではありません。ただ、どうしてもサラリウムの場所は塩の属性ぞくせいが強くなってしまいます。このままではおたがいに良い影響がないですからね。海にかえしてあげましょう!!」


するとシエリアは信号弾しんごうだんを打ち上げた。


それは波打際なみうちぎわの音をひびかせながら潮風しおさいを求めて遠くへと飛んでいった。


そしてサラリウムはそれに導みちびかれて海へと還かえっていった。


こうして依頼人クライアントの畑の異常いじょう解消かいしょうされ、元通もとどおり、本来ほんらい作物さくもつあじを取り戻した。


まごのマリエも祖母そぼのニッキにも笑顔えがおもどった。


散々(さんざん)なわれようだった老婆ろうば誤解ごかいけて別人のように、にこやかになった。


「あんたにゃ、悪かったよ。小娘こむすめなんてあなどってさ。さすがのナンデモ屋さんさね!!」


トラブル・ブレイカーは微笑ほほえみを返してあたた握手あくしゅを交わした。


それ以降いこう、味をしめた霊媒商人れいばいしょうにんがいつにもまして顔を出すようになった。


実際じっさい、売り物の8わりくらいははじいているのだが、この間のきよめの塩でだいぶ荒稼あらかせぎしたらしい。


そのほとんどをシエリアが買い占めてしまった形になる。


流石さすがにおはらいグッズを食用の塩として売るわけにもいかず、少女はこれをあましていた。


霊媒れいばいグッズを買って、除霊じょれい依頼いらいでもやろうかと思った。


が、きっとそこらへんの仕事は望んでいなくてもやってくる。


シエリアはくさいものにふたをした。




無事ぶじはたけ問題もんだい解決かいけつすることが出来ました。



″サラリウム″なんて久しぶりに見ましたよ。


それにしても夢中むちゅうだったとはいえ、なんであんなに大量たいりょうしおを買ってしまったんでしょうか?


きっと塩の怨念おんねんがおんねん……。


……というお話でした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ