シエリアの富士
雑貨屋の前に色黒で風変わりな青年がやってきた。
「Hi!! ボク、ナッテリ、イイマス。ユキ、ミタコトアリマセン。デモ、ドコニモユキナイヨ!!」
シエリアは首を傾げた。
「ユキ……ユキ? あぁ空から降る雪の事ですか?」
そういって少女は空を指差した。
「wow!! ソレネ!! ドコナラミルルルカ?」
残念ながらこの近辺では雪は見られない。
東の高山地帯、クーラントの集落までいけば深く積もった雪を見ることが出来るはずだ。
「ボク、ボクニユキミセテクラサイ!! アンナイクダサイ!!」
こうしてシエリアはナッテリに雪を見せる依頼を受けた。
田舎の東部には鉄道が走っておらず、クーラントには徒歩か馬車で行くしか無い。
早速、馬車の手配をするとシエリアとナッテリは東へ旅立った。
少女は東部に行ったことは無いが明らかに雪国っぽくないと感じた。
ナッテリ青年も不思議そうな顔をしてあたりを見回した。
「アッレェ。オカシデスネ。ココ、ウワサノクラントデスヨネ? ユキハ?」
シエリアも馬車から顔を覗かせてあたりを観察した。
「ホントだ……」
馬車を操つる人は首を左右に振ふった。
「あんたらもツイてないねぇ。まったく雪が降らない年もあるんだよ。雪の観光は絶望的さ……」
青年は悲鳴をあげた。
「ショ、ションナァ!! クロウシテココマデキタノニ、ユキハ……ユキガミラレナインデス!?」
彼を放っておいて馭者はシエリアをじっと見た。
「おっと失敬。いやな、これならあるいはと思ってな……」
意味深に呟いた彼は集落にシエリアとナッテリを送り届けた。
旅人2人がやってくると、村人たちは嫌な顔一つせずもてなしてくれた。
行く先行く先で雪の話をすると、彼ら彼女らは村長に話を聞くと良いと口を揃えた。
村長の家に行くとそこには3人の娘たちが集まっていた。
老婆が声をかけてきた。
「おお、おまんが旅人の娘のむすめじゃな? どうなるかと思ったが。なんとかなりそうじゃわい。待っていたぞ」
待っていたと言われても、雑貨屋は何らかの約束をした覚えはない。
すると村長は事情を語りだした。
「見ての通り、今年は雪が全く降っとらんでの。何年か一度、雪乞せねばならん」
まじないの類でもやろうとでもいうのだろうか?
「雪の女神様はの、若いおなごが全力でぶつかり合う奉納相撲が大好きなんじゃ。相撲を盛り上げれば必ず深雪が戻ってくるんじゃ。それが雪乞じゃよ」
よくよく部屋の中を見回すと自分以外に3人の女子がいた。
1人はガタイのいいごっつい女子だ。
「おう、ばっちゃ!!せっかく呼び出したんだから楽しませてくれよな!!」
彼女はバチンバチンと勢いよく身体のあちこちを叩いた。
どう考えても経験者である。人間重機。そんな言葉がふさわしい。
もう1人は線がとても細く、ヒョロヒョロである。
メガネをかけて、片手に本という出で立ちだった。
「あっ、あの……。ほ、ほんとにやるんですか? たしかに私は数少ない若年の女性ですが……」
こっちは相撲なんてやったら風に飛んでしまいそうである。
3人目はいかにもなギャルで髪の毛先をくるくる指でまいていた。
「えー、だる〜いし〜。ネイルとか割れちゃうんじゃね? マジ勘弁〜。そもそもさ、ぶつかりあいとか汗クサいんよね〜〜」
村長は最後にシエリアを指差した。
「おなごの頭数が足りないところだったんだが、あんたが加わってくれりゃぁきっと成功する」
自信はこれっぽっちもないが、これも困った人を助ける依頼だと思って雑貨屋少女はこれを受けることにした。
相撲はクランドールにおいてそこそこメジャーなので、シエリアにも大まかなルールはわかった。
おなごらはTシャツにスパッツを履はかされると、腰から股にかけてよく構造のわからない″″マワシ″という帯を締めることになった。
村の広場に行くと土製のリングらしいものが組まれている。
周りを観客の村人たちが囲んでいた。最初からこれを見るつもりだったのだ。
そんな中、ナッテリが声援を送ってきた。
「Hey!! シエリサンガンバテ!! ユキフラスノデース!!」
気楽なもんだなぁとシエリアは思ったが、わざわざ遠方から来たのだ。
なんとかして雪を見せてあげたい。
すぐシエリアの隣にメガネの女性がふっとばされてきた。
リングの上ではごっつい女性がマワシを叩いていた。
「おらおら、そんなんじゃ雪は降らねぇぞ。かかってくるだよ」
いつの間にかギャルはシエリアを盾にしていた。
どのみち痛い目めを見るなら早いうちがいい。
そう腹をくくったシエリアはリングにあがった。
村長が取り組みを仕切り始めた。
「東ィ〜アズの海〜。西ィ〜シエリアノ富士ィ〜〜」
すると、ごっつい女子は声をかけてきた。
「おら、四股踏。四股だよ」
そう言いながら彼女は片足を上げる独特な動きをとった。
それを真似てシエリアも四股を踏んだ。
「ふふん。ちったぁ様になっているでねっかぁ!! いくど!!」
シエリアは勘で深く腰を落とし、身体の重心を落とした。
「はっけよい……のこった!!」
すぐに人間重機が突っ込んでくる。
「ばぁしいいいぃん!!」
肉同士が激しく衝突した。
だが、シエリアはそのままあっさりと場外に投げ出されてしまった。
運動音痴な彼女には荷が重い。いや、重すぎた。
「あいだッ!! いててて……」
こうしてひ弱なおなご3人は一方的にしこたま投げられてしまった。
一方、猛者はバテる様子もない。
何度目かわからないが、泥だらけのシエリアがリングに立った。
なぜだか今回は自信ありげな表情をしている。
そして、またもや激しいぶつかりあいが起こった。
次の瞬間、眼鏡とギャルの少女がリングにあがって加勢したのである。
「いったい、いちじゃ、ないと、ダメなんて誰も言ってないもんね!!」
明らかに卑怯だが、弱々(よわよわ)な3人が勝つにはこれしかなかった。
「うおおおおお!!!! があああ!!」
そして一番強い女力士はリングから吹っ飛んだ。
終わったあと、4人の間にわだかまりが残るかと思われた。
だが、ごっつい女子は笑顔で3人と握手した。
リングで見ると鬼だが、挨拶すると普通に気のいい姉ちゃんだった。
村長もニコニコしている。
勝ち負けやフェア、アンフェアは奉納相撲にはあまり関係ないようだ。
そんな中だった。ナッテリが空を見上げて手を天に掲げた。
乙女達の願いは届き、雪が降ってきたのである。
「Hooo!! コレガユキナリ!? ハハッ!! シロイ!! ツメタイアルヨ〜!!」
翌日、シエリアとナッテリは貴重な雪遊びを楽しんだ。
飽るまで遊ぶと整備された雪道を通って2人はセポールへと帰ったのであった。
まさかの二重依頼でしたが、解決できて良かったです。
お客さんたちに四股を見せてほしいと言われたのでうろ覚えでやってみました。
あれれ、片脚のバランスが……。
思わず脚を開いたまま尻もちをついてしまいました。
「きゃあッッ!! み、見ないでください!!」
……というお話でした。




