忘れてた優しい毎日
通りには人気がなく、そこにいるのは店じまいをしている自分だけである。
そんなとき、背後から声がした。
「動くな。動くと撃つ」
シエリアがゆっくり振り向くとそこには変わったスーツを着た女性が立っていた。
銃らしきものを突きつけられている。
これはかなり物騒なシチュエーションだ。
だが、シエリアはここぞという時には肝が据っていた。
伊達に日夜トラブルと向き合っているわけではない。
この雑貨店には仕掛があり、緊急時には安全なシェルターとして展開させることが出来る。
シエリアが身につけているスイッチを押そうとしたとき、眼の前の女性は倒れ込こんだ。
「うッ……」
これはお巡りさんに届けるべきだとと少女は思ったが、状態が悪化する彼女を放っては置けない。
治療が先決だった。
部屋に運ぶと女性が握りしめていた銃の指をほどいた。
自分より一回りくらい年上、二十歳くらいだろうか。
着ているスーツは見たこともない素材で出来ていて、打ちやすい部位にはプロテクターがついていた。
「ごめんなさい!!」
シエリアは女性のスーツをバッと脱がせた。
内側には黒いブラとパンツだけを身に着けている。
身体のあちこちにかなりの傷を負っていた。
おまけに衰弱しきっていて、そのままでは命に関わりそうだった。
かといって病院に運ぶと悪目立ちすぎてしまう。
厄介事を避けるにはここで処置するしか無い。
ただ、薬屋としての顔もあるシエリアは落ち着いて治療を進めることが出来た。
少女はナナムの花のすり薬を塗ぬりこんでモチモチ・バンデードで切り傷をくっつけた。
激しい擦り傷や痣には脚長トカゲの干物を砕いてすり込んだ。
触れるたびに物騒な女性は顔を歪めたが、そのうち気絶してしまった。
これは都合が良く、シエリアは大汗をかきながら身体のあちこちを治療していった。
傷ついた女性は食事が取れそうに無かったので、エリキシーゼの点滴用フレーバーを打っておいた。
丸2日ほど経っただろうか。彼女は目を覚ました。
「あっ!! ハッ、ハンドガン!! うぐ!! ぐッ!!」
女性は激痛に悶えた。あれだけ酷い傷だらけだったのだ。無理もない。
シエリアは皮肉ぶって化粧台の上を指差した。
「あれですよね? また突きつけられたらたまらないので、バラしちゃいましたよ」
そこにはパーツごとに綺麗に分解された銃が転がっていた。
女性はスーツで身体を隠し、声を荒げた。
「ぐっ!! クソッ!! 煮にるなり焼くなり好きにしろ!!」
その直後、女性のお腹の音が部屋にこだました。
(ぐぎゅううぅぅぅ〜〜〜)
「お腹、減ってるんですね。ミルク粥なんですけど、いいですか?」
シエリアは出来上がったお粥をスプーンにすくって怪我人の口に運んだ。
だが、彼女はそっぽを向いた。
「あ〜、毒ですか? そんなもの入ってませんよ」
そう言って雑貨屋少女は粥を食べてみせた。
すると、顔をしかめた女性は粥に口をつけた。
「お……おいしい!!」
そのまま彼女はがぶがぶとそれを食べきってしまった。
腹が満たからか、彼女の表情は穏になった。
「どうして私を助けたんだ?……君を撃とうとしたんだぞ?」
シエリアは目線を泳がせた。
「う〜ん。困った人はほうっておけないですからね。あとは成り行きかなぁ。あ、それより名前くらい教えてくださいよ。私はシエリアっていいます」
相手は伏し目がちに答えた。
「本当にすまなかった……。私はアリアンヌ。GTF所属の少尉だ。身分を明かした話が早いかもしれない」
クランドールにも一応は軍があり、その階級と同じ響きだった。
「少尉さん? 軍属なんですか? じぃーてぃーえふってのは聞いたことがないです」
兵士に不似合な女性は首を左右に振った。
「ハァ……。知るわけないよね。ワープに入った時、OSCの連中から攻撃を受けてしまって。機体が壊れてここへたどり着いてしまったんだ」
どうやらその戦闘によって大怪我を負ってしまったのだろう。
シエリアは細かいところはともかくとして、だいたいの事情に合点いった。
「機体って?」
アリアンヌは渋い顔をしつつも、詳細を詳しく語り始めた。
「本当は機密事項なんだけど、帰るヒントになるかもしれない。それに、緊急時だからね……。機体ってのは人型強襲兵器(Humanoid.Assult.Arms-2)。
通称HA2-2(エイチ・エーツー・ツー)さ。そいつに乗ってこの星へやってきた。でも、元に居た場所へ戻るのは絶望的なんだ。この文明レベルでは多分、精密機器が揃わない……」
シエリアは少し考え込んだが、ある提案をした。
「私、雑貨店をやってるんです。精密機器かどうかはわかりませんが、時計とかの注文や修理ならできますよ。他の機器も解体する気になればあるいは」
アリアンヌは分解されたハンドガンを観察し始めた。
最小限の単位までパーツが分解されている。
もしかしてシエリアになら機体のパーツの入手と修理が出来るのではないかと女軍人は思った。
「報酬はレアメタルで払うよ。だから、私と一緒にHA2-2(エイチ・エーツー・ツー)の修理を手伝ってくれないか?」
なんだかんだで依頼が来たと思ったシエリアはこれを受けることにした。
なんでも機体はエリオスの丘に隠してあるらしい。
夜中、なにもないはずの場所から片足をついた人型ロボットが姿を表した。
4mくらいはあるだろうか。鋼の巨人と言った感じだ、。
全体的に丸みを帯びていて、戦闘機には思えない。
ただ、軍用ぐんようらしくライフルとシールドで武装していた。
ミサイルポッドもセットしてある。
シエリアには何のパーツかはサッパリだったが。
「ほえ〜〜なんですかこれ!?」
雑貨屋はただただ驚ろくしか無かった。
軍人はオートロープでコックピットまで上がった。
「よし、カモフラージュ・デバイスは生きてるな」
夜の丘には誰もいないのをいいことに、シエリアとアリアンヌのチャレンジは始まった。
少尉はシエリアの部屋に寝泊まりすることになった。
彼女はかたっ苦しい戦闘用スーツを脱いで、シエリアの服を借りた。
「むっ、これ、きついよ。特に胸周り」
「うぐぅ!!」
主にシエリアは精密機器の仕入れとそれをバラしてパーツに分ける役を担った。
アリアンヌはパーツを精査して使えそうなものを探した。
そして、HA2-2(エイチ・エーツー・ツー)のメンテナンス・マニュアルを元に必要な装置を作ったり、修理したりした。
そうしてしばらく過ごすうち、すっかり2人はすっかり打ち解けた。
リラックスして食卓を囲み、女子トークするまでになった。
こうやって接するとアリアンヌも1人の女の子だった。
だが、着実に別れの時が近づいてきた。
ある晩のこと、いよいよ機体の修理が終わった。
最後の夜、軍属の女性はある決意を語った。
「私ね、軍をやめようと思う。シエリアに出会ってそう思えるようになったんだ。私、忘れてたよ。こんな優しい毎日があるんだなって。だから、もう殺し合いはお終い!! 故郷に帰って、家族と暮らすよ」
シエリアとアリアンヌは互いにハグし、すすり泣きながら別を惜しんだ。
こうして、再度、バトルスーツを着直した女性はロボットに乗り、夜空高くへと飛び立っていた。
報酬としてレアメタルをもらったが、何に使うのかわからなかった。
たぶんこういうのがオーパーツになるのだろう。
雑貨屋始まって以来、初めて命の危機を感じました。
でも蓋をあけてみれば割と普通の依頼でした。
ん〜? 宇宙から来た人の依頼は普通ではないかもしれませんね。
あ、そうだ。アリアンヌさん、銃を忘れていっちゃいました……。
こうやって適当に組み立てちゃったりしたりして……。
カチャカチャカチャ……カチャッ、チャッ!!
「完成〜!! 発射ぁ〜〜!! なぁんてね!!」
カチッ!!
ズ―――ガアアァァーーーーンッ!!!!
……というお話でした




