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激寒モンキィ

今日もシエリアの店は平穏(へいおん)だった。


トラブル・ブレイカーだからと言って、緊急性(きんきゅうせい)の高い依頼(いらい)ばかりではない。


そういうときはゆとりが出来(でき)る。


たまには風変(ふうが)わりな依頼も受けてみたいとシエリアは思っていた。


そんな時だった。カウボーイハットを被(かぶ)り、全身茶色(ぜんしんちゃいろ)のレザーを着た男がやってきた。


「嬢(じょう)ちゃん。あんたがウワサのアレだな?」


雑貨屋少女(ざっかやしょうじょ)はコクリと頷(うなづ)いた。


アウトロー風(ふう)の男は豪快(ごうかい)に笑った。


「ガハハ!! それなら話は早(はえ)ぇ!! 俺はな、プロのトレジャーハンターのフラーグってもんよ。んでな、依頼(いらい)はコレよ!!」


彼はチラシをつきつけた。


シエリアはその文字を目で追(お)って読み上げた。


「えっと……ポーレポレイ・ジャングルに住む幻(まぼろし)の蝶(ちょう)、″血壊蝶(けっかいちょう)を求(もと)ム!! なお、生死(せいし)は問(と)わない」


″まるで吹き出す鮮血(せんけつ)のように赤く深く輝(かがや)く希少種(きしょうしゅ)!!″


フラーグは満足気(まんぞくげ)にうなづいた。


「おうよ!! 俺(おれ)ぁな、今度はこいつを狙(ねら)ってるわけよ!! コイツのを標本(ひょうほん)にでもすりゃあ、きっと高くつくぜぇ!!」


一応(いちおう)、雑貨屋(ざっかや)も蝶(ちょう)の標本(ひょうほん)カタログは持っていたが、そんな真(ま)っ赤(か)な蝶(ちょう)は見たことがない。


ちょうど新しいカタログを取り寄せている時だったが、新版(しんばん)に載(の)っているとは思えなかった。


ただ、面白そうな依頼なのでシエリアは二(ふた)つ返事(へんじ)で答えた。


ポーレ・ポレイ・ジャングルに行くにはセポール駅から汽車(きしゃ)で南下する。


途中、砂漠地帯(さばくちたい)のヤーナを抜(ぬ)ける。


こにはピラミッドがある観光地(かんこうち)だ。


東にリゾート地(ち)のパパタ海岸(かいがん)を臨(のぞ)みながら更(さら)に南下(なんか)するとジャングルが見えてくる。


ここも観光地(かんこうち)として拓(ひら)かれているが、隣の密林(ジャングル)は人の手のつかない未開(みかい)の地だ。


シエリアとフラーグはジャングルの最寄(もよ)りの駅で下車(げしゃ)した。


すると、トレジャーハンターはうずうずし始めた。


「チョーチョは早いもん勝ちだ!! このままジャングル直行(チョッコー)だぜ!!」


振(ふ)り向いたフラーグは眉(まゆ)をハ(は)の字(じ)にした。


「おいおい嬢(じょう)ちゃん。そのカッコは流石(さすが)にジャングルを舐(な)めすぎだぜぇ?」


シエリアは水色のストローハットにノンスリーブの白ワンピースを着ていた。


日焼(ひや)け止めも余念(よねん)がない。


だが、彼女はそれに不釣(ふつ)り合いな大きなトランクを下(さ)げていた。


シエリアははトランクを開くと手持(ても)ちの装備(そうび)を身(み)に着(つ)け始めた。


足元の滑(すべ)り止めや、脚(あし)を保護(ほご)するブ厚(あつ)くて硬(かた)いトレッキングブーツ。


ヒルや水場での体温低下(たいおんていか)を防(ふせ)ぐ特殊(とくしゅ)ウェットスーツ。


速乾性(そっかんせい)もあるので、汗(あせ)をかいても快適(かいてき)さを損(そこ)なわない。


それと肘(ひじ)まであるグローブ。


手のひらと指先(ゆびさき)にはこまかいでっぱりがあり、グリップ力(りょく)に優(すぐ)れている。


目には遮光(しゃこう)サングラスをかけた。


強い直射日光(ちょくしゃにっこう)はもとより、水面(みなも)の反射光(はんしゃこう)を軽減(けいげん)するので水中の魚が見やすくなる。


それも便利(べんり)だが、重要(じゅうよう)なのはワニ対策(たいさく)だ。


先手(せんて)を打って行動できるだけで大きくリスクが下がる。


頭には顔を覆(おお)うメッシュ付きの帽子(ぼうし)を被った。


網目(あみめ)はかなり細(こま)かく、小さな虫でも弾く。


ハチや毒虫(どくむし)から頭部をガードするアイテムだ。


更に帽子(ぼうし)にはライトも装備されていた。


これらを身につけるとシエリアはまるで宇宙服(うちゅうふく)を身に着けたかのようになった。


「お……おう……」


唖然(あぜん)としたフラーグは素人並(しろうとな)みに装備(そうび)が薄(うす)く、明らかに足手(あしで)まといになりそうだった。


不安要素(ふあんようそ)を抱(かか)えつつもこうして2人はジャングルへ入った。


フラーグはジャングルに入るとさっそくカラフルな果物(くだもの)を手に取った。


「おー!! これ、うまそうだぜぇ!!」


シエリアは首を左右(さゆう)に振(ふ)った。


「それ、ハンニャマンゴーです。毒(どく)ですよ」


フラーグはバツが悪(わる)そうだ。


「じゃ、じゃあ腹(はら)ごしらえに魚釣(さかなつ)りでも……。探検《たんけん》の浪漫(ろまん)だぜぇ!!」


探検少女《たんけんしょうじょ》はまたもや首を左右《さゆう》に振った。


「このあたりはシビレ・アロワナが居(い)ます。かかったら感電死(かんでんし)してしまいますよ」


そうこうしているとシエリアはおもむろにその場でしゃがみこんだ。


「シッー……。フラーグさん、静(しず)かに。ヨロイワニです。姿勢《しせい》を低くするとワニの死角(しかく)に入るんです。さぁ、ゆっくり……ゆっくり……」


フラーグはトレジャーハンターだけあって肝(きも)は座(すわ)っていた。


その後も転がってくる岩に追われたり、サルに荷物(にもつ)を取られたりと、血壊蝶(けっかいちょう)どころではなかった。


だいぶ深くまで来たが、致命的(ちめいてき)なトラブルや怪我(けが)がなかったのはすべてシエリアのおかげだった。


しかし、フラーグが大きく足を引(ひ)っ張(ぱ)っている。


それに、さすがのシエリアも疲労困憊(ひろうこんぱい)だった。


夕方になると2人はくたびれて樹(き)に寄(よ)りかかった。


そんなとき、フラーグが何かを指差(ゆびさ)した。


「あっ、あれは!!」


ひらりひらりと真(ま)っ赤(か)な蝶(ちょう)が2人の前を横切(よこぎ)った。


2人は顔を見合わせるとその虫を追いかけた。


すると古い遺跡(いせき)が目に入った。


入ってみるとそこには驚(おどろ)きの光景(こうけい)が広がっていた。


遺跡(いせき)の中にびっしりと血壊蝶(けっかいちょう)が漂(ただよ)っていたのである。


「こ……こいつぁ……血壊(けっかい)の……巣(す)か!?」


フラーグの目的はこの生物の標本(ひょうほん)を高値(たかね)で売ることだ。


だが、男は巣(す)に背を向けた。


「ここで穏(おだ)やかによ、暮(く)らす連中(れんちゅう)をよ。捕まえて標本(ひょうほん)にするなんて、無粋(ぶすい)じゃねぇかよ。ほら、嬢(じょう)ちゃん。帰るぜ」


いい加減(かげん)で、お調子(ちょうし)もののフラーグだったが、雑貨屋少女(ざっかやしょうじょ)は彼を見直した。


そして2人はキャンプを囲(かこ)みながら、フラーグの冒険話《ぼうけんばなし》で盛り上がるのだった。


次の日の朝、無事(ぶじ)に2人はジャングルを抜(ぬ)けて、街中(まちなか)のバザールを見て回っていた。


「ちっとばかし予定と違(ちが)ったが、今回の依頼は大成功(だいせいこう)だ!! こまけぇことは無しだぜ。何しろ面白(おもしろ)かったからな。ギャラに加えて高めのアクセサリー買ってやるからそれくらいで勘弁(かんべん)してくんな」


異性(いせい)からアクセサリーをもらうなんてめったにない。


なんだか恥(は)ずかしくなってシエリアは後頭部(こうとうぶ)を搔(か)いた。


もっとも、フラーグから見るとただのガキンチョでしかないのだが。


「そうだなぁ……。えっと……あ″ッ!!」


店先(みせさき)を眺(なが)めていた少女はカエルが潰(つぶ)れたような声をあげた。


「どうした、嬢(じょう)ちゃ……あ″ッ!!」


フラーグも似(に)たような顔を上げた。


血壊蝶(けっかいちょう)のブローチ(550シエール)

※1シエール=1¥(えん)


店先(みせさき)に例(れい)の紅(あか)い蝶(ちょう)がずらりと並んでいたのである。


「うそぉ!? なんでこんなところに!! しかもこんな値段(ねだん)で!?」


すると店のおじさんはニッコリ笑(わら)った。


「あぁ、たまにいるんだよね。コレに驚(おどろ)く人。無理ナイヨ。つい最近になって人工繁殖(じんこうはんしょく)に成功してネ。遺跡(いせき)の中の環境(かんきょう)がイイ感じなんだワネ」


シエリアとフラーグは顔を合わせると思わず笑(わら)いだしてしまうのだった。


シエリアが探検(たんけん)から帰ってくると最新の商品カタログが届いていた。


最新の昆虫標本(こんちゅうひょうほん)のページには真(ま)っ赤(か)で目立(めだ)つ血壊蝶(けっかいちょう)がリストアップされていた。


シエリアはは微笑(ほほえ)みながら、そのベージに栞(しおり)をはさんだのだった。



割と順調(じゅんちょう)な探検(たんけん)できたのですが、実はヒヤッとしたところがありまして……。


おサルさんに荷物(にもつ)を取られたとき、リュックの中には緊急用(きんきゅうようの)のダイナマイトが入ってたんですよ。


あのまま爆発(ばくはつ)してたら私達も粉々(こなごな)に……。


あ、あわわ……こういうときはラップで誤魔化(ごまか)さなきゃ!!


サルが荷物(にもつ)をあサル、サルサ踊(おど)りながら去(さ)る。俺(おれ)はサルだよ!! モンキーあるか!?……なんちゃって。


ううっ、へっくし!! 寒(さむ)ッ!! やっぱ向(む)いてませんでした


……というお話でした。

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