表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/50

カレーねえちゃん

クランドール王国おうこくの3番目に大きいまち、セポール。


そこにはひそかにウワサになっている雑貨店ざっかてんがあった。


なんでも、そこにはどんなトラブルでもう「トラブル・ブレイカー」がるという。


―――セポールのメインストリート、ミュゼッテ通りを一人歩く老婆ろうばがいた。


「えっと……ミュゼッテ通りの入口からセポール駅のほうへ歩いて、4つ目の路地ろじを右に……」


老婆は裏路地を覗き込んだ。


まだ日中にもかかわらず、裏路地ろじうら薄暗うすぐらかった。


「あったわ。あやしげなランタンのさがった雑貨店ざつかやさん!! ここが″シエリアさんのお店″ね……」


その店のあるじは子どもたちに駄菓子だがしを売っていた。


「はいは〜い。みんなゴリゴリくんはずれね〜。また再挑戦さいちょうせんだね〜」


子どもたちはしたうちをしながら帰っていった。


自分もこっそりアイスバーを食べていた店主てんしゅぼうながめた。


「あ〜!! 当たったっちゃった!! らっき〜!!」


老婆ろうばは目を見開みひらいた。


なんでも解決かいけつする凄腕すごうでと聞いて来てみたものの、イメージとかけ離れすぎたのだ。


彼女は全体的ぜんたいてきやわらかな雰囲気ふんいきかもし出している。


そもそもあんなに幼い少女だとは聞いていない。


凄腕すごうでどころか、本当に依頼いらいをこなせるのだろうかというほどの見てくれだ。


老婆ろうば色眼鏡いろめがねで人を見るのはよくないとは思ったが、それにしたってたよりなかった。


彼女のかみの長さはミディアムで、色はあわいピンクをしていた。


ウェーブがかったクセっ特徴的とくちょうてきだ。


これがゆるふわかん拍車はくしゃをかけていた。


くりっとしたまんまるの碧眼へきがんに、低くて小ぶりなはなたいして化粧けしょうするでもなく、くちびるもあどけない。


そしてとおるような白いはだ


セポールはほどほどに大きなまちだが、彼女は良くも悪くも垢抜あかぬけていなかった。


純真じゅんしんさを体現たいげんしたような見てくれである。


背丈せたけもちいさく、まるで小動物しょうどうぶつのようなあいくるしい姿すがただった。


とてもおさなく見える。一体、何歳なんさいなのだろうか。


パッと見るかぎりでは10代前半に見える。


果たしてこのとしで仕事がつとまるのだろうか?


「こんにちは!! シエリアの店へようこそ!! 何か御用ごようですか?」


店主のほうからフレンドリーに声をかけてきた。


「あっ、あの、その……トラブルナントカさんかしら?」


老婆ろうばがそう尋ねるとシエリアの顔が引きまった気がした。


そして依頼人クライアントは内容を伝え始めた。


「あたしゃトリー・トリー。明後日あさってまごが遊びに来るんだよ。まごは私のお手製てせいカレーが大好きでねェ。いつも、このめずらしいカレーを使うんだけれどね、ちょうど切らしてしまってね」


トリーは小さなカレーのかんかかえている。


「失礼……ちょっと見せてくださいね」


それは片手かたておさまるサイズだった。


シエリアはそのかんながめると、分厚ふあつ商品しょうひんカタログを取り出した。


それをペラペラとすごいいきおいでめくるとすぐに目的のページに辿たどり着いた。


すさまじいはやさであるとトリーの素人目しろうとめでもわかった。


華麗かれいなるカレー……ですね。めずらしいだけあって、最近はどの店でも取扱とりあつかいしてませんね……」


それを聞いてトリーはしょぼくれた。


「そうかい。それじゃ仕方ないねぇ。トラブル・ブレイカーさんでも出来ないこともあるねェ」


けっして嫌味いやみではなかったのだが、難題請負人なんだいうけおいにんとしては聞きてならなかった。


またもやシエリアはカタログをめくりだした。


「とろとろハーブに、幼齢ようれいニンジン、春虫秋草しゅんたゅうしゅうそう紅蓮ぐれんおんタマに、華麗かれいかれいエキス、昏睡草こんすいそう一角獣ユニコーンたてがみ、リザードマンの目玉めだま、マダラザルの内ぞ……」


後半になるにつれ、ゲテモノだらけになっていく。


華麗かれいなるカレーはこんなもので構成されていたのだ。


「これならすべての材料を用意できますよ。特注とくちゅうしても素材はうちの店で売れるので、ちょっとお高いくらいですみますよ」


それを聞いたトリーはみを浮かべた。


「本当かい? そりゃうれしいねぇ。それじゃあ、あんたにたのんだよぉ。明後日あさってまでにね。かん成分表せいぶんひょうを元に調合ちょうごうしてくれるんだろ?」


シエリアはニコニコしながら答えた。


「アッ、ハイ」


老婆ろうばが帰っていくとシエリアは頭をかかえた。


「うわあああぁぁぁ〜〜!! またやっちゃったよぉ!! 成分表せいぶんひょうだけでなんとかなるわけ無いってぇ!! 調合ちょうごうはともかく、あじ再現さいげんなんて出来できるわけ無いよぉ!!」


こんな時、彼女は高級氷菓こうきゅうひょうかのブランド″エリキシーゼ″を食べて一息つくのだ。


カップからスプーンでアイスを口に運ぶ。


「パクっ!! ふ〜。おいひ〜〜〜」


その時、少女に衝撃しょうげきが走った。


「こっ……これ、カレーのフレーバーだ!! 限定げんていで売ってた華麗かれいなるカレーコラボ!! あじ完全再現かんぜんさいげんしたって、文句もんくの!!」


どうやってカレーをアイスに落とし込んだのかはサッパリわからなかったが。


ともかく、これを味見あじみしながら素材そざい調合たょうごうすれば華麗かれいなるカレーになるのではないか?


シエリアは調合ちょうごうだけでなく、料理にも明るかったので微妙びみょうあじ風味ふうみには敏感びんかんだった。


「うーん、あまみが強すぎる。入れる順番じゅんばんちがうなぁ」


「えっと、リザードマンの目玉はしんをくり抜いて……」


成分表せいぶんひょうのポトポトじる? そんな素材ないよ。なんだろコレ……」


「うわぁ!! っさ〜」


トラブル・ブレイカーは不眠不休ふみんふきゅう華麗かれいなるカレーの再現さいげんこころみた。


そして、約束やくそくの朝が来た。


依頼人クライアントは少し不安そうな表情だったが、カレーを受け取ると帰っていった。


あとは上手うまくいっていることをおのるしか無い。


徹夜てつやつかったシエリアはボーッとしながらカレーと素材を片付かたづけ始めた。


「にしても気持ち悪いモノばっかだったなぁ……」


店のバックヤードに移動している時、少女は不注意ふちゅういゆかに転がったビンをんづけた。


「あっ!!」


すると、彼女は転びながらカレーを頭からかぶってしまった。


「うわっ!! ぶふぅッ!!」


ピンクかみ黄色きいろこながべったりとくっつく。


すぐに少女はお風呂に入って体中を念入ねんいりにあらった。


幸い、カレーは落ちた。においもしない。


だが、それは大いなる間違まちがいだった。


次の日の朝、いつもどおりに子どもたちが駄菓子だがしを買いに来た。


「う〜っす!! シエリアねえちゃ……うわっくっせえぇ!!」


わんぱく少年ははなをつまんだ。


「ねえちゃんカレーくさいよぉ。いっぱいカレー食べたの?」


天真爛漫てんしんらんまんな少女もはなをつまんだ。


「え゛!?」


シエリアは自分のにおいをいだが、全くわからなかった。


彼女はカレーいすぎてはな馬鹿ばかになっていたのである。


お客さんたちは思わず笑いだした。


結局、トリーは出来上がった華麗かれいなカレー粉に満足したようで依頼いらいは大成功した。


そしてシエリアは充足感じゅうそくかんに満たされた。


これだからこの仕事はやめられない。


しかし、カレーにおいは三日三晩みっかみばん、落ちなかった。


その間だけシエリアのあだ名は″カレーねえちゃん″になってしまうのだった。



おばあさんとおまごさんに無事にカレーとどけられてよかったと思います。


でもまさか、鼻が麻痺まひするまでんでしまったとは思いもしませんでした。


それはそうと、″カレーねえちゃん″ってなんか妖怪ようかいっぽくないですか? 


口からカレーをいたりするんですかね?


……というお話でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ