ex ハーベストリアル・パイ
セポールにはパイを焼く豊穣祭″ハーベストリアル・パイ″という行事がある。
ただ焼くだけでなく、パイ作りの腕利きが集まってコンテストを催すのだ。
そして出来上がった美味しいパイを皆で食べるのである。
コンテスト優勝者には翼のある女神像のトロフィーが贈られることになっている。
あくまで名誉を讃える代物であり、賞金などは出ないが料理店などが飾ればかなり箔が付く。
雑貨屋の常連で料理上手のアルプおばさんとカルクおばさんが腕試しでこの祭りに出場するという。
実はシエリアもかなりの料理上手である。
よく2人とパイ祭りについて語り合い、日々、作戦を練っていた。
そして、万全の体制で豊穣祭の日がやってきた。
この大会は基本的には2人1組で参加するが、1名でエントリーすることも可能である。
ただ、パイ生地と具を同時に両方作らねばならないので、時間内に1人で完成させるのは不可能に近い。
シエリアはほどほどに店番をするとパイ祭りを見に店を閉めようとした。
すると、通りの向こうから人影が見えた。
「はぁ、はぁ、し、シエリアちゃん」
やってきたのは腰に手を当ててヨロヨロとあるいてくるカルクおばさんだった。
「カ、カルクおばさん!! どうしたの!?」
「あたたた……転んで腰を強打してしまって。そ、それより!!」
彼女は祭り会場の方を指さした。
「私は具の担当、アルプさんはパイ生地の担当!! どうしよう!! このままじゃ間に合わな………いちちち!!」
それを聞いた雑貨屋少女は会場に向けて走り出した。
「頼んだよシエリアちゃああん!!」
そう叫ぶとカルクおばさんは地面にへたり込んだ。
一方のアルプは大ピンチだった。
パイ担当の彼女は良い生地を作り上げていた。
まさに会心の出来であるという確信があった。
しかし、このコンテストでは具のないプレーンは認められていなかった。
ハッキリと役割を決めていたので、アルプは具の研究はしてきていなかった。
さらにこのトラブルのせいで食材を確保するのが遅れてしまい、使いにくいものばかりしか残っていなかった。
アルプは全身に大汗をかいた。
「くっ、ここまでなのね……」
彼女が絶望しかけたときだった。
見慣れた桃色髪の少女が人並みをかき分けてやってきたのである。
「はい!! はいはい!! 代打で入ります!!」
突然の乱入者に観客は沸き立った。
「シエリアちゃん!!」
彼女ならどうにかやってのけてくれる。
その信頼感がアルプを後押しした。
シエリアはすぐに食材の乗ったテーブルに目をやった。
具への着手が遅れたからか、予想通りにまともに使えそうな食材は無くなっていた。
他の選手たちは順調に中身を作っている。
残った具材でなにか出来ないのか。
シエリアは素早くパイの中身になりそうなものを目利きした。
食材を選定する彼女の観察眼は恐ろしく早かった。
すぐに食材のテーブルに駆け寄って緑色の実を手にすくうとアルプの横に移動した。
「シエリアちゃん、それは……」
おばさんは怪訝な表情を浮かべた。
シエリアが持ってきたのは毒がある小さな果実だったのだ。
「ま、みててよ!!」
ヘルプに来た少女は鮮やかな手さばきで青い果実を刻み始めた。
すぐに温めていた鍋にそれを入れるとサラサラっと砂糖をまぶした。
そしてクツクツと煮ること数分、独特の風味のジャムが出来上がった。
「アルプさん。食べてみてよ!」
アルプはもしやと思い、ジャムを口にした。
「こ、これは!! この実の酸味に甘さが加わって、食欲を誘う甘酸っぱさ!! これ、ウワサに聞く″ウメ″じゃない!?」
ちょっと驚いた顔の相棒にシエリアは笑いかけた。
「御名答〜!! これ、″ウメ″でした。緑のを生で食べると毒があるんだけど、加熱したり乾燥したりすれば無毒になるんだ。だからジャムにしちゃえば食べられるんだよ。このあたりじゃ珍しいからみんな知らないんだよ。さ、仕上げようか!!」
こうして2人の渾身のウメジャムパイが完成した。。
コンテストでは肉の入ったジューシーなもの、魚の入ったサッパリ塩味。
ケーキのノウハウを活かしたスイートなパイ、ゲテモノのカエルパイなど様々(さまざま)なパイが出揃った。
審査員たちは次々(つぎつぎ)とパイを審査していくが、だんだんフォークが進まなくなっていく。
誰が見ても満腹になりつつあるのがわかった。
そしてウメジャムパイの番が来た。
すると審査員たちが顔を見合わせている。
会場からもざわざわと声が上がった。
一通り評価が終わると審査結果が発表された。
「優勝は――アルプ&シエリアコンビーーーーッ!!」
広場は割れんばかりの声援につつまれた。
「はい、これ、優勝の証の翼の女神像だよ」
トロフィーはかなり丈があり、しかも重そうだ。
アルプとシエリアがそれを受け取った次の瞬間。
「おっととと………!!」
「うわっ!!」
バランスを崩した2人はトロフィーの重さに耐えきれずに落っことしてしまったのである。
「ガシャーーーンッッッ!!」
地面にに叩きつけられた女神像は無惨にも砕け散ってしまった。
思わず肩を落とす優勝ペアだったが、会場の人達がトロフィーの欠片を拾ってカゴに入れて渡してくれたのである。
材質からか、像は破片に割れてはいたが、粉々(こなごな)にはなっていなかった。
アルプはべそをかいていた。
「トロフィー、残念だね。もとに戻ったらいいんだけどねぇ」
帰り道、シエリアはトロフィーを受け取って帰った。
バラバラとはいえ、雑貨店に飾っておけば評判になるだろうと考えたのだ。
だが、雑貨屋少女はアルプの悲しむ顔を忘れられなかった。
「よっし、やろうかな!!」
シエリアは本腰を入れて像を修復し始めた。
幸い、割れた部位は綺麗にくっついた。
それでもやはり複雑な構造に変わりなく、一筋縄にはいかなかった。
数日後、修理に成功するとシエリアはその場で倒れるように眠りについてしまった。
彼女は女神の夢を見た。
「私を元に直してくれて本当にありがとう。貴方の魂のこもった修復は私に本来の力を取り戻してくれました。これで自由に飛べます。ありがとう。ありがとう。おーーーホッホッホッ!!」
翌朝、シエリアが起きると女神像は無くなっていた。
「え〜、うそぉ〜〜」
すると朝の裏路地を抜けてアルプおばさんが走ってきた。
「シエリアちゃん、ゆゆ、ユメ、夢!!」
慌てる彼女をシエリアはなだめた。
そして2人で夢の内容を共有した。
アルプとシエリアが語っていると常連のおじさんがやってきた。
「よっ。おい、それより聞いたかい? 昨日の夜、オーッホッホッホって笑いながら飛ぶ石像が街中で目撃されたらしいぜ。気味が悪ぃなぁ」
この怪異はすぐに新聞に取り上げられ、セポール7不思議の1つとして語られることとなった。
なんとかコンテストに優勝できてよかったです。
これでアルプさんもカルクおばさんも喜んでくれたと思います。
女神像さんも元気を取り戻してくれたみたいですし。
でも、下からだとローブの中が丸見えになっちゃうんじゃないかなぁ
……というお話でした。




