ex バラバラジグソー
心地良い朝の風が路地裏に満ちてゆく。
そんな時、向こうから大きな箱を抱えた少女が走ってきたのである。
勘によればおそらくこれは依頼人だ。
「早速だが君には……ジグッ、ジグソーパズルの完成をたた、頼みたいんだ。あ、ボクはキュリオって言うんだ」
シエリアは仕事を聞くモードに入った。
「デーセン・パズルって会社がジグソーパズル早解き大会をやってるんだ。毎回あと少しまでいくんだがボク1人ではどうしようもない部分があるんだよ」
熱がこもって急に早口になりだした。これは筋金入りのマニアだ。
こういう人は信用できるとシエリアは思った。
しかし店主はジグソーパズルなんてやらない。
「その顔!! デーセン・パズルには素人の感覚でないと解くのに手間取る箇所が全体の2割くらいあるんだ。だからランカーはみんな素人とバディを組むんだけど……」
そこで依頼人は言葉に詰まった。続けて顔をそむけつつモゴモゴと喋る。
「その……あの……ボク、ジグッ、ジグソーパズルなんて頼める友達いなくてさ……」
熱を帯びた隕石は一瞬で石ころになってしまった。
依頼がどうこう以前に放っておけないなとシエリアは思った。
「いいですよ。お受けしましょう」
眼の前のパズル少女は破顔一笑した。
シエリアは店先に「ちょっとお休みします」と貼り紙をした。
依頼で店を休むことは珍しいが、たまにはこういうこともある。
店内では狭すぎるので、雑貨店は彼女の部屋へと依頼人を案内した。
部屋を貸すのはプロ意識の表れで、シエリアは依頼達成のためなら多少の事はやむ無しと思っていた。
当然ながら異性や信用できない人物を泊めることはないが。
ただ、部屋はとっちらかっていて、時には下着が(脱ぬ)ぎ捨ててあることもある。
必要に応じてシエリアはそれを取り繕ってしまい込むのだ。
そしてキュリオは大きな紙の箱を床に置いた。
「ま、この床面積ならギリギリ収まるだろう。完成したらデーセンに写真を送るんだ」
そう言いながらジグソーガールは丁寧にピースを取り出した。
あっという間に山のようにピースが積み上がった。
「う、うぐッ!!」
ド素人のシエリアは思わず後退りした。
「落ち着いてよ。全体の8割くらいはあたしがなんとかする。君はマイベースにやってくれていい」
するとキュリオは両手でピースをすくって物凄い速さで並べ替え始めた。
雑貨屋少女は思わずポカーンとしてしまった。
早すぎて何をしているのかわからない。
「まずはピースの凹凸。これはどんなパズルでもだいたいの規則性があって、それを元に組むことができるんだ」
ピッ、ピッと床の欠片を依頼人の少女は指さした。
「今回のテーマは″海原と女神とアルカイックスマイルと″。……なんだけど、海原が特に難しい。特に深海のピースは変化に乏しいから」
するとキュリオは真っ暗なピースをかき集めて、さきほど言った規則性を元に組み上げた。
あっという間に深海の一部が完成した。
ただの真っ黒にしか見えなかったピースが海を描き出す。
これはもはや魔法であるとシエリアは思った。
「こうやってパターンを読んで、ときに予想しながら組んでいくんだよ。ボクらは″ペネトレイト″と呼んでる」
ここまで聞くと自分が役立つところなど無いだろうと思えてきた。
「こっからが本題。このピースの中には法則を無視したものが2割くらい含まれてるんだ」
依頼人はひょいっとその欠片を抜き取った。
「ほら。まるで子供の知育パズルみたいになってるだろ? どんな達人でもここのスピードは格段に落ちる。だから素人目が必要なんだよ」
これくらいならなんとかなるのではと雑貨屋少女は思ったが、絵柄が巨大なのは気になった。
「それで、目の肥えている人ほどこのぐにゃぐにゃとの接続部が霞んでしまうんだ。ボクらはこれを″蜃気楼″と呼んでいる」
説明も程々(ほどほど)にキュリオはピースを分類し始めた。
「さあ。始めようか。目標は徹夜して丸2日を切ること」
こうしてジグソーパズルRTAが始まった。
依頼人はかなりこなれていて、どんどんパズルを完成させていく。
シエリアも不器用ながらそれに追従した。
素人なら出来るという言葉通り、さほど難しいことはなかった。
逆にこんな簡単な箇所がなぜ手練れに組めないのだろうと疑問に思ったりもした。
そんな時、四つん這いになっていたキュリオの姿勢がぐらりと崩れた。
そのまま、彼女は床に突っ伏して、出来上がりかけのパズルを破壊した。
「ぐッ……クソッ!! 徹夜で目が回ってしまった!! 店先に並ぶところから競争は始まってるんだ。だから売り出す3日前から店先で徹夜する羽目になったんだ。コンディションを整《(ととの)えられなかったボクの負けだよ……」
パズル少女はボタボタと大粒の悔し涙を垂らした。
どれだけ彼女が青春をこれに賭けているかが感じられた。
(うわぁぁぁ〜!! 無理だよ!! もう時間に間に合わないって!! どうしよ〜!! ど〜しよぉ!!)
……とか言いたかったが、そんな弱音を吐いている場合ではない。
シエリアはクールダウンするために冷蔵庫から″エリキシーゼ″を取り出してきた。
それをキュリオに手渡す。
「はい。ブルベリミント。視力がアップするし、スッキリ。おまけにクールダウンも出来るんだよ。ささ。食べて!!」
キュリオはたかがアイスと侮りながらも口にした。
「お、おいしい……。すごくリラックス……」
そこは高級氷菓だけあって効果は抜群だった。
シエリアもエリキシーゼを食べ終わると2人は互いを見てうなづきあった。
キュリオが破壊したパズルは全体の3割程度で、急いで組み立てればRTAに勝てる時間だった。
少女たちは冷静にペースを保ち、目標タイムでジグソーを完成させた。
「やった!! シエリア!! ほらボクと肩を組んで!! 完成した写真をとらなきゃ!!」
普段なら戸惑うところだが、徹夜のテンションでシエリアはガッシリとキュリオと肩を組んだ。
「ハイ!! チーズ!!」
……こうして無事にパズルのエントリーは終わった。
結局、シエリア達は月刊ジグソーマガジンでランカーを押しのけ、トップのタイムを叩き出した。
数日後、キュリオが店に遊びに来ていると馬車の荷台に大きな木箱がのっていた。
「あっ、言い忘れてたよ。実は景品があるんだ。今日届くんだ。なんだろうね? 楽しみだね!!」
やけにデカい箱を見てシエリアは嫌な予感がした。
それはシエリア達の送った写真を元に作られた巨大ジグソーパズルだった。
等身大サイズでとにかくアホみたいにデカかった。
次の瞬間、狙ったように運悪く強風が吹いた。
するとジグソーパズルのプレートはバタリと倒れてしまった。
「グアシャアアアッ!!!!」
そして一瞬でシエリアとキュリオのピースはバラバラに砕け散ったのだった。
無事にジグソーパズル・スピードランのお手伝いが出来て良かったと思います。
ちなみに景品のパズルは欠けたピースだらけで組むのは断念しました。
キュリオさんの全身全霊でジグソーに向かっていく姿勢は眩しかったです。
でも、自分の身体がバラバラに砕け散ったのはなかなかグロテスクだなと思いました。




