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28. 私の呪い


「……ああ! 火吹き種のドラゴンは貴重ですものね。万が一私がイスクラを連れて北方辺境を離れたら困るから、領主として好意を示して頂いているわけですね」

「ん?」

「大丈夫です。私をここに置いて下さっているヴォルテール様やタリさんたちに、ご迷惑をかけるようなことは致しません。もし何かあってここを離れる場合は、ちゃんとイスクラを置いていきますから」

「……なるほど。これは先が長そうだ」


 口許をおさえ、苦笑するヴォルテール様は、灰色の眼差しを私に注ぐ。

 それは、友好というにはあまりにも鋭く、けれど熱っぽいものだったので、私は言葉を失った。


(どうして……どうしてこの人は、こんなに切ないような顔で私を見るんだろう)


「もし私が男性として、女性であるミルカ嬢に好意があると言ったら、あなたはどうする」


 言葉は矢のように素早く襲い掛かる。

 けれど私は、無関心と無表情で、その矢が心に届く前にしっかりと払いのけた。

 無意味に傷つく前に、対処しないといけない。


「からかうのはやめて下さい、ヴォルテール様。私はたくさんの男性に断られてきた女です。ドラゴンの世話をする穢れた女、宝石ばかり身に着けた浪費家令嬢、傷のある呪われた少女と揶揄されてきました」

「……」

「そのせいでお婿さんを迎え入れられず、アールトネン家を断罪させた。おまけに流罪人です! ……私があなたと釣り合うわけがないのです」


 思い出したくない記憶が蘇る。

 招かれたとあるダンスパーティ。

 私はアールトネン家を存続させるために、誰でも良いから婿を取ろうと必死に着飾った。

 ……けれど、全てが無駄だった。

 ドラゴンに関する偏見を浴びせられ、砂を噛むような思いで会話したものの、当然の如く誰もダンスには誘ってくれなかった。


(招かれたのに『本当に来るなんて思わなかった、来た方が悪い』と言われるのは、堪えたわね……)


 壁の前で、ただひたすら胸やけするほど甘いお菓子を食べて、時間を潰していた。

 そんな惨めな人間には、好意を寄せられる価値なんてないのだ。


(高望みなんてしない。だからその代わりに、思い出させないで欲しい。私が惨めな人間だってことを)


 ヴォルテール様はどこか辛そうに眉をひそめて、


「あなたに呪いをかけた人間を片っ端から殴り飛ばしたい気分だ」


 と物騒なことを呟くと、ソファの上の古びた本をそっと拾い上げた。


「あなたの呪いを解くにはどうしたらいいか、知っているか?」

「……分かりかねます。魔法使いでも呼んできますか」

「物語の中から連れてくるか、それも良い。だがそれが不可能である以上――結局は毎日、呪いを否定し続けるしかない」

「呪いを否定?」

「すなわち、あなたは穢れてもいないし、呪われてもいなければ当然浪費家でもない、と言い続けることだ。呪文のように、子守歌のように」

「意味があるとは思えませんが」

「あなたは美しく、堅実で聡明な、優れたドラゴンの乗り手である。この呪文に意味があるか、それともないか。いずれ分かる時が来るだろう」


 歌うように言って、ヴォルテール様は手にした本を私に渡した。


「火吹き種を贈った代わりと言っては何だが、ミルカ嬢には火吹き種についての情報を集めて欲しい」

「文献にもあまり残っていませんものね。元より記録を残す予定でしたから、それをヴォルテール様にも共有しますね」

「助かる。この本が一番火吹き種について詳しく書いてある。イスクラを観察して記録を残す際に参考になるだろう」

「ありがとうございます」

「あなたの優れた観察眼による火吹き種の記録――期待している」


(期待。うん、それなら分かる。好意とか呪いとかは、言っている意味が分からないけれど)


 私は本を抱きしめて、頼もしく見えるように精一杯頷いた。


「はい、頑張ります!」

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