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27. デザストル商会



 デザストル商会。

 ヴォルテール様が呟いたその名には聞き覚えがあった。

 確か生前父が口にしていたはずだ。ただし、好意的な様子ではなかった。


「デザストル商会は、隣国ク・ヴィスタ共和国で最も力のある商会だ。穀物と宝石を主に商っている」


 ヴォルテール様はベルトのエメラルドを見せてくれた。


「これも、上着のルビーも、デザストル商会から商ったものだ」

「質が良いですね。……ただ、父はあまり評価していないようでした」

「ああ、無理もないことだ。デザストル商会はドラゴンで構成された軍団を作ろうとしているからな」

「ドラゴンで、軍団を?」


 初めて聞いた。驚く私に、ヴォルテール様は苦虫を噛み潰したような顔で頷く。


 商会は自前の私兵を持っている。高価なものを商う者や、頻繁に販売ルートを行き来する者であればなおさらだ。

 盗賊対策になるだけではなく、商会に課税をしようとする王族たちへのけん制にもなるからだ。

 もっとも、後者についてはどれだけメリットがあるかは分からない。

 ク・ヴィスタ共和国の一国が、五年前王族に反旗を翻したが、一瞬で鎮圧されていた。商会が保持できる兵力は、結局のところたかが知れているのだ。


(でも、そこにドラゴンが加われば……)


 無論、ドラゴンを用心棒代わりに使う商会はある。

 だがそれは一頭や二頭程度の規模であり、用途も野生の獣を追い払うためのものだ。いわば自衛のためのドラゴン。

 ――それが、攻撃に転じたら、きっと恐ろしいことになる。


「今のところ、そういった不埒な考えを持っているのはデザストル商会だけだ。連中は強いドラゴンばかりを取引している」

「それは……何かしらの意図があると思われても仕方がないですね」

「問題は戦争の是非ではない。ドラゴンが兵器になり得る――それもとんでもなく強い兵器になると、皆が知ってしまうことだ」

「はい。頭の良い人たちが、どうにかしてドラゴンに言うことを聞かせる術を編みだすでしょう。強いドラゴンを……火吹き種のような、相手を攻撃できるドラゴンを、南の大陸からどうにかして連れてきてしまうでしょう」

「その通りだ、ミルカ嬢。そうして私たちは、ドラゴンを敬うべき隣人ではなく、人を殺めるための道具へと引きずりおろしてしまう」


 人を殺し、人に刃を向けられるイスクラの姿を想像して、ぞっとした。

 思わず両腕で自分の体を包み込むようにすると、ヴォルテール様が立ち上がって、手を添えてくれる。

 ヴォルテール様は、私の腕をそっとさすってくれた。

 たこだらけの分厚い手のひらの感触が、ドレスの生地を通して伝わってくる。


「大丈夫だ。私がいる限り、人間の欲にドラゴンたちを巻き込ませはしない」

「ヴォルテール様……」

「イスクラについては、私のつてを使って探らせよう。分かり次第ミルカ嬢にも共有する」

「ありがとうございます。せっかく贈って頂いたドラゴンですから、何かあっても私がしっかり守ります!」


 勢い込んで言うと、ヴォルテール様が笑った。


「贈るなど、まるで北方辺境のドラゴンは全て私の物であるような言い方をしてしまったな。ただ、私が贈るという言葉を選んだ理由がきちんとあることは、知ってほしい」

「理由、とは?」

「ミルカ嬢。あなたの気を引くためだ。女性に好意があると知ってもらうためには、まずは贈り物が有効だ。そうだろう?」


 晴れやかな笑みを浮かべて言うヴォルテール様。

 一瞬、この人の言葉が理解できなかった。


(私の、気を引く?)


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