23 ささやかな幸せ
「……鈍感なくせに、そういう美味しいところだけは持って行くんだから」
束の間の抱擁を終え、桐木は赤面して体を離した。
「いくら僕でも、それくらいは分かるよ」
我ながら少々思い切ったことをした。あとから恥ずかしさがこみ上げてくるが、ここまで来たら最後まで押し切るしかない。
「……僕も、桐木さんには感謝してるんだ。僕一人じゃ、米田と一色さんが抱えていた問題には歯が立たなかったと思う。桐木さんがいなかったら、僕は彼女の操り人形にされていたかもしれない。本当にありがとう」
だから、僕の方からも言わせてほしい。彼女に対する、素直な気持ちを。
片手を差し出して、僕は告げた。
「僕のことを支えられるのは、桐木さんしかいないと思う。付き合ってもらえないかな」
「……もう、馬鹿。断るわけないでしょ」
幸せに満ちた笑みを浮かべて、桐木はあっさり了承した。
彼女の長い片想いは、ついに成就した。
今まで待たせてごめん、と僕は心の中で謝った。鈍感にもほどがあるだろう、と自己を叱る。
これからは、他者へ心を閉ざすことなく生きていこうと思う。世界には僕を必要としてくれている人がいる。その想いに応えなくてはならない。
一色さんと米田が今後どうやっていくつもりなのか、正確なところは分からない。少なくとも、以前のように僕を含め三人で会うことはないだろう。
今回の件を仕組んだのは一色さんだが、米田に全く問題がなかったわけではない。一色さんへ文句をつけてばかりで、ろくに家事を手伝おうとしなかったツケが回ってきたのだ。ある意味、仕返しをされたのは自業自得なのかもしれない。
これから彼らとどう付き合っていくべきか、僕にはいまいち結論が出せていない。
一色さんは完全に米田を見限っていた。近い将来、二人は別れるのかもしれないなと思う。その方がお互いのためになるのかもしれない。
ただ一つだけ確かなことは、僕と桐木の間にささやかな幸せが育まれつつあることだ。
腕の中で身を任せている、愛する人。僕は彼女を、もう一度優しく抱きしめた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
まず初めに、読者の皆様へ。
今作は、私が今までに書いた中で最長の恋愛小説です。しかし、ストーリー展開は一般的なラブコメと異なったものになったと思います。
主人公と別のカップルが接触するところから物語が始まるのですが、本命のヒロイン(桐木さん)の登場はもう少ししてからです。序盤の方では、「本当にこれは恋愛小説なのか?」と思った方もいるのではないでしょうか。
そのカップル間でDV疑惑があるなど、謎解き要素も入れてみました。割と挑戦的だったかな、とも思います。最後まで付いてきてくださった読者の皆様には、本当に感謝しかありません。
次に、今作を書くにあたって登場人物のモデルを務めてくれた、友人S君、そして彼と交際しているSさんへ。
彼らが同棲しているところを訪ねた経験があったからこそ、「僕とあいつとあいつの彼女」の構想を練ることができました。桐木さんが登場する以前のエピソード、また三人で池袋の百貨店に行ったエピソードは半分以上が事実に基づいています。
(もちろん実際にはDV疑惑などはなく、彼らは幸せな生活を送っています。今作はあくまでフィクションですので、そこはご了承ください。)
最後になりましたが、拙作に目を通していただいてありがとうございました。もしよろしければ、感想や評価などお寄せ下さると嬉しいです。
それでは、また次の作品でお会いしましょう。




