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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学一年生編
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知之と奈々の一日デート

[知之]が不登校になってからもう一年になる。


『去年の今頃チカがこんな風になるなんて思っていた人絶対居ないよね。』


おなじみの朝の登校時の会話で美久が言った。


『それどころかチカが休んでいても誰も何とも言わなかったし。』


『のぞみん!チカに失礼じゃないの?』


奈々は結構本気でのぞみに怒った。

 

確かにのぞみは正月に[女装した知之]に会うまで休んでいても気にしてはいなかったかもしれない。


一方で奈々はあの日自分が余計な事をしなければ知之が引き篭もりにならなかったと未だに後悔している。


『私、奈々が助けてくれたの忘れてないよ、ありがと。』


知香は笑顔で感謝した。


『でも、ホントは知之の事好きだったのにこんなに可愛くなっちゃってさ、反則だよ!』


奈々が知之の事を好きだったかもという憶測は美久から聞いていたが直接言われたのは初めてだ。


『でも、今はともちの事何も思ってないんでしょ?』


優里花に指摘されるが、友だちと割り切れる今だからこそこんな告白も出来るのだ。


『そうだよ、私の初恋を返せ~!』


知香は申し訳ない事をしたと分かる様に両手を合わせて謝る。


『本当なのですか?ワタクシも去年の知之さんにお会いしたかったですね。』


違う小学校出身で三年生の麗は小学校時代の知之を知らない。


それは同級の優里花もありさも一緒だった。


『一年に一度くらい男の子の戻ってみれば?』


『そういえば、体育祭の応援団やった時、カッコよかったよね。』


『やだよ、そんなの。卒業式で知之とはお別れしたの!』


知香は二度と男の服を着たくないと思っているのだ。


『……あのさ……。』


みんなが揃っている前で萌絵が発言するのは大変珍しい。


『……一日だけでいいの……。お願いだから、男の子として奈々とデートして!』


知香より奈々の方が驚いた。


『ちょっと萌絵、あんた何言ってんの!』


顔を真っ赤にする奈々だった。


『私、奈々がずっと[知之くん]を好きだったの知っていた。でも私がいつも知香の事ばっかり言うし、我慢していたんだよね。』


中学に上がって親交を深めていった萌絵が知香と恋仲なのを知ってはいたが奈々は[知之]を忘れる事は出来なかった。


知香はしばらく黙って車イスを押していたが意を決した。


『……一日ならやっても良いよ…。』


これで奈々が吹っ切れればもう二度と知之には戻る必要は無い。


『やぎっちさ、一回デートしたくらいで忘れるどころかまた火が着いたらどうする?知之は死んだ訳じゃないんだよ!』


美久が口を挟んだが考えてみればそうなのだ。


萌絵にとってみれば奈々が知之の事を忘れてくれれば知香を独占出来るから好都合なのだが、知香が知之であった過去を消す事は出来ない。


『良いよ、私[知之]と一度だけデート出来れば忘れてみせる。』


奈々がきっぱり言い切った。


『何意固地になってるの?そこまで無理する事って無いでしょ?』


収集がつかなくなり美久が抑えたが


『今度の土曜日、朝九時!駅前に男の知之で来て。私、一日白杉知之とデートするから。それでもう忘れるから。』


決めたら奈々は潔い。


『え?土曜日は……。』


と言い掛けたが、普段は萌絵と会う日だけど今週は空いている。


康太の件で日曜日に変更したのである。


『分かった。土曜日の一日だけだよ。この日は男の子として奈々とデートする。……みんな、隠れて覗いたりしたらダメだからね。』


残念がる麗たちだった。



当日は11月最後の日だが、まだ寒さを感じる事は無くジャケットを着ていると少し暑いくらいだ。


一年間髪を伸ばし続けた知香はポニーテールの根っ子を野球帽の後ろから出し、前髪は出来るだけ隠して目深に被るが女の子にしか見えない。


一年振りに穿いたデニムのジーンズはぎりぎり足首が隠れている。


対する奈々は赤いトレーナーに茶のパンツ姿だった。


『おはよう。待った?』


[知之]は奈々に声を掛けた。


『待ってないわよ、おはよう知之。男の子って言うにはかなり無理があるけど。』


一年でそれだけ女の子に近付いたという事が分かる。


『やっぱり変、だよね?』


『良いよ。無理して知之になったの分かるから。じゃ行こうか。』


二人は電車に乗った。


知香は月に一度ジェンダークリニックに行くが、この地域で中学一年生だけで電車に乗って何処かに行くというのは殆ど無い。


と言ってもふた駅で新幹線が停まる比較的大きな駅に着く。


大きな駅ではあるが駅前に地元の百貨店がある以外特別なスポットは無い典型的な地方都市である。


『観たい映画があるんだけど良いかな?』


奈々から提案をされたが映画館なんていつ以来だろう?


観る映画も子供向けのものくらいしか観た記憶が無い。


『なんて言う映画?』


奈々が観たかったのは大人向けのラブコメディー作品の様だ。


『面白そうだけど、こういうの普段テレビドラマでも観てないよ。奈々は好きなの?』


奈々は頷いた。


『じゃ、観よう。奈々がこういうの好きだなんて知らなかったよ。』


奈々の希望でデートは進んでいくが、リードをするのは[知之]である。


『コーラのMサイズふたつとキャラメルポップコーンのLサイズひとつ下さい。』


観賞券を購入して、[知之]が奈々の分の飲み物も一緒に買って来た。


『ポップコーンってこんなに大きいんだ。これじゃ映画を観るより食べる方に集中しちゃうかな?』


[知之]は奈々に笑って話し掛けるが、時間が経つに連れ奈々の口数が減っている様な気がする。


『受付始まったよ。行こう。』


二人は受付をして指定された席に向かった。



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