康太の事情
知香はスポーツが苦手であるが、唯一好きなものがある。
それは[知之]時代から毎年冬に長野の田舎に行って遊んでいたスキーだ。
同い年である地元の幼なじみの一郎よりも上手く滑れるが引き篭もっていた昨年はやっていないのでブランクが気になるところだった。
(この冬はどうするかな?)
一昨年までは冬休みに入るとすぐ一人で長野に行って後から両親が帰省で合流し、Uターンの時に一緒に帰るパターンだった。
小さい頃から祖父がスキーを教えてくれて地元のスキー場は祖父の顔で毎日遊び放題だったため嫌でも上手くなっていったのだ。
ただ、夏休みの様に大勢で押し掛ける訳にはいかないだろう。
(はずみんは行きたがるだろうけど他の人はどうする?)
はずみは夏に一郎と知り合って良い感じの中になっている。
電話やメールで連絡を取り合ってはいるが夏以来二人は会ってはいないから是が非でも行きたいと言うはずだ。
(萌絵はどうしよう?)
萌絵の場合声を掛けないと後がうるさいのだが、夏は人数が多すぎて知香と殆ど話が出来なかった事でも怒っていた。
(どっちにしても怒るからな。)
萌絵を連れて行くならあまり大人数にならない方が良いかもしれない。
(はずみは一郎と一緒だから問題ないとして、雪菜たちは今回は呼ばない方が良いかもしれない。)
土曜日には萌絵の家に行って話をしてみた。
『今回は誰が行くの?』
案の定、余計な人間に居て欲しくないと言いたい感じだった。
『今のところ萌絵とはずみんだけだよ。きな子たちには声を掛けないつもり。』
『ホント?』
可愛いんだけどめんどくさいのが萌絵の困ったところだ。
二組でのwデートなら萌絵も問題ないだろうと思っていたら、意外な人物から同行したいという申し出があった。
『こんにちは。』
日曜日、康太の家に行った。
文化祭以降、土曜日は萌絵に会うが日曜日には康太と会う約束になっていた。
康太の母、康子からも出来るだけ康太に会ってあげてと言われている。
『いつもすみません、ウチは父親が居なくて。』
康太の家は母子家庭だと康子が漏らした。
『中学に行って野球をやるのは反対では無いんですが、親も毎週駆り出されるらしくて負担が大きいんです。ウチは父親が居ないので康太が寂しい思いをしないか心配で。』
『あの、失礼ですけど康太くんはおとうさんに男らしくしろって言われていると聞いたんですが?』
初めて康太に会った時に康太はそう言っていた。
『はい、康太の父親が暴力を振るうので離婚したんですが康太とはたまに会っているんです。父親が野球好きで康太にも野球をやらせたいとグローブとか買ってくれたり中学で野球をやるのを楽しみにしている様なんです。』
たぶん、康太の事だから父親に会う度に着る服とかが女の子っぽくなって父親から男らしくしろと言われたのだろう。
母親の康子にすると野球は康太と父親との唯一のつながりの様なものなので複雑な気持ちらしい。
ただ、康太と知香が出会った事で康太の気持ちもだいぶ変化をしている様なのだ。
『康太にはいつも不自由な思いをさせているし小学校の最後くらい慕っている知香さんにお願い出来ればありがたいと思うのですが。』
その様な事情であれば康太は連れて行きたいのだが、そうなると問題は萌絵である。
独占欲の強い萌絵にへそを曲げられると面倒だし、萌絵は知香以外の男性は苦手にしている。
月曜日の昼休みに改めて萌絵に康太も連れて行きたいという話をしてみた。
『良いよ、そういう事なら。その子、知香と同じ[男の娘]なんでしょ?』
萌絵は女の子では無く男の娘が好きなんだろうか?
文化祭では少しだけ顔を合わせているがいずみも連れていたので気に留めていなかったのかもしれない。
『それで、その子は男の子として行くの?それとも女の子で行くの?』
(やっぱり気になるのはそっちなんだ。)
康太は女の子の服を持っていない。
文化祭の時は知香の服を貸したけれど冬の長野は寒い。
知香自身、コートは一着しか持っていないので康太に貸す事は出来ないのだ。
『私のコート、着て貰っても良いよ。なんだったら他の服も。』
ロリータ服が好きな萌絵は衣装持ちだが少々偏りがある。
『それは助かるよ。でも、大丈夫かな?』
『じゃあ今週は土曜日じゃなく日曜日にウチに連れて来てよ。』
萌絵は人に可愛い服を着せるのが好きなんだろうか、こういう時は普段に無い積極さが出る。
でも普段萌絵と会っている土曜日じゃ無く日曜日なのは何故だろう?
『ホントですか?萌絵さんって服飾部で知香さんの服を作った方ですよね。』
康太の方は萌絵の事を良く覚えていた。
『こうちゃんはロリータみたいな可愛い服好きかな?』
『はい、大好きです。着た事無いけど……。』
もしかしたら二人は気が合うかもしれない。




