スキャンダル②
『家に直接来たの?まさか、入れてないわよね?』
受話器の向こうで木田先生が聞いた。
『大丈夫です。母が帰って来たらまた来る様です。』
『危ない事になりそうだったら直ぐに連絡してね。』
木田先生も学年主任の黒木らに連絡を取って緊急時に備える事にした。
由美子が帰宅して直ぐに遠井がインターフォンを鳴らしてきた。
由美子は警戒しながら遠井を居間に上げた。
『本来は記事を掲載する前にご挨拶をしなければならないのですが、申し訳ございませんでした。』
遠井は駅前の洋菓子屋で買った土産を出して謝った。
『なぜ、雑誌に出した後に挨拶に来たのですか?』
普通、こういう雑誌は勝手に記事を書いて後からクレームを言われてものらりくらり逃げ回るものだと思っていた。
『実は、記事の内容があまりに出来過ぎているとの指摘を多く戴いてしまいまして。』
本人はうんちなのにスポーツ万能とか書かれたらそりゃ出来過ぎだと思う。
『しかし、文化祭に潜入したらあんなに人が集まっているので、本人にしっかり取材をして真実である事を伝えなければならないと思ったんです。』
『ねぇ、ともちゃん。文化祭で何があったの?ていうより何で言ってくれなかったの?』
忙しく過ぎて由美子には言いそびれていたのだ。
『ごめん。いろいろありすぎて……。』
『分かりました。遠井さん、文化祭で何があったか詳細を記事に書いて下されば許します。』
『ちょっと、おかあさん!』
まさかの展開に知香も遠井も驚いている。
『……明日学校にも許可を戴きに参りますので、いちおうそれからで……。』
また由美子の暴走が始まった。
翌朝、遠井は学校に行き、許可を得るため学年主任の黒木先生と面談した。
知香も同席している。
『おうちでその様に言われるのなら学校として断るわけにはいきませんね。』
黒木先生も許可せざるを得なかった。
『すみません、お世話になります。』
遠井が丁重に挨拶する。
『ところで前回の記事なんですが、情報を提供された方を教えて戴けますか?』
[学校関係者]や[ある保護者]を洗い出さねば今後も同じ様な状況になりかねないので釘を刺さねばならない。
『……そ、それは……表に出さないとの約束でして……。』
『それでは生徒の安全を守る事は出来ないので許可はしかねますね。』
黒木も教師としての責任がある。
『……分かりました。こちらから漏らしたと言わなければ……。』
『後、今後の記事についても匿名の人物は出さない事。発行前に内容をチェックさせて下さい。』
『それはお約束致します。』
だいぶ遠井が折れて、知香の記事の第二弾の許可が下りた。
遠井によると、最初に情報を提供したのは知香も知っているあの人物だったが、黒木は[知香は一切聞いていない]事にして黙っている様に言われた。
『テレビの撮影が終わったら今度は雑誌とか、忙しいね。』
ありさが他人事の様に言った。
『ありちゃんがあんな事するから騒ぎが大きくなったんだけどな。』
文化祭で騒ぎを大きくしたのはありさの仕業だ。
『そう言っている割にともちって動じないよね。』
『もう……。』
取材は小田のテレビ撮影と同じ様に取材に応じれる生徒には親の承諾書を貰う事となり、小学生の康太にも条件付きで取材に協力して貰った。
康太も性同一性障害の可能性が高いので内容次第では康太自身も取材対象になってしまうからだったが、文化祭では知香は女装した康太を連れて回っていたので取材せざるを得なかった。
『ごめんね、騒ぎに巻き込んじゃって。』
『上田康太さんの写真は後ろ向きのものしか使いませんから。』
知香以外の写真には目線を入れるが康太は正面の写真は使わない。
しかし、知香に関しては素顔を晒す事で合意した。
読者からの要望もあったらしいが由美子からも出して構わないと言われていたのである。
『折角の可愛い顔に目線なんて入れないで欲しい』らしい。
かくして、[LGBT女子中学生第二弾!校内一の人気者の素顔]と題されて雑誌は発売された。
『[孤立していた障害を持つ上級生の車イスを押して登校し、クラスメイトとの仲を取り持った]だって。私たちも載ってる!』
『ともち以外はみんな目線入ってるけどね。』
『この後ろ姿の小さい子、私の妹だよ。』
康太と一緒に知香と行動していたいずみの後ろ姿も写っていて、のぞみが興奮して言った。
この写真だけ見れば腕章を着けた生徒会の役員が小学生の女の子二人を案内している様にしか見えない。
文化祭の写真の他にも学級委員会で書記として奮闘している知香の写真とかも載っている。
『よしよし、ちゃんと生徒会の仕事頑張っているみたいじゃん。』
雪菜は普段は目にしない生徒会での知香の写真を珍しく感じる。
『ウチのクラスは学級委員がすぐ暴走するから見張っていないとダメなんだよ。』
知香は半分冗談でありさを牽制したが、この写真を撮られた時は別の出席者が悔しそうな顔をしていたのを忘れる事は無かった。




