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東京パンドラアーツ  作者: 亜武北つづり
異界化区画攻略作戦
160/171

チマミレランナーズハイ

社会人になる前最後の更新です!

これからも更新は続けていくよ!読んでくれてる人がいる限りは!ちなみにこれは遺言です!じゃあな!


あと途中一箇所読まなくていいところあります。見たらわかると思う。

 ミオの配下の生徒たちが宙を舞う。

 同時、僕の配下の生徒たちが地べたに叩きつけられた。


「ゔっ……が、ぁっ……!」

「はか、なみっ……お前、俺たちごとっ……!?」

「ん? うん。ごめんね」


 ミオとの剣戟は三十九合にも及んだ。近未来戦闘予知で軌道を見切り、可能な限りの蓄積を試みた。

 その分の衝撃をそのまま三日斬月として撃ち出したら、この試験のルールである非殺を破ってしまう。それを避けるために、あえて力を収束しなかったのだ。


 そのせいで指方向性が失われ、味方を巻き込まざるを得なかった。

 なんて、はは。不本意でも何でもないんだけどさ。


「……この……クズが……」

「…………」


 黒崎と伊庭が気絶した。

 まぁ、どうでもいい。それよりも、だ。


「……ぐ、が……」


 立ち上がろうとして僕は失敗した。その場に血塊を吐き散らす。目や耳からも血が滴り、小ぶりな血の海がどぷりと広がる。

 心月は自分の体内で無茶なベクトルの変化を連続して行うため、肉体への負担が著しく大きい。おかけで骨は折れてるわ内臓は破れてるわ。ああクソ、痛いったらありゃしないな。


 とはいえ再生を使うわけにもいかないので、反動が過ぎ去るまでじっと耐え忍ぶ。

 今のでミオも落ちてくれてたら楽なんだが……


「辛そうですね、先輩?」


 ミオは折れた木の残骸に腰掛けて、にこにことこちらを見下ろしていた。手には僕が取り落とした軍刀を持っている。

 見る限り傷一つない。ピンピンしてる。まぁそうだろうとは思ってたけどさぁ……。


「……は、このクソアマが。人が辛そうなの見て喜ぶなんて趣味悪いったらないな」

「先輩、ミオを頼らないんですか? いいですよ、治してあげます。ミオは健気な後輩ですから」

「心底気持ち悪いから巣に帰れカス。敵の僕なんかに構うより、お仲間を治してやったらどうなんだよ」


 絶対にやらないと知っていながら会話を繋ぐ。

 少し時間を稼いだ程度で変わるとも思えないが……せめて立てるようになるまでは。


「あはは。分かりきった質問をするなんて、先輩の方こそ趣味悪いですよ。ミオの魔法はトキワ先生から受け継いだものです。こんなゴミ共に使ってあげるなんて、考えただけでもゾッとしちゃうな」


 ミオはそう言って、足元の生徒の体をドカッと蹴飛ばす。すると生徒の体が光に包まれて消えた。今ので端末が体から離れたらしい。敗退判定で教官が転移させたのだろう。

 打ち上がって落ちてきた端末を、ミオは人差し指を一本立てて器用にキャッチした。そのままクルクルと回転させて、懐に仕舞う。


「そんなこと言うなら、先輩は【死線】の戦闘技術をこんな奴らに教えてあげる気になるんですか?」

「……そうだな。悪かったよ」

「人を嫌な気持ちにさせるのはだめなことですよ。ちゃんと反省してくださいね」


 今すぐこいつだけ死ぬ奇病とか流行らねえかなぁ。


「でもそんないらない駒でも先輩にそれなりのダメージを入れられたんだからよしとしてあげます。おまけに武器も奪えちゃった。あは、ミオったら買い物上手ぅ」

「言ってろよ。この程度で勝った気でいるなら、お前に僕は倒せない」

「うふふ。絶対に折れないその姿、とっても素敵だと思います」


 でも、と言葉が切れた。

 僕は倒れ込むように横に転がて、すんでのところで無音の斬撃を躱した。

 【バラバラ】。警戒は緩めていなかったから、決して避けられないようなものではなかった、が。


「っ……」

「ほら、そんなのも避けられない。ねえ先輩、そんな体たらくでミオに勝てるつもりです? 本当に?」


 ……やられたのは左の足。だが、腱はやられていない。太い血管も外れている。

 大丈夫だ。運はこちらにある。大丈夫。

 僕はゆっくりと立ち上がり、へらへらと笑った。


「……さあて、ね。蓋を開けてのお楽しみかな」

「そうですか。じゃ、とりあえずこれは没収です」


 ミオは容赦なく僕の軍刀をへし折った。

 そしてドクドク、と呟く。身体強化の魔法。

戦闘が日常的な人間特有の適当さでこちらに突っ込んできた。


 アリスの、シグレの、トキワの、そしてミオの――全てが僕の知っている誰かの面影を宿していて、けれど僕にとって未知の動き。

 自らの戦闘法を捨ててそれを使う意味は、きっと予知への対策だけが理由じゃない。


 僕は徒手空拳で迎え撃つ。バラバラ、ズタズタ、バラバラ、ズタズタ。飛んでくるそれらを弾く、躱す、回避、回避、回避――けれど反撃の機会はまるで皆無だ。リーチの差を一方的に押し付けられている。


「あははは! ハルカ先輩、鋼糸はどこに置いて来たんですか!? あれないとミオには勝てませんよぉ!」

「チッ……!」


 認めるのも癪だが、ミオが理想的に動く限り何も出来ずに削り殺されるのは確かだ。

 僕は舌打ちと共に短いステップを連続で切り、意図的に残像を発生させた。


 少しでも惑えば格闘戦に持ち込める。【バラバラ】の全方位斬撃に甘えれば、ダメージ覚悟で突破して懐に潜り込める。

 ……しかし。


「こうですか? ――近未来戦闘予知」


 明らかにこちらに気付いていなかったミオが、ぐるんとこちらへ振り向いた。

 急遽踏み込みをキャンセル。咄嗟に後ろへ跳躍して事なきを得る。眼球の僅か数センチ先を鋭利な刃が駆け抜けていった。

 今のは……


「……知らなかったよ。お前天才だったんだな」

「違いますよう。あー痛った……これ無理、無理です。頭痛すぎまじやみリスカしよ……先輩よくこんなの使えますね」

「僕より使いこなしている美少女を一人知っているんでね」


 ……今の後退に追撃を合わせない辺り、嘘を言っているわけではなさそうだ。九死に一生だな。

 仮にミオが予知を使えるのならもう勝ち目は皆無だ。ビックリ技で殺すしかない相手が未来予知してくるとかどうしろと。


 とはいえ限定的には使えるようなので、復元の前にまず予知を封じないといけない。

 ああもう、やることが多い……!


 僕は鈍い体を引きずって、それでも大鎌が織り成す絶死圏へ突撃を敢行する。

 直感と反射神経で斬撃再現(バラバラ)をやり過ごし、経験と技術で無限斬撃(ズタズタ)を捌き、虚をつく擬似転移(チクタク)に記憶と予測で追い縋り、ミオを崩す機会を必死に探る。


 ミオの戦い方は目の前にあるものをひたすら崩していくというもの。決して読み合いで勝負をしようとしない。

 それは奴の本分が医者であり、戦闘屋でないからだ。僕が勝る部分に抗おうとせず、代わりに僕の強みを発揮しないようにしている。


 そして、それは正しい。

 コイツの身体強化と復元魔法なら、変に考えるよりも反射で動いた方がよほど強い。


 ……ミオを倒すための策はある。

 理不尽な相手を葬る常套手段だ。

 相手が勝負所だと思っていない場所で勝負を仕掛け、そのまま一本道に引き込んでハメ殺す。


 しかし、その勝負所に至るまでの道筋は自力で作り上げるしかない。

 ただの戦闘技術と身体能力で、この空間復元という魔法を打ち破る必要がある。


 当初の予定では刀擲術で崩すつもりだった。刀を失った今、何か代わりの手段を……


「――はっ」


 なぁ、僕は馬鹿か?

 何を相手の土俵で戦っている。

 お前のような雑魚が、一体何をやっている?


 考えずとも分かる。このままでは負ける。そもそも実力が拮抗、ないし劣っているのだ。体力にハンデを負っている以上、こんな綱渡りじみた攻防はもう保たない。

 そう。駄目なのが分かっているなら、やるべきことはいつだって一つに決まっている。


 ミオの大鎌が翻る。

 真上からの振り下ろし。

 ああ、ちょうどいい。


 へらへらと笑って、足を一歩前へと踏み出した。

 蒼く輝く狂気へと、体を差し出すかの如く。


 僕は大鎌を受け入れた。


「さぁ、廻れ」


 人体から生じたと思えないような音が響いた。

 首が折れる寸前までへし曲がる。

 頭がザックリと抉れた。

 頭蓋骨にびしりとヒビが入る。

 噴水のように吐き出された血が僕とミオを汚し尽くした。


 心月の術理、咲良崎の技術で可能な限りの衝撃を受け流した。

 当然、とても流し切れなかった。


 受け取った衝撃が頭蓋の中をピンボールのように跳ね回っている。

 脳味噌がぐちゃぐちゃに掻き乱されて、視界と思考が真っ白に染め上げられる。


 ――それで良かった。

 即死さえしなければ、それで。


 ――それが良かった。

 だって、それが欲しかったのだ。


 芯まで届く痛み、衝撃。脳味噌が強制的にリブートされる。

 失った血液を埋めるように意思の力が充溢、暴走。赴くままに目をカッ開いた。


 アクセル、アクセル、フルアクセル――脳からの指令のフリした絶叫が体を支配している。

 止まった世界の中で、巡りに巡った感情と理性が僕を構成する。頭から余分が失われてクリアに。そうして為すべきことを明確に、端的に、ハッキリと教えてくれた。


 この目の前に敵を、何としてでも殺せと。


「――あはァ」


 ミオの魔法。現象は時間遡行。復元による疑似的なもの。記憶や意識の同調は可能な様子。秒数制限は詳細不明なため戦略から除外。高次魔法のため魔法名の封印は効果有り。以前の自分を復元することで治せない損傷を選定。ではどうやってその状況を作り出す?

 反射行動は健在。ミオは読みを行わない。ならば誘発は可能と判断、予知の処理もそこで行う。加えてこの試験のルールと周りに倒れている有象無象。これだけ復元を使えばミオの正体は割れているはず。併せれば間違いなく致命傷になる。

 

 これまでの戦闘でかき集めた勝ち筋が音を立てて組み上がっていく。

 あぁ、僕は馬鹿だなぁ。何でこんな簡単なことに悩んでいたのだろう。


 その代わり傷は深い。心月のダメージ、今の斬撃。もう倒れる寸前だ。満足に動けるのはアドレナリンが切れるまでのおよそ数分。

 ――問題ない。どのみち初見殺しのハメ技だ。一度目で通らなければ死ぬだけ。ならば覚悟を決めるだけだ。


 さぁ、この長かった期末試験も終わりにしよう。

挿絵(By みてみん)

以前からお世話になっている藍染三月様にいただいた憂姫のイラストです!

髪フェチとして最高なものをいただきました!最高や!かっこいいし可愛いし白コートに銀髪紅目ってのがやっぱね!好きです!嬉しいね!嬉しいね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 技名相も変わらずかっこいい・・・! 技名の前に○○式とか○○流とかってつくのいいですよね(*´Д`) そのうえ合成戦式、かっこよすぎて命名センスがうらやましい・・・ それにしてもミオちゃん…
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