期末試験3/5 a
リハのビリ。
ポイントと感想ありがとうございます。
サバイバル試験三日目。
昨日と同じく焚き火の跡を囲み、野戦食の朝食を済ませながら一日の方針について話し合う。
「今日で折り返し地点だ。そろそろ俺達も端末の奪い合いに参加したい。伊庭、物資の余裕はどんな感じだ?」
「少なく見積もっても今日一日分は保つと思う。昨日はあれから戦わなかったから……」
「儚廻。お前はどう思う?」
「……あ? ああ、うん。やっぱりこのお肉はちょっと味付けが濃すぎると思う」
「何の話をしているんだよ……おい、話聞いてなかっただろ」
「はは……」
空々しくへらへら笑いながら、それでも思考に没頭することをやめない。内容はもちろんミオのことだ。
アイツと戦う――それだけでも頭が痛いというのに、更に支配下にある部隊が大勢いて、その総数は膨大ということ以外一切不明。
翻って僕は鋼糸がなく、これを見てるであろう教官連中から適度に力を隠さなければならないと、面倒な条件が山盛りである。
昨日は三人だけだから簡単だった。恐らく六人くらいまでなら何とかなると思う。しかしあれ以上、例えば十人とかが一斉に襲ってきたらひとたまりもない。
そうならないようにこっちもある程度人数を揃えたいところだが……うーん。
……そういえば、黒崎と伊庭はどうして支配下に置かれていないんだろう?
同じクラスでこの程度の実力、ミオなら通りすがりにでも魔法を掛けそうなものだが……。
「……それと儚廻、お前意外と戦えるんだな。昨日の戦闘、春の定期試験の時とは別人みたいな動きだった」
「あっ、それ私も思った。すごかったよね。E評価って、そんなに私たちと違わないんだなって」
「……ああ、うん。まぁ、最近汐霧に鍛えて貰っ……」
待て……汐霧?
「ねえ二人とも。確認するけど、二人って最近汐霧と仲良かったよね?」
「あ、ああ。確かにいろいろと教えてもらっているが……それが?」
「ここ一週間で汐霧に何かされた? 魔法的な意味でさ」
「魔法的? いや……覚えはないが」
「あっ、ううん待って黒崎くん。あった、あったよ。ほら、昨日の筆記試験が終わったあと」
「あ? ……ああ、そういえば確かに。と言っても、直接魔力を流し込まれただけだぞ」
ビンゴ。それだ。
恐らく汐霧とミオの実力はトントンか、若干汐霧が上回る。
だから汐霧ならミオの魔法に気付けるはずだし、気付いた以上優しい彼女ならディスペルもしてあげるだろう。だからこの二人はミオの支配下になかったんだ。
……それが分かったところで、どうしようか。
そもそもミオを倒す必要はあるのか? 僕の目的はいい順位を取って留年を回避することで、恐らく上位五人の中に入れれば十分なはず。
でもミオ……多分仕掛けてくるよな……。なんか僕が目的で学院に来たみたいなこと言ってたもんな……。
「ね、そういえば儚廻くんって汐霧さんと一緒に住んでるんだよね? もしかして付き合ってたりとか」
「は? ……ああ、雑談ね。いいや、違うよ。アイツ春の事件で家なくしたでしょ? 知り合いのよしみで家を貸してるだけ」
「でもあの汐霧さんが自分から部隊に誘ったんでしょ? それも二人っきりで。春の頃に比べてすごい仲良くなってるし絶対脈あると思うんだけどなあ」
「超絶マイナスだったのがニュートラルになったからそう見えるだけじゃないかな。というかお前、急に遠慮なくなったね……」
「えー、だって気になるもん」
「うんうん、ミオもその辺気になるなぁ。教えてよ先輩」
抜刀。
即座に一閃を放つ。
しかしミオは伊庭を盾にして突き飛ばし、軽やかに後ろにステップする。
「チッ……」
まさかこんな人目のある場所で伊庭ごとぶった斬るわけにもいかない。斬撃を中断し、つんのめって倒れ込む伊庭を黒崎にパス。入れ替わるように前に出る。
突出した僕は刀を、ミオは大鎌を振るう。瞬間的に五つの火花が散り、拮抗。鍔迫り合いの形に持ち込まれた。
「いつからこの場所に気付いていた」
「昨日の深夜です。夜通し駒を走らせてやっと見つけたんですよ?」
褒めてください。
零距離で向けられる歪んだ笑みと共にミオが大鎌に力を込める。
身体強化の魔法による並外れた膂力。純粋な力比べでは万に一つの勝ち目もない。
僕は本格的に力を掛けられる前に軍刀を強振し、力の流れを逸らして鍔迫り合いを解除する。更に足元の焚き火の残骸をミオの顔へと蹴り上げるが、危なげなく大鎌に弾かれた。
近接戦は身体能力の差で不利だが、魔法戦では勝負にすらならない。さて、どうする?
「もう先輩、ひどいなぁ。あなたを慕う女の子をこんなに邪険にして」
「は、自分で言ったことを忘れるなよ。お前の先輩はとっくの昔に死んだんじゃなかったのか?」
「ええ。でもミオ、諦めるなんて一言も言ってないですよ。学生の先輩を殺して叢雲の先輩を生き返らせるだけです。だって死んだなら生き返らせればいいんですから。……ねえ先輩、これって誰が教えてくれたことでしたっけ?」
「……」
わざとらしく聞いてくるミオ。……確かにその考え方を教え聞かせたことはあったかもしれない。
だがまさか、未だにそれを覚えていて、更に実践までしてくるとは。恨むぞ昔の僕よ。
「だからまぁ、とりあえず手足すっ飛ばして達磨にしてから、ミオのお家で二年くらい洗脳漬けにしようかなって。ね、同棲生活です。いいでしょ?」
「お断りだクソアマ。前も言ったがお前みたいなブサイクに用はない」
「あはは。ひどい、ひどいなぁ。えーん、えーん。 ……あ、そこの二人慰めて」
光を灯した手のひらが向いた伊庭と黒崎の方を向く。
恐らく精神に作用する類の魔法。魔法的な防御手段を持たない僕に止める術はない、ので。
「【ショット】!」
「なっ!?」「きゃあっ!?」
代わりに、僕が先に魔法を叩き込むことにした。
足元に着弾した魔法弾により、二人は数メートル吹き飛ぶ。直後彼らのいた空間を蒼色の魔力光が貫いていった。
位置関係のおかげで何とか間に合ったが、そんなのは運が良かっただけだ。次も確実に守れるかはかなり怪しい。
とはいえここでアイツらを見捨てたら僕が考えていた計画もパァだ。そうなれば『勝つ』ことはもはや不可能と言っていいだろう。
更に、ミオ以外にも数遠くの気配が森の中から近づいてくる感じる。駒と呼ばれていたミオの支配下にある学生連中に違いない。
あのクソアマを相手にしながら、何人いるかも分からない大部隊を同時に迎撃する――当然ながら絶対に無理だ。二人を守るどころか自分一人逃げ延びることすら危うい。
奇跡的に逃げられたとしても、今僕はミオの接近を感知できなかった。
それが指し示すのは簡単、この制限状態の感覚ではミオの隠密魔法に届かないということ。追われてまた奇襲を掛けられるだけだ。
「さぁ先輩、追い詰めましたよ。ミオの勝ちです。諦めてらぶらぶ一緒に帰りましょうね」
「…………」
ミオの言う通り、状況は詰みに近い。
それでも何かないかと僕は必死に思考を巡らせて……しかし何も見つからなかった。
だから、代わりに決意した。
――時計の針を一つ早める。
「断る。僕には帰る家があるんだ」
限定解放。
力が廻る。
僕は全力で地面を踏み蹴った。
後方で地面が爆ぜる音。
静止画に切り替わる視界。
肉体が超音速まで加速した、その特有の感覚だ。
ミオの勝ち誇った顔がよく見える。
彼我の距離を一瞬で征服した僕は、軍刀を抜き放った。
「……えっ?」
「一閃」
多分タイトル期末試験編終わったら整理します。
いつものab方式がやっぱり一番。