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東京パンドラアーツ  作者: 亜武北つづり
異界化区画攻略作戦
153/171

期末試験2.5/5

期末試験にそんな話数使う気はないです。念のため。

 サバイバル試験二日目。

 日の出と同時に僕は目を覚ます。


 ああ……よく寝た。

 そうだ、捕まえた二人はどうしてるだろう。

 今の今まで僕が目を覚さなかったということは、あれから彼らが一度も僕を襲わなかった……つまりはずっと伸びていたんだろうけど。


 様子を見に行くと、案の定二人は僕が転がした時の姿のまま気絶していた。

 起こすとして喉潰しとく必要は……ないか。ないな。


「起きて二人とも。朝だよー」


 女の子から奪った拳銃でペチペチとふたりの頭を交互に叩く。暴発したら、うん。その時はその時で。

 五往復もすると先に黒崎が目を覚ました。女の子……伊庭はまだ寝たままだ。黒崎の方がダメージが少なかったからかな。

 そんな彼らを見下ろして、僕はへらへらと笑った。


「はは、おはよう。よく眠れた?」

「……こ、ここは……」

「僕の寝床だよ。あれ、二人とも昨日のこと覚えてない?」

「昨日……あっ! た、端末!」


 黒崎は慌てた様子で大腿を押さえる。端末を取り出し、無事であることを確認して安堵したような溜息。

 そして次に隣に転がっている伊庭に気付き、転がるようにして駆け寄った。


「い、伊庭……! おい、無事か!?」

「いや見りゃ分かるじゃん……ああ、骨もちゃんと寝てる間に嵌め込んだいたから安心していいよ」

「伊庭っ! 伊庭ぁ……!」

「…………」


 無視は……悲しくなるからやめて欲しいなぁ……。

 しかしそんな黒崎の想いが通じたのか、伊庭の目蓋が震えながら持ち上がった。わぁ、愛の奇跡だ! ヒャッホウ!


「……ん、う。黒崎くん……?」

「気が付いたか! 大丈夫か!? 痛むところはないか!?」

「う、うん……大丈夫。右手がちょっと痛いけど……それだけ」

「良かった……!」

「…………」


 ……メロドラマやってるんじゃないんだからさぁ……。

 呆れた目で見ていると、二人の目がようやくこちらに向いた。ああ、ようやく話を先に進められる……。


「……儚廻。お前、どうして俺達の端末を取らなかった」

「うーん。なんとなく?」

「ふざけてるのか?」

「さあね〜。まぁ、お前達もその方が嬉しいでしょ? 運が良かったって喜んでおきなよ」

「……まさかお前みたいな奴に負けた上、情けを掛けられるなんてな……」

「お、落ち着いて黒崎くん。今の私たちじゃ……」

「分かってる。クソッ」


 はは、立派なプライドをお持ちなようで。

 僕はそんなもの持ってないから、ちょっとだけ羨ましいな。


「話はまとまった? じゃあ二人の武器を返すね。PDWとアサルトライフル。あ、弾薬ネコババとかしてないよ」

「……いいのかよ? 言っとくが俺達がお前程度に負けたのは」

「自分達が消耗してたからでしょ? 分かってる分かってる。万全だったら僕なんかに勝ち目があるわけないじゃない」


 罠にかからず、昼間に、万全の状態で、よーいドンで、こうした試験の場だったら。どうだろう、そしたら流石に負けるのかな。

 はは、まぁどうでもいいや。


「ヘラヘラするな、苛つく。分かってるならどうしてだ?」

「そんなお強い二人だからこそ僕に協力してくれたら嬉しいなってね。ほら、知っての通り僕は落ちこぼれだから。組んでくれる人なんて見つかりそうになくてさ」

「……借りを返せって言いたいのか?」

「そう悪い提案じゃないと思うけどな。どう?」


 聞いてみるが、コイツらに他の選択肢はないだろう。消耗した状態で生き残れるだけの実力もなさそうだし。

 その程度の自己分析すら出来ないなら……うん、流石にいらないな。


「黒崎くん……」

「……業腹だが仕方ない。儚廻、お前についてやる」

「はは、ありがとう。心強いよ」


 手を差し出すも無視された。ハカナミ菌は今日も健在のようだ。

 よし、じゃあ朝ご飯にしよう。


 二人も自分達の分の食糧は持っていたらしく、焚火の跡を囲んで缶詰を開ける。

 ……魚か。うげェ……。


「じゃあまずは自己紹介といこうか。僕は儚廻遥。武器はこの軍刀と拳銃だよ。あ、でも銃術はヘタクソだからあんまり期待しないでね」

「……お前に期待する奴なんか俺たちの学年には一人もいねえよ。馴れ合うつもりはない。俺は黒崎でいい」

「く、黒崎くん……あ、私は伊庭。伊庭百合子です。……え、えっと、よろしく」

「はは、了解。黒崎と伊庭ね。あれ、どこかで聞いた名前のような……?」

「クラスメイトの名前だろうが……」


 苛立たしげに言う黒崎だが、確かそれ以外にどこかで……あ。


「そうだ、汐霧から聞いたんだ。二人は付き合ってるんだって?」

「……チッ。それがなんだよ」

「別に? わざわざコンビ組むなんて熱々だなって思っただけ」

「おい……お前、さっきから煽ってんのか? この金魚のフン野郎が」


 うーん、怒らせちゃったか。コミュニケーションって難しいなぁ。

 掴みかからんばかりの黒崎を伊庭が宥めてくれる。コイツはコイツでいつ端末取られるか気が気でないって感じだな。

 はは、そのつもりならもうとっくにやってるって、それくらい分かりそうなものだけど。


「それじゃ、これからの方針について話し合おう。僕は戦闘を避けつつ物資、特に簡易テントを探そうと思ってたんだけど、どうかな?」

「はっ、馬鹿かお前。物資なんか探しても見つかるわけないだろ」

「そうなの? 昨日はいっぱい見つかったよ?」

「マジで分かってないのかよ……そんなのは初日だけに決まってる。この試験の前提を考えれば分かるだろうが」

「ふむ。前提」


 サバイバル訓練式の試験。

 戦闘を想定したアウターでの自立行動。

 へぇ、知らなかったな。それだけじゃないのか。


「……こ、この試験の評価は撃破人数と生存時間で決まるよね。今回は前者が重視されてて、同じ撃破人数の人たちを選り分けるための生存時間ってことになってるの」

「へぇ。そうなんだ」

「テスト準備期間にちょっと調べりゃ分かることだ。儚廻、お前まさか試験対策何もやって来てないんじゃないだろうな」

「あはは。バレちゃったかぁ」

「……っ!!」

「お、抑えて黒崎くん。それでね、そうやって戦闘を重く見るなら生徒同士を戦わせる仕組みが必要になるでしょ?」

「あ、そういうこと。物資の数を絞って争わせようって魂胆か」


 取りに行かないというのも一つの選択肢だが、そうすると後々不利を負うことになる。主に弾薬や食糧の面で。

 前者は戦闘面で必須だし、後者もほぼ必須だ。僕や梶浦みたいにアウターでの作戦行動に慣れていれば三日四日程度は何も食べなくても何とかなるが……ここにいるのは春にライセンスを取得したばかりの学生、そしてフィールドはただでさえ周囲が敵だらけの野外だ。


 一日食べないだけでも多大なストレスとなる。そんなリスキーなものを抱えて戦いたい奴がいるはずもない。


「ということは……結構分かりやすい形で物資は撒かれるのかな? じゃないと激戦区にならないもんね」

「そのはずだ。……お前、理解力は意外とあるんだな」

「そう? ありがとう。ついでに物資の残量について共有しておくよ?僕は食糧が今日一日分、水は飲用に限っても今日の夜には尽きるかな。銃弾は予備マガジン二個、研磨剤は四回分。二人は?」

「……俺達もそう変わらない。それよりいくらか少ないと思ってくれ」

「なら僕たちも物資は無視できないか。それじゃひとまず撒かれるまで待機ってことで」


 テントを探しつつ、と付け加えながら空になった缶詰を背嚢に仕舞う。

 演習場でのポイ捨ては厳禁。もしやらかせば教官に顔の形が変わるまでボコられるというのがこの学院の鉄の掟である。


 と、伊庭が不安そうに口を開く。


「……私たち以外にも結託して動いている連中は多い、と言うよりほぼ全員がそうだよね……」

「だろうな。あまり多いと手柄や物資の食い合いが起こるから……多くてもせいぜい分隊規模だと思うが」

「あ、そういえば聞きたかったんだけどさ。二人は昨日何があったの?」


 誰かに負けて逃げて来た――それは間違いないとしても、じゃあ誰に? 何人で? どのような状況で? 具体的な事の流れは?

 その辺明らかにしといた方がいいだろう。この試験、よほど深傷(ふかで)を負わない限りは勝てば勝つほど有利になるように出来ているからな。今後障害となる可能性大アリだ。


「……分からない。伊庭と合流した直後に徒党を組んで襲われた。少なくとも三人……逃げ回っている間に夜になって、それで……」

「僕を見つけた、と。なるほどね。それにしても三人か……」


 そういえばやたら早い段階で僕を襲ってきたのも三人組だった。

 偶然? いや、流石に早計か。これだけじゃ何とも言えないな。


「ていうかさ、それ、本当にちゃんと撒けたの? 泳がされてる可能性は?」

「……否定はしない」

「で、でも、もしそうだったらとっくに襲われてるんじゃないかな。だって、そんなことする意味ってないよね……?」

「まぁ……そっか。そうだね。ごめんね、変なこと言って」


 確かにそんな器用なな真似が出来るような生徒はこの試験に参加してないはずだ。うん、杞憂だろう。

 と、その時懐の端末が震えた。取り出して確認すると滅茶苦茶な文字の羅列……ああ、位置情報の暗号通信かこれ。それがいくつもいくつも表示されている。


「これは……」

「おい、空を見ろ!」


 黒崎の声につられて顔を上げると、上空を旋回する数機のヘリコプターが目に入る。

 またこれはパンドラアーツの視力で分かったことだが、乗っているのは教官達だ。パラシュートの付いたコンテナを規則的に投下しているらしい。


 投下地点は……端末に表示されている位置情報と同じ。ってことは、あれが物資か。


「……一つ、ここから近くに落ちてくるみたいだね。黒崎くん、どうしよう」

「行くしかないだろ。もしかしたら他の連中が集まってくる前に回収できるかもしれない」

「ごめん僕トイレ」


 僕はすんげえ白い眼を向けられた。

 いや、だって……ねえ?

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! ユウヒちゃんとハルカの掛け合いは相変わらず面白いですね。 藍染さんもなかなかどうしてキャラが濃い・・・ ハルカがたまにかますギャグ好きです。前後の流れもあって笑ってしま…
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