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東京パンドラアーツ  作者: 亜武北つづり
だけど死ぬのは私じゃない
126/171

血塗れ女の清算と始発

◇◆◇◆◇



 そうして。

 長い、長い、長い長い長い時間が経った。


 こびりついた死臭と血の跡。

 その中心で瞑目するワタシ。

 それだけがこの部屋の全てだった。


「ごちそうさまでした」


 手を合わせる。

 腹を撫でる。

 その内側で渦巻く魔力と禍力を感じる。


 死体の山は、もうない。

 どころか死体の一つだって残っていない。

 みんなワタシが平らげたから。


「……っ」


 ズキ、と頭が痛む。

 明らかに何かが変質している。

 でもその何かが分からない。全部が最初からそうだったようにしか思えない。


 ただ、一つだけ分かったことがある。

 あの死体の山の中で()は死んだ。仮にも姉が妹達を喰って生きながらえるなどあり得ない。あっていいはずがない。


 今ここにいるのは一匹のバケモノ。

 プロジェクトピクシスが轢き潰してきた少女達の集合体。

 膨大な数の捕食により増幅した禍力は、再生力、身体能力、そして魔力を未知の段階へと押し上げていた。


 さあ、出発の時だ。

 ワタシは立ち上がり、口ずさむ。


「【カミカゼ】」


 自爆魔法。以前のものとは比べ物にならない爆轟が炸裂し、扉を跡形もなく吹き飛ばす。

 無論ワタシも無事では済まず、肉塊になって部屋中に散らばるが、一秒後には再生が完了している。


 少し遅れて警報音が鳴り響く中、ワタシは部屋を出る。

 あの子がどこにいるかは分からない。だが、あの女研究者なら知っているだろう。


 聞き出して、その後思い知らせてやる。

 ワタシ達の憎悪と殺意を。


 エレベーターは何故か止まっていたので、その横の階段を駆け上がる。

 かつてワタシ達が暮らしていた部屋のある階層に着くと、遠くから銃声と爆発音が聞こえてきた。


 ただ事じゃない。

 何かがこの施設で起きている。


 ワタシはちょうど逃げてきた研究者を捕まえ、胸倉を掴み上げた。


「おい。何が起きている」

「おッ……前は……!? 何故生きて!?」


 苛立ちを込めて耳を引きちぎる。

 悲鳴を上げてのたうち回ろうとしたので、耳の傷跡に指を突っ込んで防ぐ。


「もう一度だけ聞く。今、何が、起きている?」

「ッッ……む、【ムラクモ】による襲撃が……!!」

「【ムラクモ】……?」


 聞いたことない名前だったが、どうやらどこぞの組織が襲撃を仕掛けてきたらしい。

 ワタシは研究者の首の骨を折って殺し、疾走を再開する。


 この教団がどうなろうと知ったことじゃないが、あの子と女研究者だけは別だ。この手で救い、殺すと決めた。

 遭遇した研究者数名から同じ手法で聞き出した結果、あの子の所在は分からなかったが女研究者の場所は判明した。


 ここから更に深部にある尖塔の3階で対策室を指揮しているらしい。

 ワタシが今いるのは地下3階。階数も違えば施設も違う。


「順路で追えば戦闘に巻き込まれる可能性が高いか」


 そう判断を下し、エレベーターへと向かう。扉をこじ開け、中のケージの天井を【カミカゼ】で吹き飛ばす。

 ケージが落ちる寸前でワイヤーを掴み、壁を交互に蹴って上に向かう。今の身体能力なら造作もない。


 やがて扉を蹴りで貫き、地上3階に降り立つ。

 この施設はどこまでも人体実験用であるらしく、地下とほとんど代わり映えはない。強いて言えば窓があるくらいか。


 突然現れた研究者達が騒然とするが、ひと睨みした瞬間蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 ワタシは窓を叩き割り、尖塔の場所を確認する。


 10時の方角。距離にして一キロ弱。


「フゥゥッ」


 窓枠に足をかけ、一気に跳躍する。

 凄まじい勢いで過ぎていく眼下の光景。大量の信者や傭兵達、それらと戦う魔導師らしき二人の女性。


 あれでは流石に多勢に無勢だ。勢いこそあるものの、直に片がつくだろう。獲物を取られる心配は必要なさそうだ。

 そんなことを思っている間に距離は潰れ、ワタシは尖塔3階の壁に叩きつけられるように着地した。


 窓を探し、蹴り割って侵入する。

 着地と同時に警備らしい武装信者にアサルトライフルを撃ち込まれたが、脳幹を吹き飛ばされようが止まらないワタシに意味はない。


 駆け抜けざまに後頭部を砕きつつ、対策室を目指す。

 通りすがりに研究者や信者共を殺し、廊下を駆け抜け、その途中でいいものを見つけたので拾い、そして一番人の気配が密集している部屋に突入する。


 瞬間部屋の中にいた十人ほどから銃を向けられたが、ワタシは視線も寄越さず一点を見ていた。

 ああ……やっと見つけた。生きていてくれて、心の底から安堵した。


「殺しにきたよ、下衆野郎」

「……この忙しい時に」


 殺せ、と命令が下される。

 嵐のような十字砲火。ワタシは挽肉にされる。


 で、それがなんだ?


「【カミカゼ】」


 自分ごとまとめて吹っ飛ばす。それで女研究者以外の全員が死んだ。

 ――だけどワタシは死なない。

 すぐに再生したワタシに、女研究者は憎々しげに舌打ちをする。


「失敗作風情が、まさか『神子』レベルまで達するとは……」

「そこまで追い込んだのはお前らの過失だろうに。失敗したねえクズ野郎。ワタシの妹達を殺した対価は払ってもらうよ」

「……チッ!」


 女研究者は身を翻し、更に奥の部屋へと逃げ込んで行く。

 だが、所詮は人間の魔導師ですらない研究者。容易く追いつき、背中を蹴り倒して動きを封じてやる。


「ねェ下衆野郎。お前は今どんな気持ちだ?」

「ッ……どういう意味だ」

「ただの興味だよ。あれだけ虐め抜いて、見下して、利用してたモルモットにこうしてマウント取られてる。そんな今の気持ちを、ほら、教えてくれよ」

「……臓物が煮えくり返っているとも」

「それは良かった。ワタシとお揃いだ――ねぇッ!」


 後頭部を掴み、顔面を床に叩きつける。

 意識が飛んだか抵抗する力が一気に減ったので、仰向けに転がし直して、顔に踵を落とし込む。


「があっ!?」

「……無様。傷つけるのはあんなに得意なのに、傷つけられるのは初めてかよ」


 弱い。

 弱すぎる。

 こんな相手にワタシは、妹達は利用され続けてきたのか。


 ……もういい。

 さっさと始めよう。


「よく聞け――ワタシは今からお前に苦痛を与える。ワタシが受けた苦痛の分、妹達が受けた苦痛の分、耳を揃えてその身体に返してやる」

「っ……!!」

「ああ、心配するなよ。ワタシの妄想じゃない。妹達の痛みと苦しみは全てこの身に継いでいる。勘違いの八つ当たりなんかじゃないから喜んで味わえ」


 淡々と話しながら、ワタシはあるものを取り出した。

 それはここに来るまでに拾ったチェーンソー。ワタシ達の体を数え切れないほど切り裂いた苦痛の象徴。


 研究者達が何度もやっていたようにリコイルスターターを引っ張ると、刃が回転を始める。

 その光景がどれだけ人に恐怖を与えるか、ワタシはよく知っている。

 知っているから、その刃を女研究者の耳元へと近づけてやる。


「ひッ……!?」


 チェーンソーと女研究者の距離が一センチを切る。

 恐怖に青褪めた顔の彼女に、ワタシは微笑みを向けた。

 

「人らしく死ねると思うなよ、人間」

「っ……ま、待て! やめッぎゃあぁぁあぁぁあぁあああッ!」


 片耳を優しく撫でただけで、女研究者は元気よく絶叫した。

 そんな体たらくでよくワタシ達にあれだけのことをし続けたものだ、と感心さえ覚える。


 そして、拷問の幕が上がった。


 とりあえず軽いところから、指を一つ一つ捩じり上げていくことにする。

 筋繊維を一本ずつ丁寧に千切っていく。やがて捻転に耐えかねた筋肉がぶちりと弾ける。気にせず続けると、骨の根元がボキボキと折れてぐんにゃり垂れ下がった。


 両手両足きっかり20本それを繰り返すと、女研究者は失禁した。

 ついでに気絶してたので、蹴り起こす。


 次は彼女が目をぎゅっと瞑って現実逃避しようとするので、お待ちかねのチェーンソーを使って目蓋を切り離すことにした。

 指で目蓋を摘み上げ、チェーンソーで1ミリずつじりじりとゆっくりと切っていく。

 実はナイフとかの方がやりやすいのだが、まあ出来ないこともない。こっちの方が怖いだろうし。


 両目揃って目蓋を剥がすと女研究者は血塗れの顔で泣き始めた。うるさいな。軽く眼球をチェーンソーの刃が掠っただけで大袈裟な。

 顔は切れると激しく出血する部位だし、人間の眼球はその程度でダメになるほどじゃないと、お前らが一番知っているだろうに。


 しつこく手で目を塞ごうとするので、邪魔な腕を肘から切り飛ばす。ついでに足も膝から切り落とす。

 どちらもそこそこ硬い骨だったが、そこはチェーンソーの面目躍如。ゴリゴリ削り、パキッと割ってやった。へえ、外道もそういう音だけは綺麗なんだな。


 そのままだと失血でショック死しかねないので、断面を潰すようにもう一度切り返す。

 血止めの切り方はこの身で何度も受けてきた。その経験は無駄にならず、出血はほとんど止めることが出来た。


 さて、ここからどうしようか。悩んで手を止めるのもアレなので、とりあえずその辺に落ちてたアサルトライフルから折り取った銃剣(バヨネット)を性器と尻にブッ挿しておく。

 あ、高温で熱するの忘れてた――気付いた時には後の祭りだったが、体を内側から切り裂かれる痛みや圧迫感に女研究者は口をパクパクと開閉している。


 ……まぁコイツ雑魚だからいっか。これだけでも充分苦しんでくれてるみたいだし。

 それよりいいこと思いついた。そうだ、あれやろう。


 ワタシは自分の指の第一関節から先をブチンッ! と噛み切る。意図的に再生を抑え、血がだらだらと溢れてくるのを確認してからチェーンソーで女研究者の腹肉、勢いあまって乳房を切り離す。

 テラテラと粘着質に光る臓物の群れを掻き分け、心臓を露出させる。


 どのくらいの力加減なら殺さず心臓に手を入れられるか、そしてそこにクスリを注入したらどうなるか。

 コイツらはワタシを使って散々実験してきた。


 ワタシは上手にできるかな?


「や……め……!」

「えい」


 ワタシは心臓に先っぽが欠けた指を強引に突き入れる。

 ズブズブと指が潜っていき、血管が次々と弾けていく。だが――女研究者は生きている。意識もある。


「内側からドロドロに溶けてしまえ」


 ワタシの血が――妹達を喰らって増強された禍力が、最凶最悪の毒素が――女研究者の血液と混ざり合った。

 その瞬間、変化は始まった。


「カッ! ……ァァア゛―――!」


 断末魔の絶叫。

 ジュージューと肉の焼ける音、その異臭。

 血色の悪かった白い肌がたちまちに濃紫色に染まっていく。


 その苦しみは並大抵の拷問とは比べ物にならないだろう。

 体が内側から徐々に溶けていく苦痛、不快感、恐怖。汚染された心臓は止めようもなく禍力を全身に送り続ける。止まるのは唯一死んだ時のみ。


「ぎ――……ゔぁああ……! ぐるッ、ぐるじいぃぃぃ……!!」


 案の定、女研究者はこれまでで一番元気に叫び、のたうち回っている。

 ……あぁ、分かるよ。この拷問は堪えるよね。痛いよね、苦しいよね。自分の体が液体に変わっていくのは、怖いよね。


 ワタシもやられたことがあるから、本当によく分かる。

 だからさ。


生き返ろうか(・・・・・・)、糞外道」


 言って、ワタシは女研究者と唇を重ねた。

 舌を噛んで血を出して、女研究者に飲ませる。


 すると、嘘のように爛れ落ちていた皮膚が元に戻っていく。

 ワタシの再生力を『共有』しているからだ。


 気付いた時には頭の中にあった『共有』の力の使い方。

 体液を飲ませた相手、もしくは体液を飲んだ相手と任意の能力を共有する。


 どういう原理なのか、どうしてこんな力が使えるのか――等しくどうでもいい。

 大事なのは、この力があればまだまだこの夢の時間を続けられるということだ。


「さ、死ぬまで遊ぼう?」


 だけど死ぬのはワタシじゃない。


「があああァァァァァァァァ!」


 女研究者は更に激しく絶叫する。

 灼いては再生し、灼いては再生し、灼いては再生し、灼いては再生し――その無限ループ。

 ガリガリと精神が削れていく音が聞こえてくるようだ。


 次第に動きが鈍くなっていく。

 元気に叫び回っていた喉は焼け、そもそもそうするだけの体力もなくなる。

 再生が禍力の汚染と侵蝕に追いつけなくなり始めたのだ。


 所詮ワタシは紛い物の失敗作。ワタシの再生力を完璧に『共有』することは出来ない。

 ただ、まあ、いい見世物だった。ワタシは満足だし、逝った妹達もきっと喜んでくれていることだろう。


 立ち上がり、『共有』を完全に解除する。再生による抵抗が消え、禍力がそれまでの鬱憤を晴らすかのように侵蝕を開始する。

 ワタシが眺めている前で、女研究者は一分とかからずドロドロに溶け落ち、鼻水のような粘液になって死んだ。


「あっけない」


 一言言い残し、ワタシは踵を返した。

 復讐は終わった。あとはあの子を見つけて逃げるだけだ。


 ああ、そういえば襲撃はどうなったのだろう。随分前から外で鳴っていた戦闘音は聞こえなくなっている。

 あの人数差だ、【ムラクモ】とやらはとっくの昔に鎮圧されたのだろう――


 そう思って窓の外を見たワタシは、絶句した。


「…………え?」


 凄まじい数の死体が転がっていた。

 見渡す限りの敷地に死体が転がっている。


 生きているのはたった二人。

 白衣を着た黒髪の女性と、喪服のような黒衣を着た白髪(はくはつ)の女性の二人だけ。


 まさか――たった二人だけで、あれだけいた信者を皆殺しにしたというのか……!?


 戦慄しながらもワタシは目を離せなくなっていた。

 そうしていると、地上にいる白髪の女性と目が合った。


 ――ゾクッッッッッ!!!!!


「うぁあっ!?」


 全力で窓から離れ、壁に背を預けてへたり込む。

 睨まれたわけじゃない。何か言葉を発したわけでもないし、殺意どころか敵意すら向けられていない。だというのに、体の芯から震えが止まらない。


 アレは――バケモノだ。ワタシと同じ、いや、ワタシなんかよりもずっとずっと恐ろしい……!


 萎えた足を無理矢理動かし、ワタシは駆け出した。

 もはや一刻の猶予もない。妹を連れて逃げ出さなければ。はやく、はやく……!


 女研究者との『共有』により、あの子の居場所は分かっていた。この施設の最上階にある天空大聖堂だ。

 非常階段を駆け上がり、ワタシは大聖堂に到達する。


 西日が差し込みステンドガラスが煌びやかな光を彩る、厳かで神聖な雰囲気の場所。不信心が祟って一瞬気圧されるが、意を決して踏み込む。

 よく見れば、この場所にも何人分かの死体が転がっていた。

 

 入り口にあった番人の斬首された死体が二つ。大聖堂中心に転がる煌びやかな衣装の男――女研究者の知識によるとコイツが教主らしい――のバラバラにされた死体。


 そしてそのすぐ近くに転がっていた、可憐な少女の小さな頭部。

 あの子の頭だった。


「…………!」


 狂気が押し寄せてくるが、胸を鷲掴んで耐える。まだだ、まだ狂うな。

 大聖堂内にある死体はそれが全てだ。つまりあの子の胴体はどこにもない。


 あの子はワタシと同じかそれ以上の再生力を持っているはず。その胴体がないということは……きっと生きている。そうだ、そのはずだ。

 あの子自身が逃げ出したか、それとも【ムラクモ】とやらが奪っていったか。教団の残党が持って逃げた……ということはないだろう。その第一候補たる教主はそこで死んでいる。


 遥か下の方から爆発音が聞こえる。戦闘音とは違い、非常に規則正しい。

 勝利した【ムラクモ】による施設の爆破が始まったのだ。あのバケモノに捕まったらワタシも殺される。


「……今は無理でも……いつの日か絶対に助け出してみせる」


 だから、それまで待っていて欲しい。

 ワタシは崩れ落ちる大聖堂の中で、そう誓った。





 そこから先は特筆するほどのことはない。

 爆発と崩壊に乗じて逃げ出して、たまさか同じように脱出していた女の研究者と出会った。


 女研究者ということでワタシはとりあえず殺そうとしたが、その女は慌てて身元を明らかにした。

 元TCTAの二等研究員。半年前に教団に誘拐され、技術提供を強要されていた。復讐に奴らの信奉していたパンドラを殲滅したいらしい。そのためにワタシの協力がいるとのこと。


 ワタシは妹を探すのに協力することを条件として、その話に承諾した。

 その女は他にも教団に攫われていた軍人や研究者や魔導師、果ては塔の機密プロジェクトの産物などを仲間にした組織を作り、行動を開始した。


 それからのワタシはこの体のデータの提供や、殺し屋のような汚れ仕事、組織の作戦への参加など命じられるままにやり続けた。

 あの子への想い、パンドラへの憎しみ、『結界装置』への憂いなど、様々な要素が絡み合って発足した新結界の創造プロジェクト。

 諸々の準備が整い、ついにあの子を見つければすぐにでも始動できるところまで漕ぎ着けた。


 そして五年がたった春のこと。

 MB事件なるクーデターが起こり、その最中(さなか)にあの子の反応をついに捉えることに成功した。


 足取りはそこでまた消えてしまったが、反応から塔に突入したことは分かっている。ならば事件解決の英雄とされる汐霧憂姫と一緒にいた可能性は高い。

 汐霧憂姫は捕らえるのは一任し、ワタシはそういった動きの陽動と、何より強くなるために魔導師殺しを重ねた。


 度重なる実験で他人の魔力を見ることが出来るまでイカれた眼球。少しでも食い出がある獲物を探す。

 魔力量の多い魔導師は強敵ばかりだったが、『共有』と無限再生による不意打ちのおかげで負けることはなかった。


 ワタシは繰り返す。

 人殺しを、人喰いを、繰り返す。

 連続魔導師殺人事件と名前がつくほどに。

 殺人鬼と軍から追われるほどに。


 そして――その果てに。


「……あーあ。外しちゃったか。楽に逝かせてあげたかったのに」


 日の沈みきった暗い路地裏。

 目の前に立つのはクサナギ学院の制服を着た学生(としした)青年(おにいさん)

 死角からのファーストアタックを見事避けてみせた青年に、ワタシはチェーンソーを向ける。


「ま、いっか。どうせ死ぬのはワタシじゃないしねー」


 そうとも。

 死ぬのはワタシじゃない。

 いつだって死ぬのはワタシの周り――人や、敵や、大切な人達だ。


「こんばんは、魔導師のお兄さん。巷で噂の殺人鬼だ。今から思いっ切り殺してあげるから、黙って死ね」


 ワタシは殺人鬼。

 誰かを殺すことが大得意な忌まわしきバケモノ。

 誰よりも死ぬべき存在で――だけど死ぬのはワタシじゃない。


 ワタシはチェーンソーのリコイルスターターを引っ張り上げた。

少女の過去編終わり!

長かったし辛かった!


次回決着。

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